実 験 台







「これは移動する未確認生命体の位置を探るために開発したマーキング弾です。この中にナ ノ・テクノロジーによって開発された血管の内球よりも小さな超微細発信機が20個仕込まれ ています。彼らの身体に命中して、その20個のうち一つでも体内に入り込めば、後は生体電 気を動力源として、電波を送りつづけます。そしてマーキング弾で未確認生命体の位置を確認 した後は、現在製作中の神経断裂弾を彼らの身体に打ち込んでもらえれば、彼らを倒すことが できるはずです」

 榎田の説明を聞いていた雄介はいきなりお茶にむせた。

「しかし今まで彼らの身体は弾丸を受け付けもしなかったんだぞ」
「関東医大の椿法医学士と共同で……」

 心配げな周囲の視線に大丈夫です。というように笑い返し、ことさら
「がんばりましょう!」
 と親指を立てて見せる。だが周囲の笑顔に応えながらも、雄介の内心は穏やかではなかっ た。
 よもやまさかと思うのだが。どうにも心当たりが多すぎるのだ。 
 会議が終わり榎田を見送った後、自動販売機コーナーへと一条を誘った。
 幸い辺りに他に人影はない。

「どうした? 五代」
「『どうした?』じゃないですよ、一条さん。俺を実験台にしましたね」
「なんのことだ?」
「とぼけないでください。榎田さんが言ってた対未確認用マーキング弾です。どうも最近居場 所が簡単にバレると思ったら」
 戦いの後、変身の余韻で神経が過敏になってしまっている身体を一条に弄ばれないよう (可愛いがってやってるだけだ←一条談)、懸命に姿を隠すようにしている雄介である。
 発信機の取り付けられているBTCSを店に戻し、一条に貰ったピアス(これも発信機付き) も外す。そして自然の多い公園などで身を休ませることによって、体内に篭もる熱を発散させる。 この方法により一時はかなりの確立で一条の魔手を逃れることに成功していたのだが、ここ最 近急にまた居場所がばれるようになったのだ。発信機のつけられそうな着衣は全部新しいもの に着替え、アクセサリーも全部外して身を潜ませてなお見つかってしまった日には、一条には 五代雄介専用アンテナがあるんだという椿の言葉を信じかけたくらいだ。
「マーキング弾なんて、んなもんいつの間に俺に仕込んだんですか!」
「あぁ、そのことか」
「そのことかじゃないでしょう。いったい人のことをなんだと思ってるんですか! 確かに俺 の身体は未確認と同じかもしれませんけどね、勝手に実験台にしないでください」
「それは違うぞ、五代。実験台だなんて、俺がおまえにそんなことさせるわけないだろう。そ れとも俺をそんなやつだと思っていたのか? ん?」
 だからここでそんな悲しそうな顔を見せるのは反則だと思う。たとえそれが演技だと判って いても、ついつい流されてしまう自分が哀しい。
「だいたいおまえがいけないんだぞ、一人で無茶をするなど、何度言えば判るんだ」
「え? 無茶って……」
「この間だって椿のところで倒れただろう」
「あれはちょっと、貧血起こしただけで……それにしても喋っちゃったんですか、椿さん。あ れほど黙っていてくれって頼んだのに」
 先日の検診の際、前日に金の緑で限界まで戦っていたこともあって、検査中にそのまま意識 を失ってしまったのだ。店が混んでいたからと、そのまま休まず働いていたのがまずかったの だろう。ついでに言うと、それを理由に一条の誘いも断ったことも根に持たれてるのかもしれ ない。
 とにかくあれほど約束したのに、医者の守秘義務はどうなってるんだと、ぶつぶつと呟く雄 介の言葉を一条が否定した。
「言っておくが、たぶんあいつはおまえとの約束を破ってはいないぞ。あいつを庇うわけじゃ ないが」
「じゃあなんで一条さんが知ってるんです」
「おまえが倒れた時点で、連絡を貰っていたからだ。あいにく緊急会議が入ったんで、目覚め るまでは付いていてやれなかったがな。おまえが椿に約束させたのはその後だろう」
「…………」
 その通りなのでなにも言えない。よもや自分の寝ている間にそんなことがあったなんて。
「休むべきときに休まないからそういうことになるんだ」
 一条にだけは言われたくない台詞である。
「おまえが俺の目を盗んで無茶を続ける以上、俺としては強制的にでもおまえを捕まえて休ま せるしかないだろう」
「けどいくらなんでも未確認用のマーキング弾を俺に使うことはないじゃないですか。勝手に 人を実験台にして───」
「だからそれは違うと言ってるだろう」
「じゃあどうやって俺の居場所が判ったんです」
 アクセサリーも服も全部かえても、居場所がばれたってことはもう、体内に発信機が仕込ん であるとしか考えられない。
「榎田さんに頼んでおいた超微細発信機を点滴に仕込んだだけだ」
「それってさっき榎田さんが説明していたマーキング弾の中身じゃないですか。やっぱり、俺 を実験台にしたんですね」
「だから違うと言ってるだろう」
「どこが違うんですか!」
「もともとあれは俺が榎田さんに頼んでおいたものだ。おまえの位置を確認するためにな」
「え?」
 なんかとっても怖いことを聞いたような。
「未確認にも使えると言い出したのは榎田さんだが」
 ということは、もともとマーキング弾は俺用に開発されたってこと? ……それって実験台 にされたってことよりウレシクないような。
「あぁ、安心しろ。おまえのは特注品だ。今回の未確認用とは周波数が違うから、俺以外のや つにはおまえの居場所はわからん」
 それが一番まずいんだって。
「これで、おまえがどこに冒険に行っても安心だしな」
 にこにこにこ。満面の笑みで笑う一条に全身の力が抜けてゆく。本当の目的はそれかいとい う突っ込む気力もないほどだ。
「愛してるぞ、五代」
 そんな愛ならいらない。そう言えたらどれだけ平穏な日々が戻ってくることか。
 一条のくちづけを受けながら、深ぁくため息を付く雄介だった。





44話を見て、思いついた話。この回は他にも色々とネタになりそうなことがあったけど、 ほんわか、ほのぼのネタは他所様が書いてくださるので、うちでしか読めないようなネタを ……と考えたらこれになりました。 屋根裏部屋に掲載されている樹さんの『キミガホシイ』の流れになるかな。
しかし打ちながら、これほどお互いを信用してないのに、よく恋人関係やってるなと感心して しまった。私しゃこんな恋人いやだわ。
いや雄介が無茶しすぎなのと、一条さんが手段を選ばないのが悪いんだけど。

(ひかる)


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