注意一秒、怪我一生







「大丈夫か?! 五代雄介!!」

未確認との闘いは何とか今日も勝つことが出来た。・・・一寸右肩を怪我しちゃったけど・・・。
あ〜あ・・・、又一条さんが、心配そうな顔で走ってくるよ・・・。この頃は奴らも強さを増してき て段々苦戦を強いられてくる。どんなに注意しても怪我はしてしまう。まあ、これぐらいの怪 我ならアマダムの石が治してしまうのだけど・・・。
「何処を怪我したんだ!!」
「や、大丈夫ですって!!これぐらい一晩寝れば治ります!」
あ、眉間にそんに皺寄せちゃって・・・・。いつもそんな顔して、いい男がだいなしですよ!・・・ なぁんていったら怒るんだろうな。そんな綺麗なんだから笑ったらもっといいのになぁって思 う。
「全然っ、平気ですって!!」
「椿の所にいくぞ」
怒るでもなくじっと見つめられて。そんな目で見られて嫌なんて言えっこないよ。
「・・・・・はぁ〜い・・・・」
一度言い出したら聞かないんだから・・・。本人がいいっていってんのに・・・・と思いつつ、仕方 なくビートチェイサ―のハンドルをとろうとして右肩に走った思いもがけない激痛。俺は悲鳴 を堪えきれず―――――ましてこんな重く感じたのは初めてだ――――――ビートチェイサー を倒してしまった。
「ぅあっ・・・!!」
「五代!!」
「ッ・・・!!」
「だから無理するなといったんだ!!」
そんな耳元で怒鳴んないで下さいよう・・・、本当に怒ると怖いんだからぁ・・・、といつもなら出 る軽口すら出ない。痛みに蹲っていると、フワッ・・・と身体が浮く感覚に一瞬自分がどうなっ たのかわからなかった。
「一条!! 五代っく・・・・」
一寸遅れて杉田さん達登場ってのは良いんですけど・・・ほらほらほらほら!! 杉田さん達 だって呆気にとられてるじゃないですか!どうして、俺がお姫様抱っこされにゃあかんのです か―――――!!
「あ・・・、五、代君、どうしたんだ?」
何か言いたいのだけど俺ってば、あんまり恥ずかしくって口がパクパクするだけで言葉が出な い。
「怪我が酷いようなのでこのまま関東医大へ連れて行きます。申し分けありませんがビート チェイサーを頼んでもよろしいでしょうか?」
もう、一条さんたら、俺にはお構いなしだ。
「一条さんてば、平気ですから、降ろしてください」
「黙ってろ」
同じような身長しているくせに俺を抱き上げてふらつきもしないよ・・・。抱き上げられて気が 付いたんだけど一条さんの方が俺より全然逞しい。腕の太さも、胸板の厚さも、身体の筋肉も すっごく硬くて、・・・俺自分が貧弱に感じられて一寸ショック。
「では、よろしくお願い致します」
杉田さん達の返事も聞かずに車の助手席に乗せられる。
「一条さん、本当に平気です、こんなの一晩寝れば治ります。自分の身体だからわかるんで す」
「だめだ、・・・・なにかあってからでは遅いんだ。・・・・・心配なんだ」
うぅ――――――――、いい男がそんな顔しないでくださいよう。
「・・・・判りました・・・。スイマセン」
渋々とはいえ了承の言葉に一条さんは漸く笑ってくれた。



