本船用アンカー
 世界には、帆船で多く使用されていたストックアンカーと、汽船と共に普及していったストックレスアンカーがあり、その形は様々で多種多様なアンカーが開発されました。ここでは、その中のほんの一部ですが、代表的な本船用アンカーについて説明していきます。

錨の名称 説明 写真
ストックアンカー
Stock Anchor
 昔は本船でも多く使用されていたが、現在では古いタイプの帆船や港湾作業を行う船などが使用している。鉄の錨が作成された当時から同じ形をしており、最も古いタイプの錨となる。この錨は使用場所や用途によって様々な名前が付けられている。この錨の爪の形(平爪)が世界中で開発される錨の基本原理をなしている。
 特徴:ストックと爪が直交しており、必ず片方の爪が下を向くようになっている。下の錨は、ストックが抜けるようになっており、曲がった部分をシャンクに引っ掛け、折りたためられる様になっている。
 把駐係数:~5 (ヘドロなどの混じっていない砂地の場合)
マーチンスアンカー
Martin's Anchor
 フランスのMartinが1860年代に特許を取得。それまでの海軍錨より把駐力や利便性が良いとされ1880年代にはロイヤルソブリン級戦艦主錨として登場する。初期は鍛造だったが鋳造の錨が登場すると、製造方法の違いなどから同じマーチンスアンカーでも爪やクラウンの形状が少しずつ異なる(特許の発案者も異なる)錨が登場する。
 日本の戦艦三笠の主錨としても有名。三笠のマーチンスアンカーは一番後期の形状。日本では十山字型錨と呼んでいた。
トロットマンスアンカー
Trotman's Anchor
 ヨーロッパの帆船で多く使用されており、フリューク部が可動式になっている。潮の満ち引きが激しいヨーロッパならではの錨である。
 特徴:爪の背に突き出ている突起が海底に引っかかり、爪が土中へ貫入するようになっている。片方の爪が土中に入ると、もう片方が寝た状態になる。
 把駐係数:~5
ダンフォースアンカー
Danforth Anchor
 第1世代ストックアンカー。1940年頃にアメリカのダンフォースにより開発される。元々は小型のアンカーであったが、1950年ごろに中型船などで鋳造のダンフォースが使用されるようになる。しかし、ストックアンカーであるため現在の商船では殆ど使われていない。
 特徴:ストックが付いているが、実は「私のごたく」で述べているフリューク角が開いているため、安定性に欠けている。ただし、他のアンカーと違い、軽量なため高い把駐係数を誇る。
 把駐係数:最大10~20
ホールスアンカー
Hall's Anchor
 第1世代ストックレスアンカーの代表的アンカー。19世紀末にイギリスにて開発され、AC-14が開発されてからも多くの船で使用されている。収納性や取り扱いの良さが重視されており、開発当時はこの錨がもつ重大な欠陥に気が付くことはなかった。この錨はあの豪華客船タイタニックにも使用されていた。
 特徴:錨の全長の3~5倍程度引かれると、シャンクを軸に必ず反転し走錨する。
 把駐係数*1:3~5
JIS型TYPE A
(ホールス型アンカー)
 第1世代ストックレスアンカー。ホールスアンカーに変更を加えた日本型ホールスがJIS TYPE Aとなる。20世紀はじめに海軍で使用されるようになり、昭和26年にJIS型アンカーに指定され、日本における本船用アンカーの主流となる。ホールスを変更した訳にはいろいろと裏話があるが、詳しくは「錨の歴史」にて述べることにする。
 特徴および把駐係数は上記のホールスアンカーと同じ。
バルドーアンカー
Baldt Anchor
 第1世代ストックレスアンカー。20世紀はじめにアメリカバルドー社が開発したアンカー。シャンクのボールジョイントが特徴で、1901年に特許を取得している。このボールジョイントのアンカーを総じてバルドー型と呼ぶ。右の写真は一般的な商船などで使用されており、U.S. Navyで使用しているNavy Baldtとは多少異なる。
 特徴:シャンクのボールジョイントに特許があり、爪形状などには特筆する技術は無い。把駐力や安定性はあまり良くない。
 把駐係数:3~5
バルドーストック
アンカー
Baldt Stock
Anchor
 第1世代ストックアンカー。バルドーのストック型アンカー。主にアメリカで使用されていたが、数十年前までは日本でも製造され数は少ないが使用されていた。現在の日本丸建造計画当初このアンカーが艤装されるはずだったが、性能の低さにより不採用となる。
 特徴:ストックはあるが、シャンクの開き角が大きすぎるため簡単に傾き把駐力が維持できない。
 把駐係数:~6
JNR アンカー
(国鉄型)
JNR Anchor
 第1世代ストックレスアンカー。洞爺丸事故によりJIS型アンカーの信頼性が失われ、当時の国鉄が開発したアンカー。バルドー型アンカーを基に設計している。特許が切れているので問題ないと云う考え方だと思うが爪形状やボールジョイントまで全く同じである。
