ダーリン ダーリン  より 


五代が一条のプロポーズ(と呼んでいいのかどうか、五代は未だに迷っているのだが)を受けてから一ヶ月たって。一条の告知で皆に知れ渡ってしまったときに、またひと悶着あったのだが、それはどうにかこうにか落ち着いて。
ようやく、五代の周りに日常の平和が戻ってきたのだけれど、ふと未だに首を傾げてしまうことがある。
プロポーズされたときには衝撃のあまり、ろくに頭が働かなかったけれど、なんとかかんとか落ち着いてくると余計な事を考えてしまうらしく。

(だいたいお嫁さんって、女の人のことだよね? 確かにあれはプロポーズっぽいんだけど、たしかプロポーズって結婚を申し込むことなのに・・・・・結婚って・・・・・俺達、結婚できない・・・よね? いや、でも一条さんてば公務員だし、警察官だから法律には詳しいはずだから間違いっこないだろうけど、いつ日本って同性同士の結婚が可能に
なったんだろ?)

などと、考えていたりした。
・・・・・・・・・・・いまいち常識が足りない五代である。
本来の筋から離れてしまった、全然、関係のないことを悩んでいるということにまるっきり気が付いていない。
度々日本から離れてしまう五代は、常識面でちょこっとだけ違ってしまう――― ちょこっとか?―――― のだが、それを聞かれた椿は、思わず大爆笑したのち「新聞を読め!!」と叫んでしまったのは仕方のないことだろう。


「でもま、五代さんが幸せそうで嬉しいですわ」
そんな奈々の言葉に、五代は蕩けそうな笑みを浮かべた。それを見てしまった奈々の顔が真赤になってしまうほど、幸せそうな微笑だ。
「ま、ね」
なんだかんだ悩んだふりをしていても、五代は、結局のところ幸せな自分をちゃんと実感している。
一条との生活が幸せだと他人に惚気られるぐらいには。
あまりに幸せすぎて照れくさいから、あえて他愛もないことで悩んだふりをしているのだ――――同性同士の結婚うんぬんかんぬんはマジであるが。

左手の薬指に納まっている指輪の存在だって、嬉しくてたまらない。
正直な話、自分が付き合っていたときは、女の子が指輪を欲しがる理由がわからなかったけれど、実際自分がもらう側に回ってみて、初めて喜ぶ気持が判ったりしたものだ。過去に付き合った女の子たちに指輪をあげなかったことをちょっとだけ悔やみ、そして安堵する。
本当の幸せをあげられないから、指輪を渡さなくてよかったと。
自分の手には一条がくれた指輪しか嵌められないし、反対に一条にも他の誰の指輪も嵌めてほしくないことが判ったから。

「あれ? 前のと違います?」
作業の手を止めてしまった五代の視線を追った奈々が手元を覗き込んで、首をかしげた。
「え! あ、う、うん、まあ、ね、あれじゃ、ちょっと日常生活に差し支えがあるというか、なんというか・・・」
困ったように笑う五代に、奈々が首を縦にふる。
「確かに、そっちのほうがええですよ。あんな、おっきなダイヤが付いてたらなにかと邪魔ですし、第一怖くないですか?」
「そうなんだよね〜・・・ほら、料理するときには邪魔でしかないし、それにつけてると重い気がするんだよね・・・」
「一条さんの愛が詰まってますからね〜、重いでしょ」
「・・・・・・・・・それは冗談にはならないんだよ、奈々ちゃん・・・・」
がっくりと肩を落とす五代を見て、思わず爆笑してしまった奈々だ。
「ま、愛されてていいじゃないですか」
「なら、変わってみる?」
「それは遠慮しときます」
「・・・・・・・・・・・・・そんなに直ぐに否定しなくても」
間髪おかずに返ってきた返事に五代が唇を尖らせる。
「なに言ってますの! 一条さんの相手は五代さんしかできません」
けらけら、と笑う奈々を前に、五代が唇を尖らせた。
「ちなみに、それって、プラチナ・・・ですか?」
「うん」
五代の指に収まっているのは、一番最初に一条にもらったダイヤの指輪ではなく。
細めのプラチナの五連リングだったりする。一つ一つのプラチナに細やかな彫り物
が施してある非常に凝ったものだ。




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