Beginning (後編)

それは、一週間ほど前のこと。
幼馴染であるあかりの買い物に付き合って、夕食をとったその帰り。ちょっと遅くなってしまったが、駅の前の大通りは人もまだ多く、二人は帰り道を急いでいたとき
のこと。

「か〜の女!」

 と声が聞こえ、そのときは全くどこぞの男がまたナンパしてるよ・・・ぐらいにしかヒカルは思っていなかった。
が。

「ねぇねぇ、彼女達、どこ行くの?」
「俺達と飲みにいかない?」
「カラオケでもいいし、おごっちゃうよ♪」

などと立て続けの誘いの言葉が聞こえてきたときには、オイオイ、頑張ってるぞぉ・・・なんて思っていた。なんとなく二人顔を見合わせて笑ってしまう。
「どこにでもいるのよね、ああいう奴って」
「仕方ないよ、ここ繁華街だしね」
「でもあかりも気をつけろよ」
「なにが?」
「ああいうのにひっかからないように、ってこと!」
「やだ! 反対にヒカルこそ気をつけてよ」
 せっかく心配して注意したのに、反対に注意しかえされてヒカルが唇を尖らせる。なんで俺が、といいかけたその瞬間。

「ねぇねぇ! 彼女たち! シカトすんなよ〜」
 と後ろから飛び掛かられて。
「ええっ!?」
 思わずさけんでしまったヒカルとあかりだった。

「はははははははははは!」
「もう! 笑わないでくださいよっ!!」

 腹を抱えて大爆笑している芦原にヒカルが叫ぶ。辺りを見回せば、芦原とまではいかないものの皆笑いを堪えるのに精一杯のようだ。
 が、唯一の例外もいたようで。
「で、それからどうしたんだ」
 仏頂面した緒方が問われてヒカルが目を見開いた。なにやら不機嫌なようだがその
理由がつかめない。
「ね、どうしかした?」
「なにが」
「え、なんか、怒ってるみたいだし」
「面白くないからな」
「なんで?」
「・・・・・・・・・理由を聞きたいか?」
 不思議に思って聞き返したヒカルは、真正面から緒方に覗き込まれて思わず息を呑んでしまった。緒方のその瞳に、訳も判らず貫かれて、ヒカルの心臓が一気に 高なってしまう。
(な、なんだ〜!! や、やばいってば!!)
慌てて視線をそらして、うつむくとそんな自分の様子を笑う緒方のくぐもった声が聞こえて、顔がかぁ・・・っと赤くなるのを自覚する。
どうも、緒方は突然理解できなくなることがあって、困ってしまう。こんなふうに急に距離を狭められてしまうとどうしていいか、わからなくなるのだ。
ヒカルにとって緒方とは完全に大人の男であり、未知の物体≠ニもいえる相手だ。伊角も同じ様に大人ではあるけれど、大人の男≠ニはヒカルにとっては言いが たい。又、自分の父親とも違うし、他の知っているどの大人とも、ましてやアキラの父である塔矢行洋とも違うように感じられてしまう。
 そんな緒方に、時々、妙にドキドキさせられてしまうのだ。
(もう、なんなんだ、俺!)
 一番過敏な時を佐為と過ごした所為で、包み込まれるように守られ、導かれる心地よさをヒカルは知っているから、だから、ついついソレを求めてしまいがちな自分 を知っていて焦ってしまうのだ。
(やばいだろ! 俺! 女の子といるよりおっさんや野郎と一緒にいるほうが楽しいっつうのも問題だろー!?・・・で、でも、今のところ誰にも迷惑かけてない・・・筈だ し・・・・このまんまでも・・・・・いや、駄目だー!!)
がっ、とヒカルは頭を抱える。
(まずは出会いだ! 出会いがないと!!)
 が、それにはヒカルの置かれている環境はよくないのだ。
昨今女流棋士が増えてきたとはいえ、まだまだ囲碁の世界は男性社会だ。上位はほぼ男性で占められており、かといって、碁を打つ時間を割いてまで出会いを求め るほど、時間の余裕があるわけでもない。自分が馬鹿が付くほど囲碁にのめりこんでいる自覚は十分にあるヒカルだ。そんな時間があったら自分より強い相手と何 度も碁を打つほうを選んでしまうのだから。
だから自分より強い女流棋士がいれば条件はぴったりなんだよな、など、とても人
に言ってはいけないことまでぼんやりと考えていたら。

