初 詣 で






※ この話はボーイフレンドシリーズの続きだと思ってくださいね。
特殊な設定ですので駄目駄目な人は避けてね、なぜかは読めばわかるよん


「アレ? 一条」
「・・・・・・椿・・・なにしてるんだ?」
新年そうそう、ポレポレの前で出会った二人は素っ頓狂な声を上げた。
「なにって、迎えにきたのさ」
「誰を」
「誰をって・・・・・」
珍しく口篭もった椿に一条が顔を顰めた。
「その、みのり、さんだ」
「・・・は?」
予想もしていなかった名前に一条は思わず聞き返してしまった。
「だから、みのりさんだ」
「・・・なんでお前がみのりさんを迎えにくるんだ?」
「・・・・なんでだろう?」
不思議そうな一条の問に椿も首を傾げた。


五代が冒険から帰ってきてから、一条も長野から東京へ引越しをした。正式に異動を命じられたのだ。 未確認への対応と実績が認められ昇進の話もでたのだが、一条は『身に余る』と辞退し、いまだに 警部補のままだ。

それは何故か。


「で、一条は何しにきたんだ。第一仕事はいいのか?」
「ああ、俺はローテーションから外された」
椿の問に一条がブスッとして答えた。
「何で」
「・・・・・・休みが余りすぎていると」
「ああ、そっか、一応公務員だものな」
「・・・・・・・・・」

はっきり言って、一条の体力は有り余っているのだ。なんってったって、あの未確認相手に戦ってきて 不死身ぶりを見せつけた一条にとって、一般人の相手では物足りないのだ。・・・口に出しては いえないけど。
ましてや、いまや一条の名前はその手の者が知らぬものはいない、というほどに知れ渡ってしまっている のだ。

未確認相手に生延びた不死身の刑事・一条薫、又の名を『未確認刑事』

そりゃ、誰だって相手をされるのは嫌だろう。
おかげで一条が出てきて解決しなかった事件などないのだ。

よって一条は体力を持て余し、その結果、余った体力は五代にいく事になって。

結果、五代は一条と住むのを躊躇しているのである。そして一条はさらに体力を持て余し悪循環と・・・。

もとい。

「そんで?」
「初詣だ」
「は?」
「初詣に行くんだ、これから」
「・・・・去年から一緒じゃないのか?」
「去年は仕事だった」
「・・・・」
むっつりとした一条をみて暫し考えこんでいた椿だったが、思い当たることが合ったらしい、はっは〜ん、 と片目を眇めてみせた。
「五代に逃げられたんだろ」
「・・・・仕事だといっただろう」
目を細めてみせた一条の表情が椿の言葉を当たらずも遠からじ、といったのを示している。
「あんな寒いところでしているからだ」
「煩い」
「・・ということは、今年は除夜の鐘ついてないのか(密談・PartU参照)」
「まあな」
「じゃあ、新年そうそう煩悩まみれだな」
「・・・」
二人は暫し黙って見つめあい。
椿が咳払いをした.
「ま、取り合えず、なんだ。ココで立ってるのもなんだし」
「・・・・」
「中にはいるか」
「そうだな」
ポレポレのドアの前で話こんでいた二人は本日休業の札が下がった扉をあけたのだった。



「・・・五代達は上か?」
店の中には人気がなく綺麗に片付けられていた。
全ての椅子がテーブルの上にあげられており、二人は所在なげに立ち尽くした。
「・・・ココで待ち合わせなのか?」
「んあ? ああ、みのりさんがココに来て欲しい、っていったんだけどな」
と頭をかく椿を一条が見つめる。その視線に気が付いた椿が片眉を上げた。
「・・・なんだよ」
「沢渡さんはどうした」
「・・・・え?」
「どうしてみのりさんなんだ?」
一条の言葉に椿が頭をかいた。
「沢渡さんは、今、日本にいねぇんだよ。なんか遺跡の研究とかなんとかってな」
「それで?」
「・・・・俺もわかんねぇんだよな、みのりさんみたいなの初めてだし」
確かに、あの年にしてみのりの方が椿を掌で転がしているようなイメージがある。
「ま、みのりさんにとって俺は問題外っつうのも、ちょっと悔しいような気もするし」
あの、五代を兄にもちながらも常に平然とし、自分が一番好きなのは五代だと言ってはばからないみのり だから、ある意味健全な椿などまるで子供のようなのかも知れない。結構お似合いなのでは、と言い かけた一条の言葉を悲鳴と何かが倒れる物音が遮った。
「!」
「二階だ!!」
二人が顔を見合わせて階段を駆け上がり、勝手知ったるなんとか、と五代の部屋の扉のノブに手を かけて。
「どうした! 五代!」
「なにかあったのか!!」
ガッ!!とあけた途端。
「きゃ――――!! 開けちゃ駄目!!!」
の言葉と共に帯の塊が飛んできて椿の顔面に命中した。
「早く閉めて下さいって!!」
「わ、判った!!」
一条が(もちろん、一番最初に部屋に入った一条だったが飛んできた帯が目に入った途端とっさによけた のだ。『俺は一条の影になっていたので反応に遅れてしまったのだ!!』とは椿談)扉を閉めると、 足元には綺麗な帯が転がっていた。
「すいませ〜ん、一条さん、ソレもって中にはいってきてもらえます?」
中からみのりの声がする。一条がいわれるがままに手にとると椿が不服そうな顔をしていた。
「・・・・なんだ」
「なんで、お前だけ中に入れるんだよ」
「だって、一条さん、お義兄さんだもの〜」
小さな声だったのに、椿の問いには部屋の中からみのりが返事を返した。
ただ、返事の内容に二人とも絶句してしまったのだけれど。しばらくの間の後、一条は咳払いを一つ 小さくするとドアをノックした。
そこで一条の見たものは。

