04.11.07(SUN) | ローソク岩 | 西上州 |
尾根の広葉樹が葉を落として山が明るくなり、また低山歩きのシーズンが来た。別にローソク岩に行きたかったのではなく、本当はまだ行ったことがない兜岩山へ行くつもりで一人で出かけた。ところが何時も車に積んでいる登山靴を、たまたま降ろしたまま積むのを忘れてしまった。荒船不動の登山口に着いたら登山靴が無い。いよいよボケも極まった。(と帰ってカミさんに言ったら、前もあったじゃないと軽く言われてしまった。昔からかぁ・・・) 仕方がない。途中のピーク、御岳までは何度か歩いて様子が分かっているし、天気もいいので何時も履いているタウンシューズのまま、行けるところまで行ってみることにした。予想通り御岳までは問題なかったが、伏兵はローソク岩で、当てにしていた巻き道も、一部断崖の上の狭い岩尾根を登らなければならず、あきらめて孫ローソクと子ローソクの間の断崖の縁まで行って、南牧の立岩を覗いて帰ってきた。 | |
コース:荒船不動9:45→星尾峠10:25→御岳11:00→ローソク岩11:20-11:30→御岳分岐11:45-11:55→近道分岐12:05→荒船不動12:40 (所要時間2時間55分) 内山トンネルを抜け内山大橋のすぐ手前を左折して林道に入る。舗装された狭い林道を沢沿いに走り、別荘地を抜け、用水地を右に見て、荒船不動まで入る。 駐車場:荒船不動のすぐ下に15〜6台は停められそうな駐車場がある。トイレは荒船不動にある。 |
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内山大橋付近から兜岩山 |
今年はあちこちで熊騒動が起きている。前に御岳の尾根のどんぐりの木の枝が、手繰り寄せられて折られ熊棚になっているのを見たことがあるので、ちょっと気になった。熊に出会って大怪我をしたと言うニュースも多いので、一人ではやはり怖い。盛大に鈴を鳴らして登ることにした。 しかし、大怪我をされた方には申し訳ないが、射殺された熊の映像を見るのはつらい。追い詰められた小熊や、人の家の中で昼寝する熊、カメラを意識しながら人の庭の柿の木で柿を食べる熊、肥溜めや堀に落ちて出ることの出来ない熊、どうしてこんな事になってしまったのだろう。月の輪熊は人を恐れ、人の気配を知れば身を隠す気の弱い野獣ではないのか。国土の70%が山地だと言うこの日本に、わずかな熊たちや弱いもの達が、ひっそりと住める安住の地はないのだろうか。私はあの熊の眼を正視出来ない。私もあの熊の絶滅に間違いなく力を貸している。 |
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林の中に最近?整備された駐車場 | ひなびた雰囲気の荒船不動 |
別荘地から歩いてきたのだろうか、途中車で追い抜いてきた若い男性二人と女性、それに男性の背中にアルミの背負子で背負われた、まだ1〜2才程の赤ちゃんの4人連れに駐車場で追いつかれた。早いなあと感心する。軽く挨拶してどんどん登って行ってしまった。私は荒船不動でトイレによったり、写真を撮ったりしてからゆっくり登る。 古い立派な案内板を過ぎると、早速真新しい”熊に注意”の看板があった。鈴を取り出して下げる。ブルーシートを広げて振ると熊が逃げると以前テレビでやっていたので、代わりにハイキングシートをザックのポケットに入れた。出てきたら振ってみるつもりだ。道は降り積もった枯葉でふかふかで、唐松の落ち葉が音もなく降っていた。 20分ほど登ると前で話し声が聞こえて4人組に追いついたようだ。休憩していて歩き始めた所だった。私もそこで休憩することにした。”鈴の音ってヤダね。追い立てられているような気がするよ” 前を歩き去っていく男性の一人が言っているのが聞こえた。あーあ嫌われちゃった。あんな赤ちゃん連れて熊怖くないのかなぁ・・・ |
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星尾峠への道 | 星尾峠から見た経塚山 |
爽やかな風が吹きぬける星尾峠は、ちょっとした切通しになっていて誰もいなかった。若い4人連れは流石に早く、星尾峠でも休憩したはずだが、もはや声も聞こえなかった。経塚山のほうへ向かったようである。星尾峠からは目の前に南牧の立岩の岩峰が見えるが、雑木の枝にさえぎられて今一である。 ひと休みして御岳への尾根を辿る。分岐で後から登ってきた同年輩のご夫婦と遇う。彼らも鈴を鳴らしていた。鈴も何種類かあるようで、彼らのはスイスあたりのカウベルのような少しつぶれた肉の薄い鈴で、どちらかと言うとカランカランといった低い音で、良く通る気がする。私のは真鍮の鋳物で、教会の鐘のような形をした鈴で、チリンチリンといったお遍路さんの鈴のような、か細い高い音色で、どうも音の通りはあまりよくないように思う。その後カランカランという鈴の音に追われることは無かったので、彼らも経塚山へ向かったようである。 |