「・・・進藤?」
「ひゃっ!」
突然、ぐに、と軽く頬をつままれてヒカルがすっとんきょうな声を上げる。
「な、なにすんだよっ!緒方さんっ!」
「人と話している最中に寝ているからだ」
「寝てないってば!!」
慌てて緒方の手を押しやれば、簡単にあしらわれてヒカルは余計むきになる。
「・・・ちょっとむかつくなー・・・」
「そうだね・・・・」
「同じく」
その光景は、はたからみればいちゃついている以外のなにものでもない二人の様子に和谷達の眉間に皺がよる。このままでは面白くないので、伊角はヒカルの注意 を引き戻すべく、声をかえた。
「で、結局その人どうしたの?」
「ん、ああ、俺は男だから、って追い払ったよ」
伊角の思惑通り、ヒカルの注意が緒方から引き離されると小さな舌打が聞こえたが、勿論伊角はそれを綺麗に無視した。
「そーじゃないだろ?」
「し、白川さん!」
「なんか、進藤君の言葉に『マジッ!?』とか言われて凄い驚かれたんだって?」
「あ、あかりの奴、そんなことまで話したの!?」
「うん、藤崎さん、プリプリ怒ってた。なんか腰に手を回されたとか?」
「手に腰だとっ!!」
「・・・和谷ってば、逆だよ、逆」
思わず声を上げてしまった和谷を伊角がたしなめる。それはいつもの事なのか、当然ヒカルはスルーだ。
「ん、そいつってば、突然後ろから飛びついてきてさー・・・・」
その瞬間、アキラの手にしているコップが、ピシッ・・・などと音を立てたりしたが、あえて誰もそれには触れないでおく。
「両手で俺達の腰を抱いてくんだもん、やんなっちゃうよ・・・」
「進藤君、藤崎さんとそんなに体重変わんないんだって?」
「ええっ!」
白川のその言葉には、さすがに周囲から驚きの声が上がる。
「進藤ってば、いま体重どれぐらい?」
「ど、どれぐらいって、いいだろ、別に・・・」
その点についてかなりあかりに責められたのか、ヒカルは不服そうに口をつぐむ。
「じゃ、身長って今どれぐらいなんだ?」
「っ・・・アキラには関係ないだろっ!」
ヒカルが唇を尖らせる。
「165・・・ぐらいか?」
「も、もっとあるしっ!」
容赦ない緒方の言葉に、ヒカルがむきになって声を張り上げた。
「ほう、何センチだ?」
「俺が何センチだって別にいいじゃないかっ! 身長で碁を打つわけじゃないんだから!」
緒方につっこまれるヒカルに、まあまあ、と白川が宥めながらも追い討ちをかけた。
「なんか、サイズも女の子並み何だってね」
「ひ、ひどい!」
「はははは、藤崎さんが、ウエストのサイズがなんちゃらって怒ってたからさぁ」
「そ・・・それは仕方がないことだしっ・・・」
「ダイエットもせずにそのウエストは許せない! っていいながらパフェ食べてたけどね」
「なに、進藤君ってばウエストも細いの?」
芦原が興味津々に顔を突っ込んでくる。
「うん、なんか藤崎さんのスカートが平気だったとか・・・」
「違うよ! あかりのスカートじゃないし」
ヒカルが止めても遅く、ちゃんと聞いていた和谷が首を傾げた。
「なんでスカート?」
「・・・あかりの奴が、学校で作っててさー、丈をみるとかなんとか言われて・・・やだっつったんだけど、無理やり押し切られちゃって・・・・・」
確かにヒカルは、他の男性と比べると華奢な感じがするのは否めないが、それでも女性よりはあるはずなのだが・・・とついついヒカルの細腰を見つめてしまう。
「はは、それ、見たかったなぁ」
「・・・・・・・伊角さんてば、そんなの見たいの?」
「うん、楽しそうだし」
「楽しくはないと思うけど・・・・」
「でもさ」
そのとき、ヒカルはまるっきり油断していて、いつの間に後ろに芦原の手がするすると伸びてきているのに気づかなかったのだ。は、っと気づいたときには遅く。両手で 腰をつかまれて素っ頓狂な声を上げてしまった。
「進藤君て本当に腰が細いよね」
「わひゃっ!?」
「ほら、腰周りなんか、ちょっとした女の子並みだよ・・・・」
