愛おぼえてますか





「さぁな、風に聞いてくれ」
その男はそう言った。
「お前は俺達の仲間だ」
確かにそう言った。
言ったけど。


「なんで、お前がここにいるんだ!!」
岳、ことガオイエローは思いっきり叫んでいた。



ここはガオロック。
ガオレンジャーである走達が住居としている場所にその男はいた。
「なに怒ってるんだ?」
その側で、彼等がリーダーであるガオレッドこと走が皿を―――― 御馳走てんこもりの ―――――― もって不思議そ うな顔をする。
「だって、こいつ!!」」
「人のことを指差すのは失礼だと教わらなかったのか」
目の前に突き出された指を軽く払って白銀が鼻で笑った。
「てめぇっ・・・!!」
「俺が来てくれって言ったんだ」
とりなすように走が間にはいった。
「だってさ、白銀って先輩だし、聞きたい事もいろいろあるしさ」
だからって、気に入らない。
滅茶苦茶気に入らなかった。
なにが気にいらないって、我が物顔で走の作る料理をあたりまえのようにして食っていることがだ。
自分、もとい、自分達だって滅多に作ってもらえないのに!!!
そんな岳の心の叫びが聞こえたのか。
「食うか?」
白銀が顎をしゃくって見せた。
「誰が!!」
なんで、てめえに勧めてもらわなきゃならねぇんだ!!とばかりに怒鳴ろうとした瞬間。
「あ〜〜〜♪!!」
ホワイト、事、冴が歓喜の声を上げた。
「レッドが御飯作ってるぅ〜〜!!」
嬉しそうに駆け寄って、初めて白銀の存在に気付く。
「白銀! 遊びに来てたの?」
「走が来いってしつこくてな」
なれなれしく走って呼ぶな!!とは岳の心の声。
「レッドが?」
「うん、やっぱり一度位来てもらっておいたほうがいいかなって思って」
「そうだよね、先輩なんだもん」
まだまだ16歳のホワイトには歪んだ男達の妄想、もとい暴走なんてわからないのであろう・・・多分。
気付かないまんまでいてくれ・・・・そっと岳が思う。
「だろ! そう思うよね!」
我が意を得たり、と喜ぶ走を見て、てめぇはもう少し気付け!!と思わず拳を振り上げそうになってしまった。
「ホワイトも食べる?」
「うん!!」
「まだまだ色気より食い気だな〜、ホワイトは」
「なんですってぇ〜!!」
走のからかいの言葉に唇を尖らせながらもちゃっかり白銀の隣に腰を落ち着けてしまって。
「あ、イエローは食べないの?」
立ちっぱなしの岳に声をかけた。
「いらん!!」
「でも・・・」
「ほっとけばいい」
心配そうなホワイトに白銀がチラリと視線を岳に流す。
「いらない、といってるものを無理に進める事はない」
「!!」
お前、何様のつもりだ!!と今度こそ叫ぼうとした岳を封じたのは
「あれ〜〜!!? 白銀、来てたの!?」
「こんにちは!!」
海、ことブルー、と草太郎、ことブラックの2人だった。
「とうとう来てくれたんですね」
「いや、飯を食いに来ただけだ・・・・・あんまりうるさいんでな」
白銀が走に視線を流すと照れくさそうに笑う。
「それでも、いいじゃん♪ひっさびさにレッドの飯食えるんだからさ!!」
嬉しそうにブルーが席につく。
このガオロックでは、基本は自給自足、食事は交代で作らねばならない。
それぞれに料理が作れないわけではない。
ただ、ブルーはインスタントやジャンクフードが多くて、ブラックは美味しい事は美味しいのだが料理が鍋に限られてしまっ て、イエローは何分ダイナミックな男の料理だったし、ホワイトに関しては・・・・・まだ16歳である。作れない事はない が・・・・・レパートリーが少ないのだ。
驚くのはレッドが意外に料理が上手だったという事なのだが、ホワイトが自分で作る!!と言い張る手前、手伝いに専念して いて。
「ほら〜〜イエローも座んなよ」
ブルーに催促されてしぶしぶ席につく。
このまま帰ってもいいのだが自分の知らない所で2人で ―――― いや、この場合他の3人もいるけど ――――
いさせるのは気に食わない。
別になにがどう、というわけではないけれど面白くない、そんな思いが渦巻いて。
一端引っ込んでいた走が再び手にいっぱいの皿を持って顕われる。
「みんな、ドンドン食ってくれよ!!」
満面の笑みが何故か眩しくってそっぽをむいてしまった岳であった。



