ビジネスホテル考


 旅に出ると、駅前旅館と並んでお世話になるのが、ビジネスホテルである。

 ビジネスホテルに厳密な定義は無い(と思う)が、その名の通りビジネス客が相手のもので、駅前旅館同様に卓球場やゲームセンターなどの娯楽施設はまず無いが、昨今のIT社会を反映してか、インターネットができるパソコンなどのOA機器を備えたり、部屋にモジュラーコードを接続できる設備を整えたところもある。全国にチェーン展開しているところもある。

 駅前旅館と違うところは、「ビジネスホテルの方がプライバシーをより守れる」という点であろうか。駅前旅館の部屋の鍵は簡素なものだったり、部屋の中からしか鍵がかけられないというところが多い。ゆえに、ちょっと近くまで出かける場合でも部屋に鍵をかけることができない場合がある。また、部屋の壁が薄いところも多く、隣の部屋の「住人」の挙動がわかってしまう場合もある。
 その点、ビジネスホテルの部屋の鍵はオートロックのところが多いので、ちょっと部屋を離れる場合でも安心だ。また、たいていのビジネスホテルの部屋の壁は駅前旅館のそれよりもたいてい厚いので、隣の部屋の物音が聞こえてくるということはまず無い。

 料金はシングルで概ね1泊4500〜6000円前後が相場で、これは駅前旅館と大差無いかもしれない。基本的に素泊まり(食事無し)のところが多いようであるが、希望すれば追加料金で用意してくれるところもある。駅前旅館がビジネスホテルに転身したようなところでは、食事込みのところが多いようだ。

 シングルの部屋はたいてい6畳ほどの大きさで、その内部はユニットバスと造り付けの小さな洋服タンスとライティングデスク、そしてテレビと大きめのベッドといったところが基本的なパターンである。テレビは、コインタイマーがついた有料のケースがほとんど。一般放送は無料で、アダルト番組は有料というところもある。

 ユニットバスとはいえ、部屋の中に風呂とトイレがあるのはなかなか便利だ。駅前旅館だと風呂・トイレとも部屋にはまず無い。トイレはまぁいいとしても、冬の寒い時期だと部屋と風呂場を行き来するのは結構シンどいものである。

 館内の一角にはたいてい自動販売機のコーナーがあり、ビールや日本酒を含む飲料、おつまみ、ひげそりなどを売っている。乗り歩きに疲れて宿に入った時など、風呂上がりにここで缶ビールを買ってきて部屋で一杯やるのが、旅に出た時の拙者の秘やかな楽しみである。

 こうやって書くと駅前旅館よりビジネスホテルの方が何もかもが優れているようであるが、別にそんなことは無い。駅前旅館には、ビジネスホテルには無い「旅の風情」というか、アットホームな雰囲気がある。例えるなら、ビジネスホテルが新幹線だとするなら、駅前旅館は鈍行列車であろうか。

2003.1.25