贖罪 より 〜 獣に恋をする 7 〜


「・・・・・駄目だ・・・・やはり、気になる」

五代から聞いた話を最初から整理したくて、一条は時系列でまとめてみようとしたものの、とびとびに聞いた話のせいなのか、きちんと纏めることができずに眉を潜めた。話を聞いているときには気づかなかったものの、こうして改めて整理しなおしてみれば、いくつかの矛盾が発生してしまう。
自分の記憶力には自信がある。五代の話したことを間違って記憶したり、あまつさえ忘れてしまうことなど絶対にない、と言ってもいいほどだ。
だから、この矛盾が発生しているのは五代に原因があるといっていいだろう。

――――――― 五代の話には嘘がある。

なぜ、五代が嘘をついている、とを考えてしまったのか、その理由を一条とてはっきりと説明できるわけではないのだが、『嘘をつかれている』ということ・・・だけは、何故か自信をもっていえるのだ。
その嘘の内容は、今の段階では検討もつかないが、特殊な一族のことだ、けっして触れてはならない秘密も存在しているだろうことは容易に察しがつく。いくら四神に迎え入れられたからといって、そこまで踏み込めるほど自分が一族として認められていると―――椿や五代に対してはともかく―――思うほどうぬぼれてはいない。
だが、一条が気になっているのは、五代がそれと知っていて嘘をついているかどうかだ。
最初から、その話を真実として五代が教え込まれたのか。
それとも、五代が一条に話す段階で嘘を交えたのか。
一条の経験から、手馴れた犯罪者が使う手の一つに、嘘の中にいくつかの真実を交えて話す方法があるということを知っている。
完全に嘘をつくより、格段見抜かれる確立が下がるのだ。
五代が、自分に嘘をつくとは思えない・・・いや、思いたくない。
だが。
「俺は、それを追及するべきか・・・・」
知らないふりをするべきか。
一条は手元の紙に視線を落とした。話を整理しているうちに、頭の中に浮かんでいた疑問点があきらかになってきたのだ。そのうち、一条はどうしても納得のいく説明をつけれられない、二つの事柄を抜粋してみた。

 ・五代とみのりと零の本当の年齢、兄弟?
 ・零とみのり、血のつながりは?

もし五代が、意識して何かを隠そうとしているのならば、多分それは絶対に一条に知られたくない、と思っていることだろう。それを暴くことが、果たしてよいことなのかどうかは一条とて自信はない。だが、目をつぶろうとする自分を責め立てる、もう一人の自分がいる。
“見過ごしてはいけない”と。

「くそっ・・・!!」
ペンで縦横無尽に走らせ、一条はメモを塗りつぶした。
「・・・・・九郎ヶ岳に向かう前に、つきとめなければ・・・・」

五代を失ってしまう。
そんな予感が、一条の胸に渦巻いていた。




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