「だから、固結びしちゃ駄目だって!!」
「だって解けそうなんだもん〜」
「大丈夫、こっちもって、そう」
「こ、こう?」
「そう、次は着物きて・・・そう、袖通したら裾を調節して・・・」
「こんなモンかな・・・」
「もうちょっと下かな」
「ウン・・・」
「で、たるませて・・・皺にならないようにね・・・で右、左で、そのまま押さえて紐で結ぶと・・・」
「えっと、こうして・・・あれ?」
「違うって、だから・・・」
「駄目! お兄ちゃんは手ださないで!」
「でも時間が掛かるし・・・」
「大丈夫! 一人でするの!!」

何故か女物の着物を着ている五代が立っていて。
「・・・五代?」
「あ、すいません、帯そこに置いてもらえます?」
「あ、ああ」
それだけ言うと又みのりに向き合ってしまった。
「そんなこと言ったって椿さんがもう、迎えにきてるんだろ?」
「平気だって、それより滅多にチャンスがないんだからココで着れるようになっておきたいの」
「でも、別に今じゃなくったって・・・・」
「だって、何があるか判らないでしょ」
みのりが首を傾げて答えると、五代の手がピタリ、と止まった。
「な、何があるかわからないって・・・・!」
五代は考える。みのりが一緒に初詣にいくのはあの、椿だ。もしやと思うが、なにか着付けが出来なければ いけないような事が起きるといったら。
「み、みのり!!」
「大丈夫だって、みのりバージンロードは処女のまんま歩くつもりだし」
「で、でも・・・」
「や〜ね、私みたいなお子様、椿さんが相手にする筈ないじゃない」
とケラケラ笑うみのりに五代がむきになる。
「そんなことないよ! みのり可愛いから」
「でもね、椿さんタイプじゃないから」
「そ、そうか?」
「うん、みのり、お兄ちゃんより強い人じゃいとやだし」

―――いない、いない。
五代の兄弟の会話を黙って聞いていた一条は、みのりの言葉に思わず心の中で突っ込んでみたり。
「それに、初めてはお兄ちゃんって決めてたんだも〜ん♪」
サラリ、とみのりの口から漏れた言葉に一条の身体が硬直するが。
「は?」
「ううん、なんでもな〜い」
幸い聞こえていなかった五代が問い返すと、ニッコリ笑って答えるみのりの視線はしっかり一条を向いて いたりした。
一条の、あの、視線に全然動じていないみのりには年が明けてさらにグレードアップしたようだ。
「そういえば一条さん、どうしたんですか?」
そんな雰囲気も全然気付かない五代がのんびりと一条に尋ねる。
「いや、初詣に行こうと思ったんだが」
「あ、じゃあ、もう少し待っててくださいね、もう一寸で終わりますから」
そういうと、なんとかみのりが体勢を整えるを待って真横に立った。
「じゃあ、最後に帯に行くよ」
「うん」

それから、二十分。
一条は五代兄妹が着物と格闘するのを息を呑んで見学したのだった。

「じゃあ、お兄ちゃん、いってきます〜」
「いってらっしゃい! あんまり走ったりするなよ!」
「は〜い」
「椿さんもみのりの事お願いしますね」
「おう」
「変な所に連れ込んだりしないでくださいよ!!」
「するか!」