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御岳山頂 | 御岳山頂から見た荒船山(経塚山) |
星尾峠から御岳へ向かう尾根道は小さなピークをいくつか越して行くが歩きやすい道である。雑木の枝に囲まれていて、立岩、荒船山、浅間などが木の間越しに見えるが、さえぎるもの無くすっきり見える場所は一箇所も無い。一つのピークの上で5〜6人ずれの同年輩のグループが休んでいた。私は休む気は無かったので失礼して先を急いだが、彼らの私の足元を見る視線がやはり気になった。 荒船不動へ下る近道の分岐を過ぎて、ちょっとした急登の上が御岳への分岐で、右の尾根の先の崖の上が御岳山頂である。木曾の御嶽山の方向を見つめる銅像が建っている。昔の山岳信仰の名残ということである。 御岳でひと休みして分岐に戻る。分岐には案内があって田口峠に至ると書いてあるが、ローソク岩も兜岩山の名前も無い。田口峠方向は急な下りになっていて道の先は見えない。兜岩山だけが頭にあって田口峠が頭に入っていないと、この急坂を下るのは勇気がいる。とんでもない所へ行ってしまいそうな気がする。思い切って下ってしまえばローソク岩の孫ロウソクと子ローソクの間の、一方に切れ落ちた断崖の上まで登り返すのにそれほど時間は掛からない。 |
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冬の尾根道 | 御岳分岐からローソク岩 |
その断崖の上で巨大な三脚をすえて立岩を撮っている同年輩のカメラマンに出会った。とにかく道はカメラマンと三脚だけで一杯だから、足元からのぞかせてもらって”うわー!すごい景色だな”と言うと、”今朝はガスが流れてもっとよかったよ”と言う。佐久側の地元の人で、毎年のようにここまで来ているそうだ。今年は立岩周辺の紅葉の赤が少ないという。孫ローソクを指してその上から浅間が良く見えるよと教えてくれたが、足元が頼りないので登らなかった。 兜岩山への道を聞くと狭い岩尾根を指してそこを登ると言う。ちょっとタウンシューズでは無理と判断してあきらめた。最近も大学の先生が行方不明になって、学生がずいぶん来て探したが見つからなかったそうだ。この場所が最高で先へ行っても藪ばかりで面白くないよ。と慰めてくれた。遭難してもここは携帯が通じるから助けてもらえるよ、とも言ってくれたが、考えたら携帯も車の中に忘れていた。処置なし。 彼も熊よけの鈴は嫌いらしい。俺は地元で何度もこの山へ来ているが、鹿は居るが熊には遇ったことは無いと言う。夜明けからの写真を撮るために暗いうちから一人で登るが、闇の中から聞こえてくるそのチリンチリンという鈴の音の方がよっぽど怖いと言う。そうかもな。でも私は鈴の音でも聞こえた方が、人が居るのが分かって心強いと思うが、感じ方は色々だ。僕が熊棚の話や、鼻曲山で熊に出会った話をしたら、熊が出たらこれで戦うんだと、伸縮式でない頑丈そうなスキーのストックを2本見せてくれたが、ちょっと太刀打ちできないだろうな。 |
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御岳分岐 | ローソク岩から立岩の展望 |
一足先にローソク岩を後にし、御岳分岐に登り返してひと休み、食事にしていると、先ほどのカメラマンがザックの他に重そうな三脚を胸につるして、ダブルストックでゆっくり登ってきた。”大変だね”と声を掛けると、これでなきゃブレちゃうんだよという。じゃこんなの全然駄目だねと腰のデジカメを見せたら、記念撮影ならいいけど俺はコンテスト用に撮ってるからという。デジカメはまだ使えないとか、定年で会社辞めてから写真始めても駄目だな、遅くとも40歳くらいから始めないと上達しないと言う。写真なんか誰がやっても写るようだが、見る奴が見りゃあ差があるんだよという。やぱりボケてない頭と体力や情熱が必要なんだな。きっと、きり絵だって同じだろうなと思う。最近は女性が増えたよという。センスが良くて題名なんか付けるのうまくて、とてもかなわないそうだ。うん、思い当たるよ。そう言えば先日の谷川岳でも、同じように大きな三脚を胸に抱いて登ってきた女性に会ったよ、といったら”美人だったろう”という。谷川岳撮ってる有名な女性が居るそうだ。”美人にゃかなわねえ” とまた泣いた。コンテストの選者は大抵男だからな、女はおしゃべりだし、平気で何度も選者の教室や、撮影会や、個展に押しかけてゆくし、”歯が立たねえ”そうだ。どうやら何度か苦杯を舐めているようだ。まあ自分が満足するものを撮るっきゃねえな、いいものを真似ようったって、そう簡単にはまねも出来ねえよ。と言っていた。そうだな、参考になったよ。 彼が落葉を撮ると言うので邪魔しないよう荒船不動への近道を先に下ってきた。初めてここに来た頃、ここは春はヤマウドやタラの芽を採ったり、秋にはチョウセンゴミシの赤い実がなる開けた植林地だったが、今はその木が育って、唐松の黄葉が綺麗な見通しの効かない森になっていた。 |
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