松の話






 その日、平和なシルバースター牧場にいきなり爆弾は降って来た。

「なぁ、ハヤテ」
 午後の訓練も一段落着いたお茶の時間。男衆四人はテラスでお茶を楽しんでいた。サヤは汗をかいたと言って、今は シャワータイムだ。
 椅子に座ってリョウマとハヤテは今日の訓練について語り合い、ゴウキの運ぶおいしそうなお茶菓子にヒカルがちょっか いをかけている。そんな穏やかな時間、ふとリョウマはハヤテに問い掛けた。

『松〇崩し』ってなんなんだ?」

 グフゥーッ!!!!!
 グ…ゲホッ! ゲホッ!
 ガッチャーーン!!!!!

 ハヤテは見事にお茶を吹いた。ヒカルは食べかけのクッキーを喉に詰まらせ、背後ではゴウキがその焼きたてのクッ キーを載せた皿を盛大にひっくり返している。
「お…おま……ッ!!!」
「どうしたんだ? ハヤテ」
「おまえー! どこで、いや誰にそんな言葉聞いたんだ!」
「え? この間ヒカルが見てた雑誌に……」
「ヒカルー!」
 リョウマの答えに怒鳴るが、すでにこの事態を察知していたヒカルは脱兎のごとく脱走済みで、見えるのは小さくなってい く後ろ姿だけだった。
「なぁ、どういう意味なんだ」
「う……そ…それは……」
 いくらなんでも口で説明できるもんじゃないだろう、あれは。それにも増して『ハヤテなら知ってるよな』という純粋なリョウ マの瞳が痛い。
「あ……その……なんだ……」
「そっかぁ、ハヤテも知らないんだ」
「あ……あぁ、実はそうなんだ」
 言葉を探しているうちに、勝手に判断してくれたらしい。これ幸いとハヤテは乗っかった。
「そっかぁ……『松葉〇し』って言うくらいだから、サヤなら知ってるかな、植物だし」
「こらこらこらー!!!」
 踵を返してサヤのもとに行こうとするのを必死に止める。
「ハヤテ?」
「それだけは、止めろ!」
「え? なんで?」
「なんででもだ! あ…いや、女の子に聞く内容じゃないんだ。俺も詳しくはないから答えられないんだが」
 引き止める腕に不審気な瞳を向けられて、あわてて差し障りない言い方で言い訳する。冗談じゃない。そんなことをサヤ に聞かれた日には、またどんな嵐が吹き荒れることか。
「ふぅん、そうなんんだ」
 とりあえず納得してくれたらしいリョウマに内心ホッと息を付く。まったく…ヒュウガはこいつにいったいどんな教育をしてい たんだ。無菌培養にも程があるぞ……と、考えかけてふと気付く。
 やはりここは大本の責任者に任せるべきだろう。
「リョウマ」
「なに?」
 ぐわっし! とその肩を掴むと、きょとんと見上げるリョウマに言い聞かせるようにハヤテは言葉を続けた。
「俺は知らないが、ヒュウガなら知ってると思うぞ」
「え?」
「ヒュウガの居場所知ってるんだろう、聞いて来い」
「え? でも…いいのか?」
 戦いが佳境に入ったこの時期に皆の下を離れるのは不味いのではということが、リョウマを躊躇わせる。
「なにかあったら、ギンガブレスで連絡すればいいだろ、だから行って来い」
「うん、じゃあ俺、聞いてくる」
 とはいえここでンなことに悩まれて、爆弾発言を繰り返されるよりはずっとマシだ。ここはきっちりヒュウガに責任をとって もらうべきだろう。
「気をつけていってこいよ〜」
 ぱたぱたと駆け出した後ろ姿に手を振って送り出す。
「行ったな」
「行った」
 リョウマの姿が見えなくなって、ようやくハヤテは溜息を付いて力なく椅子に身体を預けた。向かいには同様にゴウキが ぐったりとテーブルに伏せている。
「ったく心臓に悪い」
「同感」 
「あ、そうだ。ゴウキ」
 ふと思い当たってハヤテが呼びかける。
「判ってる。今日の夕食と明日の朝食は四人分だろ」
「だよなぁ」
 顔を見合わせて再度の溜息。
 きっとリョウマの帰りは明日だろう。
 二人はその間にバルバンの襲撃がないことを真剣に祈っていた。





昔どっかのジャンルで使った気がする実話ネタです。
学生時代に聞かれたんです。マジに。
『”〇葉崩し”ってなに?』って、学校の廊下で。あげくに、
『ひかるさんも知らないのなら、先生に聞いてくる』
『それだけは止めて!』
えぇ必死に止めましたとも。シクシク。
ひかる



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