「ひぃっ!!」
 がしっ、と腰をつかんだ指がワキワキと動くたびにヒカルの体が跳ねる。
「あっ、あっ、芦原さんっ!」
「んー?」
「は・・・離して、くださいってば!」
「なに? もしかしてくすぐったい?」
「きゃわっ!!」
 敏感な箇所にふれたのか、一際高い声を上げたヒカルを救ったのは緒方だった。
「いい加減にせんか」
 ごんっ! といい音を建てて本日2度目の鉄拳が芦原の脳天に落ちる。
「勝手に触るんじゃない」
 緒方のそのセリフには何やら思うものはあるが、妙に迫力満点の緒方に今一押されてしまってなにも言えない和谷達に対し、全然気にしない男達が平然と向き合っ ている。
「ったいですよ、もう!」
「馬鹿だな〜、芦原は。こんな状態の緒方さんに逆らうなんて」
「うるさい、白川」
 殴られた脳天をなでる芦原も、それを笑う白川も、妙に迫力満点な緒方もどうやら一般ピープルではなさそうだということに気づいた和谷がアキラを脇で小突く。
「・・・・・な、な、な」
「なんだ」
「緒方さんてさ、ただの人?」
 聞かれたくないことに触れられてしまったのか、アキラの眉間に三本の皺がたつ。
「芦原さんも、あの迫力にビクともしないしさー・・・」
「・・・・・」
「そうだね、白川さんも類友?」
 その会話に伊角が加わると、さすがに黙っていられなくなったアキラが深く溜息をついた。
「なんか知ってんじゃねぇの?」
 それでも幾分迷った様子を見せたものの、アキラは渋々重い口を開いた。
「・・・・・・・・あの三人はさ、そろってヤンチャをしてた、ってとだよ」
「・・・・・・・・・は?」
「三人は幼馴染らしいから、ね」 
「・・・ヤンチャ?」
 アキラは軽く肩を竦めて、口を開く。
「あのね、緒方さんが始めて家に来たときのことなんだけど」
「うん」
「緒方さんの髪は金色していて肩まであった・・・・・って言ったらどうする?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
 アキラの説明のビジュアルがどうも浮かばす、和谷が首を傾げる。
「ちなみに、芦原さんは真っ赤っ赤で逆立ってた、って言ったら」
「へぇ!」
 こちらは素直にうかんだのか、伊角が面白そうに笑った。
「と、いうことは、類友と思われる白川さんも?」
「ええ」
「じゃ、三人ならんで信号だね! 白川さんは真っ青・・・・」
「よく判りましたね、その通りですよ」
「・・・・・・・・」
 なーんて、と言う筈だったのに、間髪おかずに肯定されてさすがの伊角も黙ってしまった。
 和谷なんかはすっかり付いていけず、フリーズをしてしまったようだ。
「ちなみに、緒方さんの手って見たことないでしょう」
「まあ、碁を打ってるときは碁に集中してるし、手まではみないからなぁ」
「みりゃ一発です、僕達の手とは全然違いますから」
「・・・ヤンチャって、そういう意味かよ・・・」
 漸く立ち直った和谷が嫌そうに呟いた。
「ま、いまではすっかり大人になった、とか言ってますけどね」
「誰?」
「芦原さんが」
「んー、それは怪しいよね」
 楽しそうに笑う伊角も結構なものだ。平然としているアキラも同類だ、こんな奴らと同じに思われたくない、とじりじりと距離をあける和谷の耳に
「それにしても進藤君は敏感だよね、そんなんでいざって時、平気なの〜♪」
 などと、楽しそうな芦原の言葉が聞こえ、思わず
「「「大人になんか、なって、ねぇだろ!」」」
 と、はもって突っ込んでしまった三人に罪はないだろう。
あんたは一体なんてこというんだ、と凄い形相で振り向いてみれば、肝心のヒカルは今一理解していないようで、ぽけっ、としている。
「は?」
「やだな、進藤君ってば! いざって時のことだよ」
「いざって・・・・」
「も! 進藤君てば、ぶっちゃいかんよ。こういうときは無礼講なんだからさ! ズバッと言ったんさい!」
