Take out,please.





 けして悪気があったわけではないのだ。
 少なくともはじめのうちは。
 それはたまたま偶然の重なりで。
 例えば、
 定期検診に関東医大に行ったら、ストレスの溜まっていたらしい椿さんと朝まで飲んでしまったとか。
 奈々ちゃんの芝居の稽古に付き合ってたら遅くなってしまったとか。
 桜子さんのところに差し入れに行ったら、碑文の解釈で盛り上がってしまい、気が付いたら朝だったとか。
 久しぶりに会った冒険仲間と夜を徹して語り明かしてしまったとか。
 科警研に行ったら、いつの間にかなりゆきで榎田さんの家にお泊まりすることになってしまったとか。
 ポレポレの常連さんのの結婚式の二次会が入ってしまい、深夜まで働いてしまったとか。
 みのりの勤める若葉保育園のお遊戯会の準備で遅くなってしまったとか………。
 とにかく、けして悪気があったわけではないのだ。結果としてたまたまそうなってしまっただけで。
 誓って本当に欠片の悪気もありはしなかった……のだが、はたと気が付いたときには半月近く経っていたのだ。
 なにがって?
 一条と顔を合わせなかった日々が、である。

『まっずぅ〜〜〜』
 あの一条のことである。どれだけ煮詰まっていることだろう。
 そういう関係になって以来、3日と空けずにそういう関係を積み重ねてきた自分達である。加えて言うなら、大抵仕掛け てくるのは一条の方で。あれだけの激務の中、よく体力が残ってるなと感心することもしばしばで。その一条をこんなに長 い間放っておいてしまったわけだから………
『帰りたくない』
 そう雄介が思ってしまったのも無理のないことだろう。
 こんなに長い間ご無沙汰の状態の一条のもとにのこのこ姿を見せたりしたら、どんなことになることか。なにしろほんっとうに 久しぶりなのだ。きっとここぞとばかりにあぁ〜んなことや、そぉ〜んなことを………
『××××!!!』
 いったい何を想像したのやら。しかし怖いのはその想像がほぼ確実に実行されるだろうことで……
『どうしよう』
 雄介は途方に暮れていた。



「で、なんで私のところに来るかなぁ」
 桜子は深ぁくため息を付いた。
 場所はお馴染みの城南大学、考古学研究室である。
「だって他に相談する相手がいなかったんだもん」
「なかったんだもん…じゃないでしょう」
 まったく25の男が使う言葉使いじゃなかろうに。まぁ問題はその言葉使いに違和感を感じさせない雄介自身の人間性の方かも知れないが。
「だってさぁ奈々ちゃんやおやっさんは一条さんとのこと知らないし、椿さんや榎田さんのとこだと思いっきり笑われたあげ くに一条さんに売られそうだし、かと言ってこんなことみのりに相談するのは情けないし……」
「私ならいいわけ?」
「そこはそれ、桜子さんだから」
「……いいけどね」
 なにやら思いっきり引っ掛かる気がするが、桜子はとりあえず話を進めることにした。ここで『どういう意味よ』と突っ込ん でも、話がややこしくなるだけだし。
「それで、五代くんとしてはどうしたいわけ?」
「どうって……」
「一条さんとこのまま別れたいわけじゃないんでしょ」
「そりゃあもちろん」
「なら会えばいいじゃない。きっと会いたがってるわよ、一条さんも」
「う……けど」
「けど判ってるんでしょ、このまま逃げてても事態が悪化するだけだってことは」
「そうなんだよねぇ……」
 うだうだと悩む雄介に半ば呆れつつも、見捨てられないのは長年の付き合いのせいなのか。
『まぁ気持ちは判るけどねぇ』
 日頃の雄介に対する一条の執着振りを目の当たりにしているだけに、今みたいな状況に陥ってしまった雄介が思わず 逃避行動に走ってしまうのもよぉっく判る。判る、が、問題は逃げたからといって、状況が好転することはまずありえないということで、むしろ悪化するのは確実だったりする。
「だいたい逃げるにしても、逃げ切れると思ってるの? あの一条さんから」
「う〜〜〜逃げたいとは思ってるけど」
「無理だと思うわよ」
 なにせ相手は爆走刑事一条だ。そのうちどんな手を使ってでも五代を捕獲してしまうに違いない。
「ま、頑張ってね、応援だけはしてあげるから」
「桜子さぁん〜〜」
「会わなくなってそろそろ半月かぁ、煮詰まってるでしょうねぇ」
「うぅ、桜子さんがいぢめる」
「事実を言ってるだけでしょう、自業自得って言葉知ってる? 五代くん」
「うぅ〜〜〜」
「はじめは確かに不可抗力だったかもしれないけれど、その後一条さんを避けまくって自分で事態を悪化させちゃうんだから……つくづく恋愛に関しては学習能力ないわよねぇ、五代くんって」
「そこまで言う」
「事実よ、これも」
「はぅ〜〜〜」
 などと二人が漫才をしていると……
 rurururururu〜
 ふいに桜子の携帯が鳴り始めた。
 噂をすればではないが、案の定着信者名にははっきりくっきり『一条』の文字が。
「はい、沢渡です」
 まぁ居留守ぐらいは使ってあげてもいいかな…などと考えていた彼女の耳に入ってきたのは、緊迫した署内のざわめきをBGMにした刑事としての声だった。
『一条です。そこに五代はいますか? 江東区に未確認がでました!』



