激情家
クリス・ブロック
2003年のペナントレースで
僕らの広島東洋カープは
またしても苦戦を強いられていた
去年の投手崩壊の反省をふまえ、
多くの助っ人外人ピッチャーを獲得して
挑んだペナントレースであったが
頼みの外人投手
アラン・ニューマン、デーブ・ランドクィストは
チームの危機を救うどころか
投手崩壊を手伝うほどの乱調ぶりであった
そこで、この深刻な状況を打破するために
シーズン途中から獲得した新助っ人外人が
クリス・ブロックであった。
ひとまず彼のプロフィールを簡単に紹介しておこう。
クリス・ブロック
Chris Brock
背番号42
昭和45年2月5日生まれの33歳
身長183p・体重79s
右投げ右打ち
アメリカのフロリダ大学を卒業後
3Aブレイブス〜ブレイブス〜ジャイアンツ〜
フィリーズ〜オリオールズを経て
僕らの広島カープに入団(2003年)
ポジションはもちろんピッチャーである。
体格だけを見ても大柄で
その身体は投手体型に見えるし、
そして何よりそのハンサムな容姿に
こいつはやってくれるかも知れないという
大きな期待を我々に抱かせた。
彼の来日、登板を一日も早く見たいと
胸を膨らませて待っていたのである。
しかし
彼はその甘いマスクとは裏腹に
実は非常に激情家であった
気持ちで投げるタイプのピッチャーは
プロ野球界にもたくさんいる。
だが彼の場合、そんな良い意味でのものではなく
プッツンと切れてたら止まらないという
マイナス思考な激情家だったのである
兎にも角にも
そこから彼の
記録更新ラッシュが
幕を開けたのであった
そもそも、ピッチャー不足に悩まされ
仕方なくシーズン途中から
獲得した外人に関して
私は良いイメージが全く無い。
「なんでこんな外人連れてくるんだ」
ってイメージしか湧かないのだ。
だいたい、そんな中途半端な時期に来日する外人など
実力も中途半端な確率は極めて高い。
ずっと2軍のまま終わるか、
一か八か、1軍で投げてはみたものの
散々に打ち込まれて、即2軍行き決定。
電撃解雇の日をただひたすら待つだけの
悲しい結末しか思い浮かばないのだ。
ブロックからも同じ匂いが
プンプンしていた
しかし彼は良い意味で
我々の期待を裏切った
彼のピッチングは今にも打たれそうなんだけど
何とか凌いで失点を最小限に抑え、
気付けば勝利をもぎ取る
のらりくらり投法であった。
彼は日本のプロ野球と大リーグの違いを
感情的にではなく、
とても冷静に分析していた。
こんな余談がある。
彼は自分が実感した日本のプロ野球について
後輩の新外国人投手デイビーにこう語っていた。
「俺はボークで散々痛い目に遭ってきたからな。
日本とアメリカではボークの取り方が全然違うし
気をつけておいた方がいい。
俺に何でも聞いてくれ。
グラブを構えてから1回、2回と2塁方向を見るようにすれば
ギリギリのタイミングでOKだ」と。
投手としては細心の注意を
払わなければならない重要な箇所であり
非常に当を得た助言だと私は思う。
日本に来てまだ間もないというのに
何という適応力・判断力であろうか。
クリス・ブロック
恐るべし男である
そんな恐るべき男がついに
大記録を達成した
時は2003年7月2日
場所は広島市民球場
対戦相手は憎き読売ジャイアンツであった。
この日の先発ピッチャーとして
マウンドに立ったブロックであったが
この試合で彼は一人きりの力で
その偉大なる記録を達成してしまった。
その大記録を列挙しよう
その1
1試合3ボーク
おいおいおい
少しは学習しろよ
仏の顔も三度までじゃい
ちなみにこれは
プロ野球タイ記録である
その2
今季通算
8個目のボーク
多!
しかも貴公は
シーズン途中からだぜ
ボークしないように
ブロックサインでもだしたろか
なお、こちらの記録はセ・リーグ
シーズン最多ボーク記録で
1952年の松竹・椙木の6個を
51年ぶりに塗り替えてしまったのだ
この調子で行けばプロ野球記録の
シーズン10個(73年、南海・江本)を
達成するのも夢ではない。
この大記録達成に対して
応援のメッセージが届いているので
ここで紹介しよう。
まずは、山崎守備・走塁コーチ談。
「ベンチからも皆で声を枯らして
”ボークに気をつけろ!”と言っていたのに・・」
そして、石原慶幸捕手談。
「ボーク癖?何か対策があるんなら、
こっちが教えてほしいくらい」
闘志ムキ出しの投球に感心していたチームメイトも
今では少し呆れ顔のよう・・。
あの、後輩のデイビーに対する
ボーク対策のアドバイスは何だったんだろう?
どうやら頭では分かっているようだが
試合が始まって興奮してくると
全て忘れてしまうようだ。
闘志ムキ出しは良いけども
感情が高ぶることによって
頭の中が真っ白になってしまうなんて
激情家にも程がある。
ボーク連発で天を仰ぐブロックなど
もう見たくないのが
ファンの正直な心境なのだ。
再び、あの有名な登山家
ジョージ・リー・マロリーの話だが
「なぜ山に登るんですか?」と聞かれ
「そこに山があるからだ」と答えた。
これは登山家で無い人も知っているほどの
名言である事は皆さんご存じの通り。
「なぜボークるんですか?」
とブロックに聞けば
「そこにランナーがいるから」
と答えたであろう
(真面目に答えている場合じゃないが・・)
いやいや、逆に
「ボークってどういう意味?」
って聞き返されたりとか
「そこにルールがあるから」
なんて逆切れしたりとか
もしくは
「だって、忘れちゃったんだもん」
なんて超普通に答えちゃったりするかも
またまたくだらない冗談だが
大好評につき(?)
マロリーシリーズをやらさせて頂きました。
とりあえず、本題へ戻る。
とにかく、やりたい放題のブロックだが
そんなブロックに名誉挽回の場面が訪れた。
いつの試合だったかはっきりと覚えていないが
ある試合の9回無死1塁の場面で
代打ブロック
登板ではない。
代打である
実はこのブロック、
バッティングがめちゃめちゃ良い
この日までの打率はなんと3割4分8厘なのである。
これは期待できそうだ
「頼むぞブロック!
ピッチングでの借りを返してくれ!」
と思ったらデッドボール
バッターボックスでも天を仰ぐブロック。
試合後に彼はインタビューにこう答えた。
「しょっちゅう貰えない機会だし
ヒットを狙いに行ったが
逆にヒット(死球)されちゃった」
本当に緊迫する場面で
必ず何かをやってくれる。
ここまで来ると
もはや同情を通り越して
可哀想になってくる。
緊迫する場面になればなるほど
醜態をさらしてしまう悲しい性。
しかし、散々言いたい事を言わせてもらったが
僕らのカープが優勝する為にブロックが
必要不可欠な選手であることは間違い無い。
僕らのカープの為に力を貸し続けて欲しいと
心から願うばかりなのである。
これからも闘志あるピッチングを
我々に見せ続けて欲しい。
そしてクリス・ブロック投手の
自分自身との闘いは永遠に続いてゆくのだ。
永遠(とわ)に・・・
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