あいち国際女性映画祭 2004

2004・9・12 常滑会場
氷雨
監督:キム・ウンスク
キャスト:イ・ソンジェ キム・ハヌル ソン・スンホン


多謝 Honeylang Japan  そして一緒に鑑賞した皆さんに感謝

なんて真面目な映画なのかとびっくりする。
語れば語るほど嘘をつかなければいけないことに耐えられないからか、妻がありながら女子大生キョンミンと付き合うジョンヒョンは
多くを語ろうとはしない。
友人に黙って一人暮らしを始めるキョンミンも、おそらく同じ理由から友人と距離を置こうとしたのだろう。
キョンミンにもジョンヒョンにも遊びの香りは少しもなく、明るい未来はないことは判っていても、自分たちの恋に真剣に向き合おうとする。
妻ある男性を愛するキョンミンを心ならずも罵ってしまうウソンも、野球青年らしく素直な愛情を幼馴染のキョンミンに示そうとする
だけなのだ。

主演三人がそれぞれ見せる横顔の美しさにもびっくりする。相手を正面から見つめようと努力するも、結局は相手の横顔ばかり
見つめることになる。恋に真面目であろうとすればするほど辛くなる。
各々が前を真っ直ぐ見据えるその姿からは、生真面目であること、誠実であろうとすること、それだけでは手に入れられないことが
あると判っていながらも、そうすることしか出来ない三人の辛さが伝わってくる。
そして結局三人は最後までその生真面目さを貫き通すのだ。
そんな生真面目な恋が、神々しい美しさをたたえたアラスカの雪山を舞台にゆっくりと語られていくのだ。


上映後キム・ウンスク監督のトークイベントがあり、撮影中の苦労話や主演キャスト三人に対する印象などを聴くことが出来た。
質問に対し、言葉を選び丁寧に答える様子は、映画の持つ生真面目な印象そのものだった。
やはり人柄は作品に表れるのだろう。しかしその生真面目な感じは時として優等生然としてしまい、遊ぶことを許さないもの
になってしまうような気がする。
次回作には女性監督だけのオムニバスホラーを予定しているのだという。
今度は生真面目さを残しつつ、遊びの部分を感じさせながら、人の心の暗い部分を描いてくれたらと思う。
そんな怖い作品が見られることを楽しみにしている。

「一ソン・スンホン(宋承憲)ファンとして・・・・」
愛する女性への想いを胸にひめ、雪山に立つスンホンはやっぱり男前だった。
そして男前であればあるほど、生真面目ゆえの寂しさや、愛する女性に伝え切れなかった言葉を心に残す辛さが胸に痛い。
「生真面目さと男前になんの関係がある?」と言われそうだがファンとはそういうものだ。

日本語では色っぽい香りの一つもないが、親不知がこんなにも愛に溢れたものだとは思わなかった。
親不知が生えてくるかどうかは、歯のレントゲンを診ればほぼ100%予想が付くのだという。
「親不知が生えてくることは100%ない」と歯科医で太鼓判を押されたことを思い出し一抹の寂しさを感じたりする。

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DVD鑑賞時の感想を参考までに・・・・
自分で書いておいてなんだが、かなり辛口コメントに今更ながらびっくりする。

2004・3 韓国版DVDを鑑賞
(字幕なしの視聴ゆえ、かなり大雑把な感想なことをご了解いただければ・・・・・)

技師→カン・ジュンヒュン(イ・ソンジェ)
女子大生→キョンミン(キム・ハヌル)
大学生→ハン・ウソン(ソン・スンホン)

交わっても混じることなく終わっていった3つの愛。

山岳サークルで先輩後輩として出会うジョンヒュンとキョンミン。二人を結びつける劇的な出来事が起こるわけではないが、
自然にひかれ付き合いはじめる二人。このあたりはかなりあっさり描かれているが、それはかえって自然でいいのではないかと思う。
不倫だからといって別に大袈裟な出会いである必要はない。特にキム・ハヌルにこれ見よがしに狂おしい愛に悩む女性を演じさせても、
観る者は居心地の悪さを感じるだけであろう。外見からはそんな恋に悩むとは思えない彼女が親にも友人にも明かせない恋に静かに
落ちていく様を淡々と描くほうが、彼女の感じる決意の深さを見ているものが想像することが出来るはずだ。

反対にイ・ソンジェ演じるジュンヒュンには、妻以外の若い女性との恋に悩む寂しさをもっと感じさせて欲しかったと思う。
冒頭彼が一人雪山に佇む際に見せる寂しそうな笑顔の下になにが隠されているのか、それを感じさせるものがあってこそ、
後半突然訪れる雪山での出来事に上手く繋がっていったのではないかと思う。(このあたりはイ・ソンジェの演技云々でなく
もうすこし上手い編集があってもよかったのではないかと思う。)
何故彼が又一人雪山に望むのか、映画のコピーにも使われている「そこに行けば なくした人に逢う事が出来る」
それをもっと観ている者に強く感じさせるものが足りず、逆に淡々と描かれすぎていてちょっと物足りない。

それに対し、ソン・スンホン演じるハン・ウソンが若さ故の真っ直ぐな気持ちで山に臨もうとしているのが、よくわかる。
自分の幼さ、若さ故捕まえることのできなかった愛を確かめに行くというわかりやすい行為であるため、観ている者には
彼の心の動きが想像しやすいのだ。スンホンも好演だと思う。若さ故の真っ直ぐさが強調される役柄であるゆえ、まだ深み
を感じさせるまでにはいっていないのが残念だけれど、次に繋がるものは充分に感じさせていると思う。

3つの愛の触媒として雪山が存在したはずなのに、雪山の場面があまりにもただただ綺麗であっただけだったため、
混じりあう予感を感じさせつつも結局交わっただけで終わってしまったことに、物足りない気持ちだけが残ってしまう。
三人の出演者各々の演技がよかっただけに本当に残念だ。

雨のようにただ単に流れていく訳でもなく、雪のように白く積もる訳でもなく、雨とも雪ともはっきりしない冷たいもの。
氷雨とは結局混じることなくすれ違っていった冬を想像させるにはぴったりの上手い題名だと思う。

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