現金輸送荷物車<マニ30>のアンテナに関する一考察

 その用途の特殊性から、幻の荷物車であった日本銀行所有のマニ30が引退し、小樽に展示さ

れることになったというニュースをご覧になった方も多いことと思います。かくいう私もマニ

30には興味がありました。車両そのものもそうですが、無線好きならば屋根の上に乗っている

アンテナ群にも… そのアンテナ群の中で異彩を放っているのがループアンテナです。そのエレ

メント長から短波帯の警察無線用?ではないかとも言われています。しかし本来の用途は闇の中

です。

 そこで今回ネット上などに掲載されているマニ30の画像を参考にさせてもらい、アンテナの

エレメント長を算出して、周波数帯から使用用途を推測してみることにしました。

 算出は以下のような方法で行いました(全長などの数字はネット上掲載の値です)。

(1)マニ30の全長は21.3m(21300mm)です。アンテナ長を算出するにあたり、

  大きさの比較対象として屋根上のベンチレーターを選びました。この大きさをまず推測して

  みることにしました。側面画像の長さ(PCの画面上)からその比率で大きさを算出します。

  図1はPCの画面上の寸法を測定した値です(画像には著作権があり掲載できないため、絵

 を描いてみました)。

       

         図1.画面上で測定した全長およびベンチレーターの寸法

  実際の全長は21300mmなので:21300÷179=119 よって画面上の寸法を

 119倍すれば実車の寸法に近い値になると思われます。

  そこでベンチレーターの実寸法は:6×119=714mm よって、ベンチレーターの長

 さは約0.7mと推測できます。

(2)次にベンチレーターとループアンテナが同時に写っている画像から、アンテナの全長を推

  測してみます。画面上の寸法は、以下のようになります。

図2.アンテナ長さ

  ベンチレーターの実寸法が分かっているので:714÷34=21 画面上の長さを21倍

 します。よってループアンテナの長さは:108×21=2268mmという値が求められま

 す。

(3)ループアンテナには幅の寸法もあるため、これらも画像の大きさの比率から推測してみま

  した。

      図3.ループアンテナの幅

  以上の計算から、アンテナのエレメント長さは約5000mm(5m)と推測しました。

 下の図はエレメントを伸ばして見た時のアンテナ長です。

 図4.エレメント長さ(伸ばした状態)

(4)次にエレメントの長さから、使用周波数帯を算出してみます。

  電波の波長は:300/λ=1波長の値 で求められます。今回エレメントの長さが求めら

  れているので、300/1波長の値=λ(周波数)で求めることができます。

  よって:300/5=60 使用周波数は60MHz帯であると推測できます。

  この値は1波長分の値です。実際には1/2λ相当のアンテナとも考えられるので、30M

  Hzの使用周波数帯である可能性もあります。

(5)該当する周波数帯(及びその周辺の周波数)に使用可能な割当てがあるか、周波数帳

 (1997年版)にて調査してみることにしました。その結果以下のような割当て(音声通話

  可)があることが分かりました(電波型式はFM,出力50W)。

周波数(MHz)

割当て原則

周波数(MHz)

割当て原則

周波数(MHz)

割当て原則

31.7300

JR各社(全国)

55.5800

JR各社(全国)

57.7700

JR各社(全国)

55.4000

JR各社(全国)

57.6800

JR各社(全国)

60.9800

信越・東北管内

55.4300

JR各社(全国)

57.7100

JR各社(全国)

 

 

55.5500

JR各社(全国)

57.7400

JR各社(全国)

 

 

  いずれも国鉄時代に割当てられた周波数ですが、使用頻度などについては一切不明とのこと

 です。ちなみに警察には現在30MHz,60MHz帯とも割当てはありません。昭和30年

 台には30MHzの周波数帯を警察でも使用していた為、当時から使われていた車両であれば

 アンテナが使用されていた可能性も考えられます。しかし、寸法を推測した車両は、昭和53

 年頃に製造されたものなので、その可能性は低いと思われます。

  引続きその周波数帯の周辺に見落とした割当てがないか確認したところ、上記30MHz帯

 よりさらに低い26MHz帯にJR,警察の割当てがあることが判明しました。

 アンテナ長と周波数帯の関係から見るとややミスマッチなような気もしますが、アンテナ長の

 計算結果に誤差がある事は十分考えられるため、以下に掲載します(電波型式はAM)。

 (以下の周波数はアンテナが1/2λ相当の場合使用の可能性があります)

周波数(kHz)

割当て原則

周波数(kHz)

割当て原則

26333.0000

JR用/JR各社

26452.0000

警察用全国

26366.0000

JR用/JR各社

26458.0000

警察用全国

26434.0000

JR用/JR各社

26464.0000

警察用全国

  これら割当て周波数の出力は1Wまで許されています。短波帯のため、弱い出力でも遠距離

 交信できる可能性はありますが、電離層の状態等に影響されやすいため、安定した交信が出来

 るかやや疑問です。よって常設の通信手段にはなり得ないと考えます。

 ちなみに上記の周波数帯には、日本銀行に割当てられた周波数は無いようです。

<まとめ>

  以上のような結果から、私はアンテナの使用用途を以下のように考えます。

 (1)該当周波数帯に警察無線の割当てがないことから、警察用のアンテナではないと思われ

   る(最近の運用では可搬形の無線機UW−110又はWIDEシステム等を使用していた

   と思われる)。

 (2)該当周波数帯にJRに割当てられた周波数が存在することから、その用途のアンテナで

   はないか。

 (3)列車無線用のアンテナとしてBタイプアンテナも屋根に取付けられているため、バック

   アップ的な用途に限定か?もしくはBタイプ無線が導入されていない地域で使用か?

   しかしそのような地域では、Cタイプ無線を使用するはずだが…?

 (4)26MHz帯にJR,警察に周波数の割当てがあるが、電波の出力が小さいこと,電離

   層等外的な要因に交信が左右されやすと思われることから、この周波数は使われていな

   かったと考える。

  本来必要ないものであれば(使用していなければ)、撤去される可能性が考えられるので、

 運用末期まで補助的役割は担っていたと思われます。

  ネット上の画像から、屋根上に設置されたループアンテナの使用用途を推測してみました。

 屋根上にはまだ他にもアンテナが設置されています。今年夏北海道へ行きますので、是非小樽

 交通記念館へ行って実物のマニ30を確認したいと考えています。

  最後にマニ30の画像を掲載しておられる皆様、参考にさせていただきどうもありがとうご

 ざいました。

 <おことわり>このレポートは横浜006が、マニ30に設置されているアンテナ群と無線

  通信への興味などから、調査した内容とその結果に対する考察をまとめたものです。

  よって実際の用途と異なる場合が多々あるかもしれません。その時はご了承下さい。

 追伸:某掲示板によると、小樽交通記念館に展示されているマニ30からアンテナ類が全て撤

   去されているそうです。防犯上のため,再利用のため?等いろいろ考えられますが、非常

   に残念なことです。楽しみ半減?といったところでしょうか…

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