大気拡散ノート 鈴木秀男 |
アクセス数
最終更新: 2007年2月14日主な更新歴 ・ 07.02.12: 当面の掲載見込み状況(2007年2月) ・ 06.07.04: 大気拡散の計算過程の精度(その3) ・ 06.02.04: 大気拡散計算の精度について、掲載開始 ・ 06.02.04: 開設 ADCのホームページへ戻る ADCの解説ページへ ADCと関連した有料計算サービスへのリンク 作者へのEメール |
大気拡散ノート
鈴木秀男
□ 大気拡散について基本事項の解説等の入門的な内容から問題点まで幅広くいろいろな事を、不定期に少しづつ掲載する予定です。
内容は環境アセスメントにおける大気拡散の計算を中心とします。
大気環境問題や環境アセスメントに興味をお持ちの方、関わる方の参考
になり、さらに大気環境の理解と適切な対策の検討に少しでも役立つ
ことを願っております。□ 大気拡散は難しそうだと思っている方も、また一通り知っているという 方も時々このページをご覧いただけれ幸いです。 □ このWEBページの方針は下記のとおりです。 ○ 環境アセスメントや地域環境問題における大気拡散の計算を中心とする。 ○ 記事の性格は、入門的な事項からやや特殊な事まで。マニュアルに書いて あること・書いてないこと。作者の提案等々。 ○ ADC(大気拡散簡易計算プログラム)との関連に配慮する。 □ ご感想・ご意見・ご質問を是非お寄せください。 作者は環境アセスメントの実務に携わっておりますが力は限られております。 異なるご意見・ご批判もお願いします。 迅速に返信するとは限りませんがご容赦お願いします。 なお、いただいたメールのお名前・アドレス・ご所属またはそれらが推測される記述を 無断で公開することはいたしません。 □ 当面予定する話題は次の二つです。 (1)大気拡散計算の精度と信頼性(早くて2006年の終わりころまでの見込み) (2)大気拡散とその計算の基本事項(大気拡散とは、等) □ このWEBサイトへのリンク・引用をなさる時はご連絡ください。 □ このWEBサイトの内容は、作者の著作物であり、 作者は著作権を有します。 |
凡例: #付きの番号は掲載順の通し番号、( )内は掲載年月日です。 |
#001 (06.02.04) 大気拡散計算精度の記事について 事業の計画にあたって大気拡散計算を行う場合、適切かつ正確であるべき なのは言うまでもないが、これを実現または維持するにはそれなりの態勢(システム)が 必要である。 必要な態勢の内容は多岐にわたるが、 ここでは大気拡散計算の精度の一端を関係する方々にご理解いただくことを目指し、 検討を行うことにする。 |
#002(06.02.19) 大気拡散計算の精度の要因 大気拡散計算の精度はどの程度か、次の3要因に分けて考える。 (1) 計算過程の精度(計算方法、計算条件を適切に決定したことを前提とする) (2) 計算方法・計算条件の選択による差異 (3) 計算方法(予測手法)自体の特性による精度 以下の検討では、固定発生源の煙突による長期平均濃度を主とする。 |
#003(06.03.19) 計算過程の精度(その1) 以下では話が複雑になり過ぎないように、次の条件(a)〜(i)全てを満足する場合に限定する。 (a) 長期平均濃度の計算を対象する。 (b) 発生源は固定発生源であって、煙突高さは地上から10m以上とする。 (c) 排ガスの温度は100度C以上とする。 (d) 予測点の高さは地表1.5m以下とする。 (e) 窒素酸化物総量規制マニュアル[新版](文献1)の標準的な計算方法を採用し、 プルーム式、パフ式を使用する。 (f) 両式とも一つの風向内で濃度が一様とする式とする。(注1) (g) プルーム式の鉛直方向拡散パラメータσzは同マニュアルのPasquill-Giffordの近似式による。 (h) 前項で大気安定度A-B、B-C、C-Dについては近似式の記載がないが、前後の安定度の拡散パラメータσzを計算し、それらの相乗平均とする。 (i) パフ式の拡散パラメータは同マニュアルの「無風,弱風時に係る拡散パラメータ」の表による。 NO2は大気拡散と別に化学変化の問題があるのでここでは検討対象から除外する。 細かい条件もあるが、(e)(f)(g)(i)は国内のアセスメントの多くで採用されている。 (h)についてはこれと異なる計算方法もあり得る。 上記以外の条件でも、以下の検討は参考になると思われる。 長期平均濃度の計算は、気象データの集計結果を利用して行われるが、 ここでは気象データの集計は既に行われていることを前提とする。 したがって、以下の検討では排ガスの上昇、風速の高度変換、プルーム式・パフ式による濃度の計算、 気象条件の重み付き平均の計算過程の精度を問題とすることになる。 相対誤差の絶対値Eaは、厳密な計算による濃度計算値をC0、 精度検討対象の計算濃度をCとし、次の式で定義することにする。 E=(C−C0)/C0 (1) Ea=|E|、 (ただし、| | は絶対値を表す。) (2) 注1. 「一つの風向」とは、全方位を16分割した一つであり、例えば北は真北の両側各11.25度、合わせて22.5度の範囲である。 長期平均濃度の計算では通常一つの風向内で濃度が一様とする式を使用する。 |
#004 (06.4.24) 計算過程の精度(その2) Eaの上限(範囲)は水平風下距離に依存して複雑に変化するが、下記の特徴がある。
0.5≦R/Rmax≦2 (3) C/Cmax≧0.1 (4) ただし、Rは水平風下距離、Rmaxは最大着地濃度距離、Cは濃度計算値、Cmaxは最大着地濃度計算値とする。
Eaの上限について「できる」と表現したのは、コンピュータプログラムで計算し、端数処理や特に精度が 悪くなる操作しなければ、特別に精度を高くする手段なしで実現可能と言う意味である。 境界距離に該当するかどうかの基準は、プログラムによって異なるので一概に言えないが、 多くの場合該当する可能性があるのは±0.01m以内であろう。 ADCでは該当する可能性があるのは各境界距離の±1E-6(注2)倍以内(例えば1000±0.001m)である。 [条件1]では計算過程のランダムな小さい誤差が集積した結果で誤差が決まり、 上限は最悪条件の値を表すものである。Eaの標準偏差は上限値の数分の1以下になり、 したがって、多くの場合Eaは上限値の数分の1以下になるはずである。 [条件2]ではσzを求める計算で境界距離前後どちらの近似式を使うかによって濃度計算値が異なるもので、 評価対象の計算と基準となる計算で使用する近似式が一致していれば濃度の差異が発生せず、異なれば差異が発生する。 差異が発生する場合は最大でEaの0.01の桁に相当する濃度の差異となり、 差異が発生しない場合のEaの上限は[条件1]と同じである。 差異が発生する場合でも、どちらの値が正しいとは言えず、一方に誤差があるとも言えないが、 便宜上誤差と言うことにする。(注3) [条件2]でも上限値は条件が最悪の場合の値であり、多くの場合Eaは上限値の数分の1以下になり、 上限値に近い値が発生することはあまり多くない。境界距離に関係してEaが大きいと疑われる 場合は、境界距離前後少し離れた地点でEaを調べれば判断材料が得られる。 注1. (最大着地濃度): 地表(便宜上地表付近も含める)の濃度は発生源からの 水平風下距離によって変化するが、その最大値を最大着地濃度と言う。 本稿では最大着地濃度が発生する水平風下距離を最大着地濃度距離、その地点を最大着地濃度地点と言うことにする。 付記: 計算方法・計算条件の選択による差異および計算方法(予測手法)自体の精度は、 今回記載したEaの上限よりかなり大きいのですが、これについては何回か後に掲載する予定です。 |