 航海訓練所の大成丸が現在でも艤装している。
 特徴:バルドーよりも両爪の間隔が広く安定性を考えている。U.S. Navy Baldtに近い。
 把駐係数:~6
エールスアンカー
Eell Anchor
 第1世代ストックレスアンカー。1918にアメリカで開発されたもので、Hallのように反転しないよう工夫されている。しかし、把駐力が低い事とクラウンが幅広で邪魔になるため大型船ではあまり使われなかった。
 特徴:爪とクラウンの構造によって、傾きが発生しても復元する力が作用するため、安定している。
 把駐係数:3~5
ONO-45 アンカー
ONO-45 Anchor
 第1世代ストックレスアンカー。尾道錨製造株式会社が開発?した錨。上記のバルドーの爪とエールスのクラウンをくっつけた形をしている。大型船用に造られたが採用した船舶は無い。
 特徴:エールスのクラウン構造をまねているので、収錨するベルマウスが特殊になる。
 把駐係数:3~6
スペックアンカー
Spec Anchor
 第1世代ストックレスアンカー。イギリスが開発したアンカーで、英国豪華客船Queen Elizabeth Ⅱで使用されている。このアンカーも反転するため、決して安全とは言えない。
 客船などでは錨を収納した際に見た目と波の抵抗を考えクラウンの平らな錨が望まれたためこの錨が開発された。
 特徴:ホールスやバルドーの様に構造上復元力を発生させることが出来ないため、安定性に欠ける。
 把駐係数:3~5
JIS型TYPE B
(AC-14型アンカー)
 第2世代ストックレスアンカー。イギリスの海軍研究所で20世紀初頭から続けていた開発研究により、約50年の歳月と莫大な費用をかけて登場したのが、このAC-14(Admiralty Cast 14)アンカーである。1960年に英国海軍技術研究所が公表し、海軍の正式アンカーに採用される。これを期に世界中に広まっていく様はホールスと同じであり、当時のイギリス海軍のネームバリューの高さがうかがえる。
 特徴:ホールスアンカーのように反転することはあまりないが、安定性が悪く最大把駐力を保ち続けることができない。
 把駐係数:最大13だが実際に使用している時は、安定しないため7~9に落ちる。
AC-17型アンカー
AC-17 Anchor
 第2世代ストックレスアンカー。AC-14型と同時期に開発された錨で、シャンクとクラウンの連結方法に特徴がある。
 錨を揚錨する際、必ずまっすぐ上がるように設計されており、潜水艦など特殊船舶に使われる錨。設計が特殊なため一般商船などではまず使用しない。
 三菱重工で建造した客船サファイア・プリンセス号の船尾になぜか艤装されている。(理由を知りたい方はお問い合わせください。)
 特徴:クラウンが重くバランスが非常に悪い。
 把駐係数:~4
ストークスアンカー
Stokes Anchor
 第2世代ストックレスアンカー。1965にイギリスの民間企業で開発された。開発者はエドワード・ヘンリー・グラハム・ストックス氏。これまでの錨に比べ把駐力も高く、安定性にも考慮したスタビライザーが付いている。しかし、スタビライザーの効果がまだ発展途上で、底質によっては反転現象が起きてしまう。また、AC-14よりも後発の錨だが「爪の薄さによる脆弱さ」を繰り返している。
 特徴:安定性は考慮しているが反転もする。爪が薄く壊れやすい。
 把駐係数:最大10~12
プールアンカー
Pool Anchor
 第2世代ストックレスアンカー。オランダの企業で開発された錨で、開発時期は不明だが1900年代前半には出てきており、AC-14型よりも前に高把駐力を実現している。この錨は把駐力が高いもののやはり安定性が悪いが、再掻き込みもしやすいためヨーロッパやオーストラリア等で多く使われている。また、クラウンの形状を変えたものや鋼板で製造されるなど、世界的に見ると多く使用されている。
 特徴:把駐力が高く、反転するものの再掻き込みしやすい。
 把駐係数:最大7~10
フリッパーデルタ
アンカー
Flipper Delta Anchor
 第2世代ストックレスアンカー。石油掘削リグや大型海洋構造物を固定する高把駐力アンカーとして開発された。鋼板製だが巨大なものは40tを超える。近年になってイタリア海軍が艦船に軽量小型アンカーとして採用し、中国海軍では高速艇のほとんどが採用している。
 特徴:鋼板製なので把駐係数が非常に高く、高速艇やアルミ船等軽量船に向いている。安定性は高いわけではないが、把駐力が非常に高いのであまり問題にならない。
 把駐係数:大型~20、小型~35

  *1把駐係数:この数値を錨の重さに乗じた値が、錨の止まろうとする力になる。
      例 100Kgの錨で把駐力係数が10の時、
         100 x 10 = 1000Kg つまり 1t の力まで船を風や潮の流れから守る事ができる。


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