「あぁ、俺もすぐ現場に向かう。君はBTCSで先行してくれ。あぁ、頼む」
「五代くんか?」
 携帯を切り足早に地下駐車場へと向かう一条に杉田が確認する。後ろには桜井も駆けつけてきた。
「えぇ、すぐに向かうそうです」
「俺たちも行くぞ」
「はい」
 背後にいた桜井に声をかけて現場へと向かう。それを目で追いながら一条は再度携帯のナンバーを押した。
「榎田さんですか? 一条です。例の新兵器は使えますか? ………構いません、至急手配していただけますか? 現 場は江東区の………」



 第××号とクウガが睨みあう。場所は人気のない埋立地。
 ビートゴウラムを使ってようやくここまで運んできた。
 ここならば未確認が爆発しても被害は問題にならないだろう。
 動きの速い敵を補足するには時間がかかってしまったけれど、なんとかこれで終わりにできそうだ。
 じりっと間合いを詰める。右足にビリビリが走り、ライジングフォームと化したのが感じられる。
 その瞬間、クウガは宙を飛び、ライジングマイティキックを放った。
 

 
 轟音が響き、周囲が紅蓮に染まる。その煙も晴れぬ間に一条は爆心地へと車を向けた。
「一条、無理をするな」
 慌てて杉田たちも後を追った。
 遅れること数分でたどり着いた彼らが見たものは、すでに変身を解きBTCSへと向かう五代の姿。
 一条はと視線を横に流せば、なにやらバズーカ砲にも似たものを構えている。
 まさかまだ未確認が! と、再度2人の背筋に緊張が走る……が彼の狙う先にいるのは五代ただ一人で………
「な…! 一条!」
「止めてください! 一条さん!」
 動転して止めに走る。が、それは間に合うことはなくて、鈍い音とともにそれは発射された。
 ヒュルルル〜
 どこか気の抜けた音が天を走る。
 何事かと振り向いた五代の目前で、それは白煙を上げて広がった。そして、

「えぇ!!!」

 ばさぁ〜〜〜! こけっ。

 五代は巨大な網に捕獲されていた。ちなみに後ろの音は網に足を絡ませて五代がコケた音である。
「なんなんですか! これは」
「対未確認捕獲用ネットバズーカ試作品第五号」
 じたばたとネットの中で暴れる五代にけろりと一条が応える。
「榎田さんが開発したものでまだ試作品なんだが、テストの結果は良好だな」
「人を実験台にしないでください! 怪我でもしたらどうするんですか!」
「しばらくはおとなしくしていてくれて、俺としてはありがたいがな」
「!!! えぇっとぉ………あの…もしかして、怒ってます?」
「なにを怒るというんだ? 五代」
 と問い掛ける声は優しくても、瞳がきっちりそれを裏切ってたりして。
「あの…その…会えなかったのは色々と理由が会って…その…」
「言い訳は部屋に帰ってから聞いてやる。じっくりとな」
「!!!!!!!」
 その瞳のままに浮かべられた微笑みに、雄介の抵抗はあっけなく砕け散る。
 反射的に硬直してしまっている雄介を網ごと肩に担ぎ上げると、一条はすたすたと自分の車へと向かった。
 途中、杉田と桜井の前で一度足を止める。しかし成人男性一人担ぎ上げてこ揺るぎもしないところはさすがである。
「後のことは頼んでよろしいですね、杉田さん、桜井さん」
「あ…あぁ」
 唖然と成り行きを見ていた二人にそう言い置いて、一条は後部座席に雄介を乗せて車を発車させた。
 ひゅるり〜と風に吹かれつつ、ぽつりと桜井は呟いた。
「杉田さん……あれって拉致とか誘拐って言うんじゃあ……」
「桜井、世の中には知らないでいた方がいいことや、見ない振りをした方がいいことがたくさんあるんだ」
「……判りました」
 
『やっぱり未確認より一条(さん)の方が恐い』
 これから確実に五代を襲うであろう不幸に手を合わせつつも、目の前のお仕事に逃避する刑事二名であった。







一条に拉致された五代の運命はどうなってしまうのか……

それは皆様のご想像通り(笑) from ひかる


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