secret of my love 1 (樹志乃・シリアスバージョン)





「椿、お前一体何やってんだ」
ポンと机に置かれた1本のビデオ。
「あ」
しまった、という顔に少し呆れた顔をしてみせた。見境の無い奴だと思っていたが、まさ かホモビデオに出るとは・・。
「お前、医者としての立場だってあるだろ。迂闊だぞ。気付いたのが俺だけだったから良かったも のの・・・」
「はっはっは。いや、悪い。ちょっと面白そうだったんでな。でも、どうしたんだ、コレ」
「ああ、チョットこの件で聞きたい事があるんだ。このお前の相手の事、何か知ってたら教えて くれないか」
「・・・何かあるのか?」
声に潜む真摯さを感じとって椿は表情を引締めた。


このごろ立て続けに起きる連続殺人。年は皆20〜25頃、ちょっとベビーフェイスの男性。 そして新聞では発表されていないけれど皆レイプされていた。容疑者と思われる人物をなんと か絞り出し部屋に踏み込んだらすでにもぬけのからで。
何本も散らばっていうビデオには全て同じ人物が登場していた。
「どうやら、お前と同じ様に興味半分で出演してはまったらしいな」
「は、まあ、気持ちが分からんでもないがなあ」
「椿」
「いや、マジでいいんだわ。あいつの身体」
「あいつ・・?」
「はは、今日もこれからデートっだたりして」
「デート・・・て、おまえ、男同士だろ?」
「馬鹿だな。要は楽しけりゃいいんだよ。関係ないね」
「む、まあいい。お前の事だ。それより、俺もいっていいか」
ついていくのをいいか?と断るのでなく、ついていくからいいな、というのがアリアリ判ってた め息をつく。
「せっかくのデートなのになあ」
「お前、人の命がかかってんだぞ!」
「こっちだって、金も手間もかかってる」
「金・・・? まさか・・援助交際か?!」
「・・・俺ら、二人とも20こしてるんだぞ。馬鹿らしい」
「そういう問題じゃない!!」
平然とした椿にいくらなんでも、と呆れる。確かに面白いことは好きな奴だった。恋愛観も 自分の考えとは多少ちがう部分もあったけれど、箇々の恋愛においてはそれなりに真面目だっ たと思っていたが、金で買ったと思うと呆れると同時に、相手にたいして不思議 なくらいもの凄い嫌悪感がわいてきた。
「言っとくが、アイツに不快な思いさせたら即帰ってもらうからな!!」
付合いの長い椿のことだ。一条の感情の動きがわかったらしい。
「・・・・わかってる」
「お前は確かに法を守る警察官だが、自分の物差しで全てを計るなよ。人にはそれぞれの人生 があるんだ」
「ああ」
そう、確かに椿が納得してるなら俺が怒る筋合いではない。それに自分とは関係ない人間だ。 たった1度ビデオを見ただけの。
「ああ、もう余計な手間とらせやがって・・。今から出たら待たせちまう」
苛立たしげな言葉に再度驚く。正しくその扱いは本命に対する扱いと同じだったからだ。
「行くぞ!」
「あ・・・ああ」
一条は足早に部屋をでる椿の後を慌てて追った。



隣りに警察官を乗せているというのに、30キロオーバー程とばした椿の車が止まったのは城 南大学と記してある大学の駐車場だった。
「城南・・・大学?!」
日本でもコト遺跡関連に関してはトップクラスの、それだけではなかったが、まさしく日本5 本指にはいる大学だ。そこの・・?
「ここの、大学院の学生だ。」
「大学院生・・・?」
予想もだにしない展開に言葉がつまる。そんな一条を横目でみて苦笑する。
「一体なんでAVなんか出てるんだ」
「それは俺が答えるべき事じゃねえだろ。お前が直に聞けよ」
「・・・確かに。じゃあ、質問をかえる。お前は一体どうやって彼と知り合ったんだ?」
ふと、椿の表情がくもる。
「・・・・知合いがいてな」
低い声に隠った瞑い感情を読みとり、それ以上聞く事はできなかった。二人黙ったまま歩いて いく。ふと、椿の足がとまる。一緒にそちらをむくと人の一群がいた。
「また、囲まれてる・・」
苦々しげな呟きに目を見張る。
5〜6人の塊の中心にいた人物がコチラに気付く。
「椿さん!」
 周り取り囲んでいた者達に軽く挨拶をすると、こちらに向かって走ってきた。
「じゃあな、雄介!!」
「バイバイ!ユウ!」
 取りまいていた人間は実に国際色豊かで彼の名前も様々に呼ばれているらしい。だ が・・・、極普通の青年じゃないか。眉を顰める一条を横目で見て、椿は軽いため息をつい た。
どうせ、ビデオで見たマンマのイメージしかなかったのだろう。昼間の雄介は極々普通の 男で。夜の雄介はなんといえばいいのだろうか。男の本能を揺り起こしてしまうのだ。
椿のモットーはいつも楽しくである。女性を諄いて誘って連れ込んで美味しく頂く。椿にはそれを 楽しむ余裕がある。優しく紳士に接してお洒落な時間を楽しむのだ。
が、雄介の場合は違ってしまった。思わず我を忘れてのめりこんだ。身体を組みしき、 足を開かせ己が男根で貫く快楽に溺れた。捻臥せて、鳴かせて、ヨガらせて、縋らせて。 狩猟本能とでもいうのだろうか、同じ性を持つ者だからだろうか。 組み敷く快感がたまらなく良くって。
雄介は別の繋がりがあって顔見知りではあったのだ。 その時どうしても大金が必要だった雄介が手っ取り早く稼ぐにはそれしかなかったから 止めなかった。だったら、赤の他人よりは───AV男優なんてもっての他だ─── 自分が最初の相手になってやろうと思っただけだったのに。
嫌がったら止めてあげられるだろうと思ってのことだったのに。実際は止めるどころでな かったから笑ってしまう。
(しかし、あいつもただ者ではないよなあ)
 そのビデオは大当り。アッというまに雄介はソノ世界じゃアイドルになってしまった。次々 にくる出演依頼をどれがいいですかねえ、なんて目の前に台本並べられた日にはちょっと開い た口が閉まらなかった。雄介ニッコリ笑って曰く『ま、減るもんじゃないし、決まった相手が いる訳じゃないし、これしかないならやるしかないし。どうせやるなら楽しまなきゃね』その 柔軟な心にはまってしまった。そのままお付合いは続いている。
 ちなみにビデオは5〜6本で雄介はやめた。必要なお金が充分貯まったからだが、未だに誘 いは来るらしい。
「ちなみに、あいつ今はその仕事してねえぞ」
「それぐらい調べてある」
「んじゃ、早く聞きたいこと聞いてかえれ」
「・・・。」
 ムッとしているのは判ったが椿も念を押ずにいられない。
「アイツ忙しくて滅多に会えねえんだからよ。手短にしてくれよ」
「善処する」
 あ、テメー、ムカついた、連れてくんじゃなかったと、ブチブチいう椿を背に駆けてきた青 年の前に立った。そんな一条の背を見ながら、こういうタイプの奴がはまったらどうなるんだ ろう、なんて椿が考えているなんて知らずに。


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