「はぁ」
「ぷぷ、コレのことだよ、コレ!」
といって、芦原が進藤の前で拳を握ってみせた。勿論、それは只の拳の握り方ではない。親指をピコピコと人差し指と中指の間から動かしていたりするのだが。
「ちょ、ちょっと、芦原さん! 進藤になんてこと・・・!」
ま、男同士で飲むさいに、確かに酒がはいるとどうも下ネタに走り勝ちになるのは世の常ではあるが。が、和谷はいままでヒカルの前でその手の話題を出したことが なかったのだ。それだけに焦ってしまう。自分自身はヒカルに対して結構疚しい妄想を抱いてしまうくせに、ヒカルの口からはそんな話を聞きたくない、というかなんとも いえない矛盾した思いを抱いていたりしたのだ。
だからこそ慌てて芦原を止めようとしたのだけれど。
「これが、どうかしたんですか?」
 あわてて芦原の腕を引っ込めようとした和谷だったが、完全にわかっていないらしいヒカルに同じ様に真似をされて、勢いのあまり顔面から畳みに突っ込んでしま う。
「・・・う〜ん、進藤にあんな事されると、結構くるなぁ」
 伊角が腕を組んで関心したように呟く。
「え? じゃ、チェリー?」
「チェ、チェリーって・・・芦原さんってば、ふるすぎる・・・・」
 楽しそうに尋ねた芦原に、アキラが肩を落とした時。
「チェリーって、さくらんぼ?」
 と、首を傾げられて。芦原の表情が固まった。
「・・・・えっとー・・・・・、進藤君って、ABCって知ってるかなぁ?」
 まるで子供に聞くように尋ねられて、ヒカルの表情が面白くなさそうなものになる。
「そんぐらい、しってるよ!」
 ヒカルの答えに一同ホッとして。
「アルファベットのことでしょ!?」
 打ちのめされる。
「ははははははは!!」
「な、なんだよっ!」
 突然笑いだした緒方に、ヒカルがふくれっつらになる。
「お、緒方さん!」
「わ、わるいっ・・・!」
 うっすらと涙を浮かべてまでいる緒方は、かるくヒカルをいなしつつ何とか笑いを押さえ込んだ。
「そんな隠語でいっても無理だろ。こいつは学校にすら行ってないんだ。その手の話題に触れることがないだろうよ」
 考えてもみれば、確かに性教育のさわりは小・中学校の時に受けるものの、本格的な授業として受けるのは高校にはいってからだ。そして友人ができ、いろんな話 の中から知識をつけていくのも好奇心旺盛なこのときだった。
「ましてや、こいつは普段の生活から囲碁づけだろう。余計な事に目がむくとは思わんがな」
「そういえばそうか・・・・あ、進藤君って一人っ子だっけ?」
「え? そうだけど・・・」
「じゃあ、余計にそうか」
 白川が仕方なさそうに笑う。これでもって男兄弟がいればその手の話題も出やすかっただろうが。
「まあ、進藤にその手の話題は振りづらいでしょうし」
 伊角も同じ様に苦笑する。自分たちがどうもヒカルに対し一線を画してしまうのを自覚している。それは決して悪い理由ではなく、ヒカルのもつ、どこか浮世離れした 部分に弾かれてしまうのだ。
確かに自分たちも碁にどっぷり嵌っていることを自覚しているが、ヒカルのそれは、自分たちとどこか視点が違うのだ。
 たとえばプロを目指した動機とか。
 碁を打つ理由そのものが。
 ヒカルの碁に対する真摯な心が、自分たちの手には届かない位置にあるようで、彼等は魅せられて惹きつけられてしまうのだ。
 が、それはそれ、これはこれだ。
「かといって、このままじゃまずいでしょう」
 という、アキラの意見に皆が一斉に頷く。
「このままだったら誰も進藤に教えないままになってしまうだろうし、このさい一気に知恵をつけておいたほうがいいですよ」
「でも・・・どんなことから?」
 アキラの言葉に返した和谷のセリフに、皆が一斉に黙ってしまった。大体こんな話題は素面の時にはとても出せたものではない。酒が入っている今がチャンスなこ とは確かだ。
