晴明様の鬼退治 より 


(晴明様って、結構大人げなかったんだわ・・・)
密虫は目の前で繰り広げられている晴明と道尊の闘いを見ながら、そんな事を考えていた。

密虫は晴明の式神ではあるものの、式神というよりは精霊に近いし正式には晴明が作り出した式神ではない。
大陸から渡ってきた蝶だけに言葉に不自由するものの、他の式神と違って自分の考えで行動したりすることが出来た。
その密虫だからこそ、思わずにはいられない。

晴明は変わったと。
博雅と出会ってから。

(そりゃあもう、博雅様と出会ってからの晴明様の変わりようといったら、なんとも言えないわ・・・)

博雅と出会ってから、晴明は驚くほど人間らしくなっている。
例えば屋敷には、前は酒ぐらいしか置いていなかったのに、博雅が来るようになってからは鮎やら菓子やらつまみやらが常備されるようになった。
それが晴明自身の為ではない証拠に、甘い物が中心に食材が揃えてある。博雅は、甘いものが好きなのだ。普段、見栄を張って食べないらしく、晴明のところにくると、ついつい甘いものに手を伸ばしてしまうらしい。
もっとも、その時の博雅の顔があまりにも幸せそうで、見惚れてしまうから。
かくいう密虫もちょっとしたお使いで出かけるときなど、博雅の好みそうなものを物色してしまう。
博雅がいるときの晴明宅は、本当に春の陽だまりのような幸せ一杯、夢一杯、みたいに天国だ。晴明の機嫌がもろに反映されるだけに、庭には花が咲き乱れ、いい香りが辺りには漂い、それを見る博雅が
「まるで夢の世界ようだな、ここは。いつまででも居たくなってしまうぞ」
なんて言ったりするから、ぼろいはずの屋敷もぴかぴかに光輝いてしまう。


それに対して博雅が来ないときといったら。
晴明は気を抜きまくりなのである。たちまち屋敷はボロくなり、庭は廃れてしまう。
それが一日や二日のことならまだましだが、博雅が来ないときが5日も続いたりしたら。
もともと感情を表面にだしたりする男ではなく、蜜虫は読み取ることなどできないのだが、そのときばかりははっきり判る。
面白くなさそうだ・・・というのはまだ可愛らしい表現かもしれない。
"不機嫌"という名のオーラが辺り一面に漂い周囲を圧迫するのだ。蜜虫の羽根にまといつく空気すら重いような気がして、飛ぶ気にもならない。
もともと屋敷に結界がはってあって鬼の類は屋敷内に入る事はできないようになっているが、その結界が反対に仇をなしオーラを外に逃がさないだけに屋敷の中は大変な事になってしまう。果てには庭の隅に得体の知れないものが蠢いてしまったりするのだ。
それが、博雅が一条戻り橋を通った瞬間、屋敷は一変する。
晴明が超不機嫌から超御機嫌に変化するのを、蜜虫は何度体験したことか。


それでも密虫も最初は本当に純粋な友人関係(ちょっと行き過ぎたぐらい)などと思っていたりした。
晴明は人間嫌いで、決して傍に寄り付かせない。その晴明が心を許した、初めての人間だったから、蜜虫もこれで主人も良い方向に進むだろう、などと思っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すぐに間違いに気付いたけど。

はあ、と蜜虫は場違いな溜息をついた。
目の前では道尊と清明の激しい戦いが繰り広げられているのに、蜜虫の頭の中は他のことで一杯だ。

(でも、晴明様のほうだけ・・・・って思ってたんだけどなぁ・・・なんか違うみたいだし・・・・・どうなのかしら)

もともと博雅は天然だから、晴明がかなりきわどい言葉で、明らかに(それ、くどいてんだろー!)と思われるような事があっても気付いていない。
二人の会話が砂を吐くほどのラブラブっぷりであっても、聞き方によっては両思い以外のなにものでもないだろー! と思っても、実は本人はなにも気付いてなかったりする。




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