Secret of my love

(ひかるバージョン)





「うわっ」
 ガラガラガシャン。
 角を曲がったとたん、衝撃とともにプラスチックケースが雪崩れてきた。
「すみません……って、なんだ、桜井じゃないか」
「ってぇ……、ん? 竹田か」
「どうした?」
「あ、杉田さん、こいつ警察学校の同期で竹田っていうんです。竹田、こちらは俺が今所属し ている合同捜査本部の杉田警部(補?)だ」
「生活安全部の竹田です。どうお見苦しいところを」
「あぁ、気にしないでくれ。それにしてもこれは……」
 周囲に散らばってるのはAVソフト。
「生活安全部所属だって言ったよな、それって確か」
「そういうことだ」
 小さく溜息をついて肩を竦める。生活安全部の仕事はタキに渡り、銃器薬物対策から少年犯罪対策、さらには風俗関係事犯の取り締まりも含まれていたりする。
「それで、これか」
「そういうことだ。まったく……たまらんぜ、これ全部見て、やばいのがないか、チェックし なけりゃならねぇんだから」
「男としては本望だろ」
「一本二本ならな。見ろよこの量。おまけに中にはホモビデオもあるんだぜ」
「AVでか? 世紀末だよなぁ……、あぁ、これか───」
 散らばったAVソフトの中から、男同士がパッケージカバーになっているのを見つけて取り 上げる。と、桜井の動きが止まった。
「まぁ、俺たちの頃とは時代も変わったってことか。ん? どうした? 桜井」
「す……杉田さん、こ…これっ」
「なに固まってるん───」
 AVのパッケージを見せられた杉田も固まった。
「……………」
「……………」
 そこには、以前から知ってはいたが、ごく最近ようやく名前と顔をを知ることができた青年 ───別名、未確認生命体第四号、つまり五代雄介が今より少し若い姿で笑っていた。(ちな みにタイトルは『ユウ are mine』なんていかがでしょう)
「これって、もしかして……」
「もしかしなくてもそうじゃないか」
 あの特徴のある顎のほくろもきっちり写ってたりするから、人違いで済ませてしまおうとしても、無理だろう。
「いいか、桜井、このことは一条には」
「言えるわけないですよ〜〜」
「私がどうかしましたか」
「わ〜〜〜〜!」
 噂をすれば影の言葉とおり、聞きなれた穏やかな声に振り返れば、今1番会いたくない相手 が立っていた。
「い…一条。どうしてここに」
「どうしてって、食事から戻ってきたところですが………? それがなにか」
「いや、なんでもないなんでも。なぁ、桜井」
「そうです。なんでもありま──」
 ガシャン。
 慌てて身振り手振り付きで否定したのはいいが、あまりにも勢いよく否定したため、勢い 余って持っていた『モノ』を落としてしまったのはもう、悪魔の導きとしかいいようがないだろう。
「落ちましたよ───」
 一条の動きが止まる。
「……………」
「……………」
 あぁ、沈黙が重い。
「これは君が?」
「あ、はい。先週の一斉摘発で押収されたものです」
 と、視線がわけも判らず釣られて固まっていた竹田へと視線が止まる。
「これの一斉摘発。というと君は生活安全部、ですか」
「はい、生活安全部の竹田です」
「私は合同捜査本部の一条警部補です。それで、君はこのビデオを見たのか?」
「いえ、まだですけど」
「そうか、ならいいです。これは私が預かります。他に同様のものはありますか」
「え? えっと、確か4,5本。あぁ、これとこれと………」
 いくつか男同士らしいAVがピックアップされる。その中から一条は2本を抜き出した。
「ではこの2本も。残りは結構です。では失礼します」
 そしてその3本を隠しもせずに小脇に抱えると、堂々と所内を歩き去って行った。
 そして30秒後。
「あ〜〜〜! おい、桜井。なんなんだよ、あれ! つい勢いに押されて渡しちまったけど、 あれはまだ未チェックなんだぜ。あれはまずいって。あぁ課長にまた怒られる」
「そっちには俺から言っておく。だから君も今のことは、くれぐれも口外しないでくれ」
「そりゃ、話通してくれるんならいいですけど。もしかしてあの人、そういう趣味なんです か? 確かに男にしては綺麗な顔してましたけど」
 けどキャリアだからって、そういうのが許されるもんなんですか。
「あれはそういう問題じゃなくてな」
 いや、そういう問題もあるのだろうが。
「とにかく、このことはうちの合同捜査本部内の機密に関わることなんでな。くれぐれも口外 しないようにしてくれ」
「はぁ、機密ですか」
「そういうことだ。そろそろ行きたまえ」
 まったく信じてないようだが、そこは警察、階級社会。上下関係を盾にとって黙らせる。我 ながら目一杯嘘っぽいと思うのだが、『彼』に関することはなんであれ、『対未確認生命体合 同捜査本部の機密に関わること』であるのは紛れもない事実だったりする。まぁそれが更に頭 痛もんなんだが。
「どうしましょう。杉田さん」
「どうしましょうって………、どうなるんだか」
 その『彼』──五代雄介に対して、合同捜査本部の実質的なリーダーとも言える一条警部補 がただならぬ思いを抱いているというのは、彼ら2人に共通した見解だったりする。ついでに 外見はとってもクールに見える一条が、その実目的のためには、か〜な〜り手段を問わない過 激な性格であることも、よぉ〜っく知ってたりする(ほら、TRCSやBTCSの件)。その 一条が、思い人のあんなAVを見た日には………
 2人は揃って天を仰いだ。



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