 だがしかし、和谷の行ったとおりヒカルがどこまで知っているか判らないだけに、どのレベルからいっていいのか詰まってしまった。
「ま、でもさ、センズリぐらいはしたことあるでしょ! ね?」
 ははは、と笑う芦原に、皆もそーだよなー、と笑い、そーっとヒカルを見やるが。
「え? せんずり?・・・ってー・・・どーかなー・・・?・・・・多分・・・一回ぐらいは、したことあるんじゃないかなー?」
 そういいながら微妙にヒカルの視線が揺らぐのをみて、芦原が和谷に引き戻される。隣では緒方が肩を振るわせっぱなしだ。
「だめだってば芦原さん! もっと、こう教科書にのっているような言葉で言わないと!」
「ええ!? いまどきの教科書ってどんな言葉でのってるの? そんな昔のこと判らないし」
「ごめん、僕も」
「俺もだめだ、そんなの意識してないしな」
 にこやかに笑う白川に続いて、伊角も手を上げる。
「塔矢・・・」
「オナニーか、もしくは自慰行為だろうな」
 和谷の問いに、真顔でケロリと答えたアキラは酒が回っているのかもしれない。
「だが、それを進藤が覚えているとは限らないだろう」
「・・・・・・・・・・・それもそうだね・・・・」
「じゃあさ、俺が実地で教えたげようかな♪」
 と笑った芦原に絶対零度の冷気が襲い掛かった。
「・・・・そんなことしたら、ただじゃぁ置きませんよ・・・・」
「じょ、冗談だってば!」 
 底光りするアキラの視線に貫かれて、緒方の視線にビクともしなかった芦原がざざっと後ずさる。
「う〜ん、芦原をあそこまでビビらせるとは、さすが塔矢アキラ、只者じゃないねぇ」
 のほほん、と関心する白川の後ろに芦原が回りこむ。
「ったく、油断も隙もない・・・!」
 ふん、と鼻息も荒いアキラの方をなだめるように伊角が肩を叩く。
「ね、今回は特になにもしないほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「ちょっと問題もありそうだし」
 と、伊角は芦原を顎で杓ってみせる
「・・・それもそうですね」
「俺達だけでさ、場を仕切りなおしたほうがいいだろ?」
和谷の言葉に、アキラが頷いた。
「・・・・・そうだな、突然のことだったから僕達も焦ってしまったし・・・ちゃんと段取りふんで教えたほうがいいだろうな」
 アキラの言葉に二人が頷く。
 『邪魔者』のいないところで、なるべく人数は・・・つまり敵は少ないほうがいいが、同盟は結ぶに越した事はない――それは三人共通の考えだ。勿論、この場におい ての『邪魔者』は芦原であり、緒方でもある。特に緒方は今回はあまり目立った行動をとってないものの、ヒカルが微妙になついてるだけに性質が悪い。
絶対に排除しておきたい存在だ。それをわずかに数秒交わした視線のなかで確認すると、にっこりわらって進藤に向き直った。
「進藤」
「・・・なんだよ・・・」
 突然、訳のわからない会話に巻き込まれた後、放っておかれたヒカルは訝しげな表情を浮かべている。
「この話はまた今度しような」
「・・・・・え?」
「ま、別にたいしたことじゃねぇし、今日は進藤の誕生日を祝う、ってことだったしな」
「突然変なことを言い出してわるかったね」
「そんなに急いで知ることでもないから」
 伊角、アキラに揃って言われてヒカルは訳がわからないながら頷いて。

 再び飲み会は始まったのだが。

 すっかり安心してしまった所為なのか。
 彼等はヒカルの顔が酒の所為だけではない理由でほんのり染めながら耳を触っているのに気づかなかったのだ。


――――― 全部教えてやるから、後で部屋にきな


そう、ヒカルの耳元で緒方が囁いたことに気づけなった和谷達が、そのとき、その場で進藤に教えておかなかったことを悔やむのはそれから一ヶ月後のことだった。



緒方さんの部屋に行く♪   

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