#005 (06.7.4) 計算過程の精度(その3) 前回記述したのEaの上限の根拠を以下に説明する。 議論はコンピュータ技術に関する細かい検討が多いが、分かりにくい部分は読み飛ばしても後の議論の理解にはあまり問題ない。 計算は計算機を使うことを前提とし、計算機の種類はポケットサイズの計算器(いわゆる電卓)、パソコン、パソコンより高性能な計算機のどれでも良い。 計算に使用するソフトウェアはBASIC、FORTRAN、C等で作成したプログラムでも表計算ソフト(Excel等)でも良い。 普通の使用条件では有効数字は十進記法7桁相当ないしそれ以上あり、例えば4バイトの浮動小数点記法(SINGLEと表示されることもある)では通常は十進記法7桁相当のデータを保持し、相対誤差は±1.0E-6(百万分の1)以内である。 地表濃度を求める計算に、相対誤差が1E-6以下の数値で乗除演算を50回行うとし、全演算で誤差が同じ方向に集積すると仮定すればの相対誤差は±5.0E-5以内である。 演算の誤差は向きも大きさもランダムであるので、誤差の標準偏差はその数分の1以下になる。 この他に誤差が大きくなる可能性が考えられる要因が二つある。第1は、二つの正(または二つの負)数の減算、正数と負数の加算がある。これらに該当し問題となる操作は次の二つである。 (a)排ガスの熱浮力による上昇の計算において、上昇排ガス温度については100度C以上に限定し気温を15度とし、両者の差を取る演算による排ガス上昇高さ計算誤差への影響は 元のデータの相対誤差の1.2倍以内と小さい。 (b)有効煙突高さと計算点の高さの差(He-Z)については、He≧10かつ Z≦1.5に限定すれば影響は(a)と同程度に小さい。 (Heは有効煙突高さ、Zは計算点の高さ)(a)(b)合わせて相対誤差は±2.4E-6以内である。 第2の誤差が大きくなる要因は、指数関数(EXP)ファクタであり、(He±Z)/σz>2ではHe±Zとσzの誤差を拡大する効果がある。 C/Cmax≧0.1、0.5≦R/Rmax≦2という条件下ではこの誤差の拡大は10倍以下である。(σzは鉛直方向拡散パラメータ) 以上の検討から、通常の四則演算の誤差5.2E-5と指数関数ファクタの誤差拡大効果10の相乗的な影響を考慮して余裕を見込み、 [条件1]ではEaの上限は1.0E-3以下にできることになる。 前述の乗除演算による誤差の標準偏差の考察と、濃度の計算においては複数の風速階級・大気安定度の寄与を合成することを考慮すると、 Eaの標準偏差は上限の数分の1以下になる。 風下距離の境界距離はプルーム式の鉛直方向拡散パラメータの近似式が切り替わる境界であり、窒素酸化物総量規制マニュアルの Pasquill-Gifford図近似関係の表を使用する場合は、300、500、1000、2000、10000mである。 境界のどちらの近似式を使うかで拡散パラメータが最大0.52%変わることがある(大気安定度と境界距離の組み合わせに依存し0.013%〜0.52%)。 これと指数関数ファクタの誤差拡大効果の相乗的な影響(単純に0.52%×10ではなく、それより少し小さくなる)に、若干の余裕を見込み、 [条件2]ではEaの上限は5.0%以下にできることになる。 この値は単一の気象条件によるプルーム式の最悪条件の場合であり、 さらに、濃度の計算においては複数の風速階級・大気安定度の寄与を合成することで最悪条件が他の条件で薄まることを考慮すると、 Eaは多くの場合に上限の数分の1以下になる。 また、多くの悪い条件が揃って上限値に近い値が発生することは比較的稀なはずである。 計算過程または計算手段の正確さをチェックする目的の場合は、境界距離を避けるか、または前後の近い距離もチェックする方が良い。 パフ式に関しては境界距離の問題は存在しないので、パフ式の寄与が優勢の場合は[条件2]でも上記より誤差は小さい。 境界距離で誤差が大きくなる場合があるという問題は、近似式の精度を上げれば改良可能であり、将来の検討課題とはなり得るが、 これは予測マニュアルの変更にあたるので、ここでは立ち入らない。 付記: 前回の記事掲載から2ヵ月ほどお待たせしてすみません。 当面の掲載見込み状況(2007年2月) |
#00_ (__.__.__) 計算過程の精度(その4) (予定) |
ページの最初へ
大気拡散ノート 作者:鈴木秀男
|