「ま、今晩一晩動かすな。回復のスピードは前より上がっているから明日には治ってんだろ」
俺にはこれ以上する事はないな、と椿先生はカルテを見ながら言った。
「ま、今晩一晩は不便な生活、我慢するんだな」
とニヤニヤして俺を見る。
「ま、誰か手伝ってくれる人がいるなら大丈夫だけどぉ〜? 洋服着替えさせくれたりとか、 風呂入るのてつだってくれたりとかぁ〜?」
あ、ムカツク。
「じゃ、桜子さんに頼みます」
「あ、お前、それは俺が許さん!!」
パッと左手を抑えられてしまう。
「あ、なにすんですかっ!」
「フッフッフッフ。動けまい」
右手はまだ動かないから左手をとられてしまっては俺としてはスッゴイ無防備になってしま う。検査着だって、ちゃんと結べてないからはだけてしまうのに。
「・・・・なんですか?」
ジィ――――っと見られて焦る。
「おまえ、本当にいい身体してんなぁ、・・・なぁ、一度でいいから俺に解剖させてくんな い?」
ひゃ―――――!! 笑顔だけど目がマジだっ!!
「や!です。・・・それに良い身体っていうなら一条さんのほうだと思いますけど?」
「なんで?」
「・・・・・・俺、今日、お姫様抱っこされちゃって・・・・」
「・・・・・へ・・・?」
「そんとき、ちょっと、俺を抱き上げてふらつきもしない一条さんみて、こう自己嫌悪ッつう か・・・・」
ブブッ!! と椿さんは噴出して、ジトッとにらむ俺に気が付いたのかすんでのところで笑い を堪えた。
「・・・・ま、なんだな。あいつ、着痩せするからな」
「別に、いいですけど」
「ま、そんなことよりだ」
左手を取られたままクルリと回され椿さんの腕の中に収まってしまった。そのまま、アマダム の石がある辺りを上から抑えられる。その手の温もりにゾクッとしたものが背筋を走る。その まま耳元で椿さんが囁く。
「な、一度で良いからさ・・・解剖させて・・・・・?」
「やっ・・・・! 一度も何も解剖されちゃったら、俺死んじゃうじゃないですか!!」
「いや、お前なら大丈夫なような気がする。なんてったって、一度死んで蘇る男だし」
「ダメです!!」
「ええぇ〜? いいじゃんかよう」
あ、椿さんの目が半分以上マジになっている。キラキラ輝いちゃってるし。
「終ったか・・・・・って、ナニしてるんだ」
ああ!! 俺の救いの神が!! ドアを開けて入ってきた一条さんに椿の手が緩む。俺はその 隙をついて逃げ出し一条さんの背に隠れた。ここなら手出しは出来ないし、言いつけちゃる。
「椿さんが解剖させろって・・・」
「・・・・椿・・・」
「おお、こわぁ〜い。まだ、なんにもしてねえよ。そんな顔すんなよ」
ニヤニヤしながら椿さんが俺のジーンズを手に取った。
「ほら、もうなんにもしないからコッチ来い。穿かせてやるから」
「そんな事してくれなくったて大丈夫です。返してください」
「無理すんなよ、動かねぇんだから」
「・・・? どういうことだ?」
一条さん俺をみる。黙ってしまった俺のかわりに椿さんが答えた。
「ああ、いまこいつ右手使えねぇんだよ。一人じゃ着替えもロクにできないからな」
一条さんが俺を振り向く。そんなに酷かったのか、と咎めるような目。
「や、安静にしとけってだけで、別に・・・・」
上目遣いで一条さんをみる俺をしばらく見ていたがやがて溜息を付くと椿さんからジーンズを 取り上げた。
「判った、貸せ。俺がしよう」
と言って、一条さんは膝を着いてしまった。
「ちょ、ちょっとやめて下さいって、自分で履けますってば・・・!」
「ほら、足を出せ」
思わず救いを求めて椿さんをみると腹を抱えて笑っている。しかも目なんか涙目だよ・・・。う うううっ!!
―――――――何時までも一条さんを跪かせる訳にはいかないし、仕方なしに差し出された ジーンズに足を通した。止めるまもなくジーンズを穿かされチャックまで上げられてしまっ た。
「Tシャツは肩を動かせないなら着ないほうが良いだろう」
「え?」
俺ってば、Tシャツに重ね着してるだけだから、上着1枚じゃ寒いんだけど・・・すでにTシャツは 一条さんの手の中だし、とりあえず、言われたとおり上着だけきると一条さんが自分のスーツ の上着を肩からかけてくれた。
「これを羽織っていろ。車までだから、寒いのは多少我慢してくれ」
「車って・・・」
「その手じゃバイクの運転は無理だ。普段の生活にも支障があるだろう。今日は俺の部屋に泊 まっていくといい」
「え、でも」
「そうしてもらえ、五代」
椿さんが口を挟む。
「言ったろ? 洋服の着替えや、フロ入るの手伝ってもらえる人がいた方がいいって」
「椿さん! 俺、一人でできますって!」
「ムリムリ。今は手が動かないんだぞ」
「五代・・・・」
一条さんが俺を覗き込む。心配そうな目。俺が一度死んでから一条さんはこんな目で俺を見 る。黙ってしまった俺の方を一条さんが抱きかかえるように包み込む。
「さ、行くぞ」
ごめんなさい。俺、いつも心配かけてるんですね。こうすることで、一条さんが安心するなら そうしよう。
「一条、手は使わせんなよ」
「使いませんてば!!」
一条さんのかわりに答えると椿さんはニヤニヤしている。なんだ?
「さ、行こう」
一条さんに促されて俺たちは椿さんの診察室を後にした。





すごい! 樹さんの話なのに、一条さんが紳士だ
………今のところは。(ひかる)


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