オランダに行こう!







 そのニュースが流れたのは、夕食後二人でお茶など飲んでいる時だった。

『オランダでは同性同士の婚姻を認める法律が可決されました』

 湯飲みを口に運びかけていた腕を膝へと降ろし、一条はじぃ〜とTVを見据えている。思 いっきり嫌ぁな予感が雄介を襲った。

『その新法のもとこの日、三組のカップルが結婚し………』

 途中、喜びに笑顔を浮かべたカップル達の映像が中継され、彼らは嬉しそうにキスをしてい る。
 
『法律で同性同士の婚姻を認めたのはオランダがはじめてです。では次のニュースです』

 映像がスタジオに切り替わりキャスターが新しいニュースを読み始める。その声をBGMに 一条はおもむろに口を開いた。
「雄介、」
「嫌です」
 間髪入れずに雄介も却下にかかる。
「まだ何も言ってないんだが」
「言わなくても想像付きます」
 なにしろさっきのニュースの今である。雄介でなくても誰だって想像付くというものだ。
「言っておきますけど、絶対に俺はオランダになんて行きませんからね」
「どうして!?」
 雄介の言葉に一条が不服の色を見せる。やっぱり図星だったか。
「どうしてもです。だいたい行ってどうする気なんです」
「そりゃあ……」
「俺はたとえ相手が一条さんでも、結婚なんてする気はありませんからね」
 一条の言葉をビシバシと雄介が容赦なく叩き落す。なにしろ相手はあの一条なのだ。考えう ることはすべて却下しておかないと、どう暴走するか知れたものではない。けして長いとは言 えない一条との生活の中で、雄介もかなり学習したらしい。
「それに冷静になって考えてください。さっきのニュースですけど、あれはオランダ国内で認 められたってだけで、この日本ではなんの効力もないんです。そんなの意味ないでしょう」
「しかしだな……」
「なんと言われようとダメです。諦めてください」
 度重なる雄介の否定にもメゲない一条に溜息がこぼれる。全く諦めの悪い男である。どうや ら雄介を法的にも自分のものと宣言できるというのがどうしても捨て難いらしい。
「ならいっそのことオランダに移住……」
「する気もありません。だいたいそんな簡単にいけるわけないでしょう」
「それがあるんだ」
「は?」
「日本を離れる気はなかったんで断ったんだが、実はICPOの方へ出向という話があって」
「ICPOに! そんなこと…俺、聞いてませんよ!」
 雄介が絶句する。
 しかしICPOも大胆なことを。こんな天上天下唯我独尊男を招き寄せてどうしようという のか。なんでも対未確認時の功績を買われてのことらしいが───どうやらその時の暴走ぶり は知られてないらしい。
「断ったと言ったろう。はじめから行く気はなかったから。だがそうと知っていれば……」
「だから行かないと言ってるでしょう」
「俺に単身赴任をさせる気か!」
「断ったんだからそれでいいじゃないですか!」
「最近の雄介は冷たい。俺がこんなに愛してるのに」
「問題が違うでしょう!!!」

 気が付けばすっかり痴話喧嘩と化している。
 その後、どうなったかというと………とりあえず今のところは二人とも日本で暮らしてはい るようである。あくまでも今のところは、だが……






あのニュースを見た腐女子なら、誰でも考えるネタ。
でも間髪入れずに却下するのがうちの雄介だよな。
ひかる


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