影の四神 より 〜 獣に恋をする 4 〜


「俺達は、五代(おしろ)の一族と、昔から呼ばれてました」
五代が一族の秘密を打ち明けたのは、一条が西の座を受け継ぐことを決めたその夜の事だった。



「一条さんには少しだけ話しましたよね。五代の巫女には時を読む能力があったって」
「あ、ああ・・・それが俺にはどういうことなのか良くわからんのだが・・・・」
よくSF映画で時を読む・・・などという設定を聞いたことがあるが、いまいち一条には理解できていないでいる。時を読めるからどうたというのだろう・・・それが正直な感想だ。
たとえば災害が来るのが解ったとして。
それを止められないのなら意味が無いではないか。解っていての予防だったら、心構え一つで防ぐことが出来るだろうし。それでも一つ思い当たる事が無いわけではないが。
「・・・・・・自分の死ぬのが解っていたら防げる、ということか?」
「ふふ・・・人の生死をコントロールするような予知はしてはいけないことになってるんですよ」
「だろうな」
一条は納得する。それは神が決める領域の筈だ。そこまで思って、ふ、と笑ってしまった。
神など信じていないと思っていたのに、自然に神の領域、等と考えてしまっているのは、早速にも五代達に影響されているということか。
「聞きたいことがあるんだが」
「何ですか?」
「その占い相手が総理大臣クラスだといっていたが・・・」
「その通りですよ」
にこり、と五代が笑う。
「俺と会ってから・・・占いをしたことがあるか?」
「ありますよ」
一条の顔が引き締まる。
「・・・・もしかして・・・・」
「一条さんの考えている通りです。以前、零がとある薬で迷惑をかけたでしょ? あれ、みのりが予知してたことなんです」
五代の顔が歪む。
「さりげなく、そちらの耳(情報者)に情報を流させてもらいました」
「・・・・・そうか・・・・あの情報は、五代達からだったのか・・・・・」
一条の体の中に、訳の分からぬ憤りのようのなモノが突然湧いて出た。
「あの、薬の事を・・・・知っていたのか・・・?」
「ええ・・・零がああいったことをすることは・・・・」
「ならば、防ぐことは出来なかったのか・・・・!?」
それは、理不尽な責めだと。
一条は充分解っていた。こんなことを言うつもりは無かったのだ。五代にこんなことを言っても仕方がないことなのだと理性では解っていても、感情が追いつかないでいる。
これは一条の弱音、だ。
五代には見せるべきではない弱みなのに、言わずにはいられない。
「知っていたのなら、事前に防ぐことが出来たはずではないのか!?」
「・・・・・・・・・そうですね・・・・事前に防ぐことが出来なかったのは、俺達の罪です」
その言葉に驚いて振り返れば、五代は驚く程に透明な笑顔を浮かべていた。
「零が何かをしようとしていることは解っていました。ただ、零は俺達の影でもあるので、予知の及ばぬところもあったんです・・・・ああ、それも言い訳にしかならないや・・・・。俺達だけでどうにかできるかも、なんて甘い考えを持ってました・・・・でも、防ぎきれなかった・・・・大勢の被害者を出してしまった・・・・その人達に、どう謝って良いか・・・俺・・・」
「すまん、五代!」
とつとつと語る五代を止めたくて、一条はきつく五代を抱きしめる。
「・・・一条さん・・・・」
「今のは俺の弱音、だ・・・五代に言うべき事じゃない」
「違うんです・・・やっぱり俺達の責任です。だって・・・」
「違う。俺達は情報が入るまでなにもできずにいた。本当だったら俺達が気づいていなければいけないことだったのに・・・・!!」
「一条さん・・・・」
背中にまわっている五代の腕が震えているのを感じながら、一条は心の深くにその誓いを刻む。
二度と五代を苦しめるようなことはしない、と。
「もうひとつ聞いて良いか?」
「何ですか?」
「・・・・零・・・とは、何者なんだ?」
一条の腕の中で、ぴくりと五代の体が震えた。それは、零と五代がただの知り合いでないことを証明してくれている。ずっと一条の心に引っかかっていたことだ。
最初に会ったときから、零は五代に対してのこだわりを見せつけていた。五代のほうだって、零に対しての態度はただの知り合いで片づけきれない部分があるように見える。
「零は・・・・五代に執着しているように見える」
「・・・・・」
ぽつりぽつり、と一条が口を話初めても、五代は黙っているいるだけだ。
「五代のさっきの言葉から、ただの知り合いではない、ということぐらい、俺にも解
る・・・」
「・・・・・・」
「お前は零を影だと言った。ならば、零はお前の一族の者なのか?」
確信を持った問いに、五代は伏せていた顔を上げた。
「俺に話してはくれないか? それが重荷となっているのなら、俺にも背負わせてはくれまいか」
「一条さん・・・・・・」
呟いた五代の声は、か細いものだった。瞳が戸惑うように揺れている。
「もし、もし、俺の話を聞いたら・・・・一条さんは・・・」
「俺は何があっても、五代を嫌うようなことはない」
五代の言葉を最後まで言わせず、一条ははっきりと言い切った。
「俺を信じてほしい・・・・・生半可なつもりで、西の座についたつもりはないぞ? 俺だって」
一条の瞳の奥に宿る、力強い瞳。
それを見て五代は最後の覚悟を決めた。

「・・・・零は・・・・俺達の義兄弟なんです・・・・」




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