食事は掛け値なしに美味かった。
走が何時もどおりの席に ―――― いわゆる岳の隣だね ――――― に座ったせいもあったのかもしれない。
「美味いか? イエロー」
「・・・・・・」
返事もなくただひたすら食べる男を見て走が嬉しそうに笑う。
「ホワイトは?」
「うん! おいしーvvvv 今度レシピ教えて〜!」
「いいよ♪」
ブルーとブラックの2人は・・・・言わずもがな、といったところであろうか。
すでにテーブルは男三人の攻防で埋め尽くされていた。
「本当に美味かった」
「白銀」
「久しぶりに美味い、と感じて食事をしたような気がする」
走を見る白銀の瞳が柔らかい光りを称えている。
「そっか、喜んで貰えてなによりだよ」
嬉しそうな走が白銀を見つめ返す。
気が付けば、そこは2人の世界になっていて。
「・・・・・醤油」
「あ、はいはい」
その雰囲気をぶち壊すようにイエローが口を挟んだ。
別に走がなんも考えていないことなど判りきっている。
もともと人の目を見て話す癖のある男だから白銀が見たから見つめ返しただけだ。
だけなのだが。
面白くないから邪魔をした。
「あれ、もうないな、ちょっと入れてくる」
と、醤油の瓶を手に走が席を立った途端、そう、明らかに気圧が変化した。
重力まで変化したような・・・・そんな空気を破ったのは白銀だった。
「まるで、子供だな」
「なにぃ・・・」
呆れたような白銀の言葉にイエローの眉が上がる。
「醤油ぐらい自分で取れんのか」
「うるせぇな! 別にいいだろうが!!」
「ああ、口にモノを入れたまま話すな。中身が飛ぶ」
しかめっつらをしてもなお男前だと認めずにはいられないその顔がむかつくんだ!と岳が舌打ちをする。
「無理無理、イエロー、意外と子供だもんね」
ブルーの楽しげなセリフにイエローがピクリと反応した。
「なんてったって、レッドがお気に入り・・・・だっ!!」
テーブルの下でイエローの靴先が弁慶の泣き所に決まったらしい。
なんてったって安全靴、靴先には鉄板いりだ。
そんなんで蹴られたら・・・・・・哀れ過ぎる。
言葉もでないブルーをブラックが介抱している。
「おまたせ・・・・あれ、どうしたの、ブルー」
「なんでもないよ、喉にでも詰まらせたんだろ」
イエローが言って、皿を差し出すとレッドが醤油をかける。
その様子に白銀が眉を潜めた。
ふん、とイエローが鼻で笑う。
好みなど、特にどうのこうの言わないでも通じるぐらい付き合いが深いのだ、後から出てきたお前が入り込む隙なんてな いんだ、と目で語れば十分相手には通じたようだ。
白銀の目が据わる。
「ドンドン食べてくれよ♪」
「うんvvvv」
熱い火花が散るのに気付かない、その原因の張本人であるレッドとホワイトだけが幸せな食事時間であった。




