燃料電池について

 12月3日(火)の例会で、東電記念科学研究所の常務理事でいらっしゃる一原嘉昭氏から「燃料電池について」と題して困難を極める技術開発の状況をお話いただきました。 以下はその概要です。

 最近の技術開発ブームは米国カリフォルニアの自動車による汚染対策から火がついたものですが、日本では国際競争と地球環境問題から政府も推進しています。
燃料電池とは水素と空気中の酸素を電解質を介して反応させるのが原理です。電解質の種類でいろいろな型が開発されて来ましたが、よく報道されているのは、固体高分子型といわれるものです。
発電効率は期待されるほど高くありません。最新の火力は50%を超える高効率ですが、燃料電池は効率は35−40%位しか期待できません。それでもその電気で電気自動車を動かせばガソリンエンジンより倍くらい効率がよいので省エネになります。自動車以外で使って経済的になるためには排熱利用がうまくできることが必要です。
電池ですから原理的にスケールメリットの少ない技術ですが、裏返せば小型向きということです。

 水素は天然には得られませんから、当分は都市ガスから作られるでしょう。従って現実には燃料電池は化石燃料を燃やす発電装置で、火力発電と同様にCO2も出ます。流通の形としてガスを液体化してつかえば、特に自動車の場合便利、という考えの研究もありますが、変換の都度ロスが生じますので省エネや地球環境のためには得るところが少なくなります。
よく、将来は太陽光発電などの自然エネルギーで水を電気分解して水素を作るのが世の中のエネルギー源になるということが言われますが、自然エネルギーの利用は大量には期待できません。海底のハイドレートという物質から天然ガスを取ることも研究されていますが、まだ海のものとも山のものともわかりません。
量とコストで実用になりそうな将来の水素源は、高温利用型の原子炉で水の熱分解をするのが考えられる夢でしょう。
燃料電池によって世の中に大きな変化が起きるかのような報道もありますが、遠い将来は別として、燃料電池の実用化だけでは社会システムには大きな変化はおきないでしょう。

 水素自動車として実現しつつあるのは、水素タンクを積んだタイプで、水素スタンドで水素を作る構想のようです。従ってスタンドというインフラを整備する問題があります。現代の自動車社会で水素自動車がガソリン自動車に置き換われば地域環境には電気自動車とおなじくらい非常によいことになります。資源・地球環境には燃料効率向上に加え、天然ガスに転換する効果も加わって効果があります。ただ、元来、きれいな水素を使うなら、水素エンジンという選択もありますし、ハイブリッドなど低公害車との関係や、そもそも大量輸送機関を活用することなど輸送システム全体に革新が検討されなければなりません。
問題は価格です。規制/補助は実施されるでしょうが、それによる普及には限界があります。商業的なものになるには量産によって価格を下げることが必要ですが、量産に踏み切るまでには技術開発のほかにいくつも問題があるでしょう。
交通技術の将来像はまだ不透明で、今後すくなくとも10年は世界で技術開発競争と規格などの主導権争いが続くでしょう。

 自動車用のほかにも、定置用としてガス湯沸し器のかわりに燃料電池で発電も兼ねたものや、電気事業や自家発用の発電装置の開発も進められています。これらは装置の中の改質装置で水素を作るシステムで、効率の低さとガスの価格とから発電単独では不経済で、それぞれ、湯沸かし器の場合には湯がいっぱいたまったら止めるという使い方や、現在の火力発電方式と組み合わせることが考えられています。自家発用燃料電池は熱の有効利用をすれば、今使われているジーゼル発電より環境上よいのですが、この規模のものは量産でコストが下がるほど需要があるかどうかが問題です。

 いずれの用途でも、技術開発の現状は、耐久性、コストは目標に遠いが、作動するものはできており、今後の技術の進歩で商業化が大いに期待されていますが、まだ当分開発のお金と時間と努力が必要です。需要家にとって、競争技術と比べて経済性や便利/快適性で魅力があるかどうかは技術開発と今後のガス価格次第でしょう。また燃料を化石燃料に頼る限り、資源問題や地球環境問題に大きな寄与は期待できないのです。

 新技術開発は最初から企業の採算の中で開発できるものもありますが、燃料電池に限らずエネルギー技術は、目に見える付加価値が少ないので開発の採算性では難しい分野です。とくに燃料電池は高度の難しい技術です。電解質膜のコストを20分の1に、白金使用量を4分の1にするというような技術開発がまだ必要です。技術開発にあたっても耐久性の加速検証ができないなど固有の困難があります。まだまだ完成には時間がかかりますし、商品の魅力という点で問題もあります。
しかし、燃料電池がもっとも期待されているのは、長期的に考えた時、化石燃料が枯渇し始めた後には、何らかの方法で水素を作ってそれで働かせるのに最適と考えられているからです。
このような長期に価値のあるエネルギー技術を経済社会の中で毎年決算の必要な産業が自主的に育てていく仕組みはまだありません。アメリカでは国防の立場から国が新技術開発を支えています。今めざましい発展を遂げている情報技術やガスタービンなどエネルギー技術も米国での軍事や宇宙の技術開発成果の産業への転用が大半です。
日本は産業国家として、常に世界に先んじて新しい産業で輸出をしないと成り立たない国です。平和な民生産業の世界でお金と時間と莫大な人材投入の必要なこのような技術開発はどうしたら進められるのか、まだ答えはありません。

 政府も研究開発に補助施策などの努力をしていますが、基本は人々が環境問題の緩和や新しい産業を興す可能性のある技術開発(いつも成功するとは約束されていませんが、それでも試みないとなにも生まれないのです)に自分で関わることに興味を持って、お金も使うということが不可欠でしょう。 人間は個人としては、決して企業のようなお金を尺度とする経済合理性で行動するものでないことは明らかです。贅沢にせよ、禁欲的にせよ、心の満足が行動の動機でしょう。地球環境問題や資源問題は文明の持続性に関わる問題です。特にこのようなエネルギーに関わる問題が世界の中では日本が一番影響を受けやすいことを考えると、自分の生きる時代だけでない将来(といっても孫の時代のことですが)のことを考えて行動することに満足を見いだすことは、立場を問わず社会のリーダーすべての責任でしょう。つまり、欧米の海洋国では探検を人々が支援したように、日本のような産業国家ではエネルギーに関わる新技術開発を支援することは重要なノブレスオブリージェだと考えます。
ロータリアンの皆さまもエネルギーや新技術開発に関心を寄せ何らかの参加をしていただくことを期待します。

2002年12月24日

 

 


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