『ろ』 はろこつ  より 


「俺は、五代と幸せになりたい」

「俺と・・・・?」

「そうだ、一緒に、だ」

一条の唇が、そっと触れてきた。

軽く啄ばむように、触れては離れ、又触れる。

「ずっと、一緒だ」

「一条さん・・・・・」

唇が、重なる。

互いの存在を確かめあうかのように、重ねた唇で弄りあった。顔の角度を変え、大きく口を開き、五代は一条を受け入れる。まるで暴君のような勢いで、一条の舌は五代の口の中を舐めまわす。

綺麗に揃った歯列をなぞり、舌の裏側やざらつく敏感な上顎に触れ、舌を絡めあう。

「ん・・・んー・・・・っ・・・」

身長で勝る一条が自然と覆い被さる形になり、五代は顎を上げてしまう。すると喉が開かれ、一条の舌が奥へ奥へと侵入してくる。

まるで、舌を根元からもぎ取ってしまいそうな強さで吸われて、五代は自分を求めている一条の欲求をまざまざと感じてしまう。

「ん、ふっ・・・ぅ・・・・」

それが嬉しくて、五代は一条を真似て、口の中で暴れまわる舌に己の舌を絡めていく。

びくり、と一条の動きが止まり、今までの勢いが嘘のような優しさで、五代の舌を愛撫しはじめた。

「あふ・・・・は・・・・ぁ・・・・」

「ん・・・・ん、・・・・っ・・・・・」

とても鼻からの呼吸だけでは追いつかなくて、口を大きく開いて新鮮な空気を取り入れようとする。そのたびに一条の唇が追いかけてきて、五代の唇を塞いでしまう。

互いの唾液で濡れた唇はすべって、ずれてしまうのをもどかしく感じながら、求めあう。

「んっ・・・・い、ちじょ・・・・・さ・・・・・」

「・・・ふ・・・・・」

目は、閉じなかった。互いを見つめていたかったから、ずっとあけたままでいた。

「ふぁ・・・・あ・・・・っ!」

ちゅ、と吸われた舌から、身体の力も吸い取られてしまうようで、五代は膝が崩れてしまい、へたり込みそうになるところを一条に抱き締められた。

「あれぐらい、で、へろへろか?」

「な・・・・・あん、な、キスしと、いて・・・・よく、いえますね・・・・・」

唇と舌が痺れて、縺れてしまいそうになるのをこらえながら、五代は一条を見上げた。五代は激しい口付けに翻弄されて、息も荒い、というのに、一条はケロリとしている。

「こんなに、我慢させられたのは、初めてだからな」

「が、我慢、って・・・・わわっ!」

一条が膝の下に手を回し、五代を抱き上げてしまう。

「大体、最初にしてからどれぐらいたっていると思ってるんだ」

「ど、どれぐらいって、なにが・・・」

「その分、五代に餓えているんだ、覚悟しておくんだな」

壮絶な色気を含む流し目に、五代は顔を赤くして口をぱくつかせるだけだ。

「う、餓えるって・・・・」

「知ってるんだぞ」

一条の言葉に、ぎくり、と五代の身体が強張った。

「・・・・え?」

一条の指摘どおり。

五代はわざと一条とそういったことをしやすいチャンスを作らなかったのだ。もともと一条を四神の座に、という話を聞いていたせいでもあるが、一度抱かれたとき、なにもかも忘れて一条のセックスに浸りそうになってしまって。

五代は怖くなってしまったのだ。



――――――だって・・・・知らなかったんだもん・・・・・



最愛の人と、想い会ってのセックスがこんなに気持ちのいいものだったなんて。

いままで付き合った人はいる。

勿論、その人達とセックスもした。

・・・・・それは、それなりに気持ちが良かったけれど。けっして溺れる程ではなかったのに。



――――――セックスが、気持ちが良すぎて怖い、なんて・・・・・



身体をドロドロに溶かされてしまって、すっかり骨抜きだ。

時間を、距離を経ても、抱き締められる一条の腕の強さ、自分を包み込む一条の体臭、余す所なく、身体の全てに触れた一条の唇、自分では滅多に触れることもない箇所まで舐めた熱い一条の舌。

そんなことを、事あるごとに思い出してしまって、一時、五代は仕事にならなかったのだ。

今までこんなふうにセックスに溺れてしまうことなんてなかったから、五代は少しだけ一条と距離を置こうと考えたのだ。ずっとではなく、たとえ思い出してしまったとしても、それに振り回されなくなるまで・・・・そんなふうに思っていたのを、とっくに一条は見抜いていた。

「だ、だって、だって・・・・」

「だって、じゃない。俺が、どんな気持ちだったかわかるか? 目を閉じるたびに五代が頭に浮かぶんだぞ。五代がイッたときの顔や、俺のをいれたとき、どんな風によがり泣いたとか・・・・」

「わ――――――――――――――っっ!!」

慌てて五代は大声を張り上げた。

このままでいったら、何をどこまで言い出してしまうか判らなくて、一条の口を両手で

塞ぐ。

「ほれはひひょうやひゃいひょひゃ?(それは卑怯じゃないのか?)」

「いいから、とりあえず、ベットに連れてってくださいよ」

顔を真っ赤にした五代が、一条を睨みつける。

それすらも一条にとっては可愛く写って。

「はい、おおせのままに」

一条は五代を抱えたまま、脚で寝室のドアを蹴り上げたのだった。





………続きは本誌でどうぞ☆