嵐のような食事が終って、それぞれにくつろいで。
片付けの終ったレッドとホワイトが戻ってくるまで、何ともいえない雰囲気が漂っていた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・あの、さ、」
決死の思い出ブラックが声をかけても氷点下のような視線を向けられて思わず凍り付いてしまう。
「一つきいてもいいか」
「なっ、なに!?」
先に白銀に切り出されてブルーが嬉しそうに答える。
「お前達は、皆、何故名前を呼び合わないのだ」
白銀の問に、ブルーとブラックが、あ・・・・と顔を見合わせる。
「俺達は戦士だ。ガオレンジャーになったときに名前は捨てた」
「・・・・そうか」
黙り込んでしまった2人の代わりに答えたイエローに白銀が眉を寄せる。
「なにか、気に入らないのかよ」
その表情になにかを感じとったのだろう、イエローが喧嘩腰な口調で尋ねる。
「いや・・・・・・俺達は・・・いつでも名前で呼び合っていたような・・・気がしたから聞いただけだ」
「俺達って・・・・先代の?」
「ああ・・・・多分」
「な、先代のガオレンジャーって、どういう人だったのか、教えてくれませんか?」
「どうして」
「どうしてって・・・・気になりますよ。彼等がどんな闘い方をしたのか・・・・・・・」
ブラックの問に白銀が不思議そうな顔をした。
「そう、どういう人達だったのかなって」
気遣うように聞いてくるブラックの様子に白銀の表情が柔らかくなった。
「・・・あまり、覚えてはいない」
「覚えていない?」
「ああ・・・千年も封印されていたからな、それでも・・・・レッドと俺とは・・・無二の親友だったような気がする」
「親友?」
「・・・・・ムラに記憶を操作されている中で、俺を呼ぶレッドの声が・・・・走の声に重なる」
「白銀・・・・・」
「だからこそ・・・裏切られたと思ったときの怒りは・・・・・レッドに対してが一番酷かった」
「・・・・・・」
遠くを見る瞳に3人は何もいえなくて。
「・・・・・・・レッドは・・・変わらない。動物好きな所も、懐が深いところも・・・お人よしところもな・・・・」
「白銀・・・・」
「全てが変わらなくって・・・・・ほんとに愛しい奴だ」
「「「え?」」」
思わず声がハモル。
いま、とんでもない言葉を聞いたような。
「あ、あの、白銀?」
ブルーが思わず聞き返そうとした時。
「お待たせ!!」
2人が帰ってきてしまった。
「じゃあ、俺はそろそろ行く」
「白銀」
立ち上がった白銀にレッドが駆け寄る。
「あのさ、いつでも来てくれよな」
「・・・・」
「俺達、仲間・・・だろ?」
まるですがるようなレッドに白銀が微笑んだ。
「俺も、お前をレッドと呼ぶ」
「白銀・・・・」
ガオレンジャーの一員として。
仲間として。
それが理解できたから、走は嬉しそうになんども頷いた。
「ああ・・・・・ああ!」
「それでも、2人のときは・・・走と呼んでもいいか?」
「え?・・・なんで?」
身体が、顔が寄り添いあっていることレッドは気付いているだろうか。
白銀は・・・・わざとだ、コレは3人の一致した考え。
思わずイエローを取り押さえたブルー、ブラック、及びホワイトがじっと見守る。
「先代のレッドとは・・・・無二の親友だった。だが・・・もう、逢えない」
本当にただの親友だったのか!!?・・・これはイエローの心の叫び。
「・・・俺は、ただ一人この世界に取り残されてしまった」
顔のいい男の憂いを帯びた表情って、なんて鑑賞向きvvvvv・・・・とはホワイトの心の呟き。
「お前に重ねてはいけないとは判ってはいるが・・・・・お前といると・・・・」
ああっ・・・・そんなとこで切るなんて美味しすぎる!!・・・・・とはブルー&ブラックの心の悶え。
「いいよ! 俺のこと何て呼んでくれたって!」
そしてお前天然すぎ・・・とは4人が一斉に思ったこと。
「俺も白銀って呼んでいいだろ?」
「ああ」
そっと走の頬に手を添えて。

●×▼△○#%〜〜〜〜!!!!!!

「じゃあな」
「又な!」
こうして火種を落すだけ落として白銀は去っていた。

その後ガオロックでは。


「いいかっ! 今後、お前一人で外に出るなよっ!!」
「え〜!? なんでだよ!」
「いいから!! 言う事聞かなきゃ飯ぬきだっ!!!!」
「え〜〜〜!」


夜中まで言い合うイエローとレッドの声が響いたという。



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