そういって、なんとか一人で着物を着ることができたみのりは椿と連れだって出かけていき、五代は振袖の まま見送ったのだった。幸い、正月と言うこともあって人通りがなかったから誰も五代のその姿を見る ものはいなかったけれども、存外着物姿も似合っていて、新年早々一条は自分の夢がかないそうで (表情にはでないけれど)内心にやけていたりするのだ。
「すいません、一条さん、なんだかドタバタしちゃって」
みのり達の姿が見えなくなった頃、五代がすまなそうに一条を見上げた。
「いや、俺は一人っ子だったからわからないが、結構楽しかったぞ」
「そうですか?」
「ああ、それにしても仲がいいな」
一条の言葉に五代が嬉しそうに微笑んだ。
「あの着物、俺のお手製なんですよ」
「そうなのか」
「はい」
二人は会話しながらポレポレに戻り階段を五代の部屋に向かう。
「俺の1568番目の技に和裁があるんです」
「和裁?」
「はい、着物は高かったから、反物だけかって俺が作りました。ちなみに着付けもバッチリです」
「そうか」
「俺なんかの作ってくれた着物、みのりはすっごく喜んでくれて・・・それから毎年正月にあわせて作るように なったんですよ」
「・・・・五代が作ったものだからさ」
優しい一条の言葉に五代が思わず振り向く。
「だからこそ、みのりさんは嬉しいんだろう。他の誰でもない、大好きな兄が作ってくれた、この世に たった一つの着物だからな」
「一条さん・・・」
やわらかく身体に染みてくる一条の言葉に五代は照れながらも嬉しそうに頷いた。
「しかし、五代が着ているのもそうなのか?」
「あ、はい、これは一昨年みのりに作ってあげたんですよ」
そう言って五代が袖を広げるのを一条はまじまじと見詰めた。
「・・・しかし、着れるもんなんだな・・」
感心したように呟く一条に五代が苦笑する。なんだかんだ話しながらとうとう部屋の前まできた五代は扉を 開けて一条を招き入れた。
「まあ、男の方が肉付きが薄いですからね。着物だとなで肩に寸胴の方がいいから身体の凹凸を無くすために タオルを巻いたりするんですよ」
「そうなのか・・・」
と、いったんそこで会話をきって、じゃ着替えますね、と五代がいったとき。
「・・・一条さん?」
「別に着替える必要は無いんじゃないか?」
と手をとられて、ニッコリ微笑まれ、五代は笑ってしまった。
「え?」
「折角着たんだから脱ぐのはもったいないだろう」
怖いぐらいに鮮やかな一条のこの微笑には、五代十分見覚えがあった。それは五代にとっては良くない事を 考えているときの『悪魔の微笑』なのだ!
「でっ、でも!! は、初詣に行かなきゃいけないし・・・!!」
「出かけるのは何時でもできるだろう? 折角ひさしぶりに合えたんだから少しゆっくりしたいし」
「ええっ!!? でっ、でもっ!!」
じりじりと間合いを詰めてくる一条に五代は後ずさるのだが、なにせそんなに広くない部屋の中あっという まに壁にぶつかってしまった。五代の背筋を冷たい汗が流れる。
「それにココ暫く食べてないから腹が空いているんだ」
「じゃっ! じゃあ、御節でもっ!!」
「その腹じゃないのは知ってるんだろう?」
―――― ピキっと。
思わず固まってしまった五代のスキをつき振袖を掴み動きを押さえ込む。振袖の袖は長く其処を押さえられて しまうとどうしようもない。
「美味そうだな、五代」
ここにきて、五代は自ら墓穴を掘ってしまった事に気付いたのだった。動きが拘束される着物ではどうも こうも逃げ様がないし、自分のこの姿がかえって一条を興奮させているらしい事が恐ろしい。
「いっ、一条さん! 落ち着いて! ねっ!?」
「何言ってるんだ、五代。俺は十分おちついているさ」
そう言った一条の低く掠れた声の裏側に隠れたものを読み取って固まってしまった五代の身体を、軽々と 抱きあげて。


「いただきます」
「にゃあああああああああ!!!」


新年早々、こうして五代は美味しく頂かれてしまうのでした。





おまけ。


「ね? 美味くいったでしょう?」
「そうですね」
そのころ、みのりと椿は初詣をすませた帰り道、喫茶店によってコーヒーを飲んでいた。
「まさか、あんなに美味く振袖姿がみれるとは思っても見なかったな」
椿の感心したような呟きにみのりが、ふふふ、と笑って見せた。
「私も一度見ておきたかったんですよね〜、お兄ちゃんの晴れ姿」
「・・・・」
それは晴れ姿と言わないのでは・・・と思いつつも賢い椿は口には出さずに黙ってコーヒーを飲んだ。
「折角着物きたんだから写真の一枚ぐらい欲しかったんだけど・・・・」
そういってみのりが上目遣いに椿を見る。
「どうせ、椿さんの撮ったものじゃ飾っておけませんもんね」
ピクリ、と椿の手が止まる。おそるおそる眼を向けるとみのりがニッコリと微笑んだ。
「・・・もちろん、みのりさんの目は通していただきますので」
「はい♪」


その、余裕の返事に。
なにやら孫悟空になった気持ちを味わう椿なのでした。






皆様、新年あけましておめでとうございます。
さて、今年一年最初の作品がこれってどうよ、と思いつつ楽しんで書かさせていただきました。
ゆっくり休みをとってネタは頭にテンコモリです。どの順番から書いていこうかな、と。
とりあえず、次は裏でしょう。
かきたかったんだ〜。「あれ〜〜」「よいではないか、よいではないか」クルクル。
・・・・・・腐ってます?


樹  志乃

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