襲(かさね) 表・裏 より 


五代には夢があった。
この戦いが終わったら、何もかもが終わったら再び冒険に出ようと。そして、愛する人を見つけ、家庭を持とうと。
かつて自分の父がそうだったように、いずれ出会うはずの息子か娘を連れて冒険に行こうと。

戦いが終わってから二年後、長い旅の中で傷も癒えて、かつて見た夢を再び見ることを自分に許せるようになって、のんびりとアンデスの空を眺めて暮らしていたころ、五代の元に届けられた一通の手紙が日本に戻る事を決心させたのだった。


「みのり!!」
空港のゲートを通った五代は、可愛い自分の妹をみつけて満面の笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん!!」
名を呼ばれ、五代に気づいたみのりが駆け寄ってくる。
その様子は、二年前のみのりと何も変わっていなくって、五代はたれ目がちな目尻をさらに下げてしまう。
「おかえり! お兄ちゃん!!」
「ただいま・・・!!」
いまや、五代の肉親はみのり以外になく、まさしくこの世に二人きりなのだ。どれだけ離れていても、こうして会えばそんな時間など一気にふきとんでしまうような気にさせられて、五代は微笑んだ。
「なんか、みのり可愛くなったんじゃないのか?」
「やだ、もう! おにいちゃんたら、そんなこと言ってもなにもでないからね」
「違うって! 本気本気!」
海外旅行をしているわりには五代の荷物はいつも少ない。リュックひとつで旅立ったときと同じ格好で、違うといえば以前よりすこし痩せたこと、髪が伸びたこと、陽に焼けたこと、それぐらいだろうか。
そして、以前よりも深みを帯びて優しくなったその眼差しが、五代の心を表しているようでみのりはじっと見つめてしまった。自分たちの手の届かない、親しい者の誰一人いない孤独な場所で、兄はどうやって自分の傷を癒したのかと思うとみのりの心はまだ軋む様に痛む。
それでも、たった一枚の葉書でこうして戻ってきてくれた、それがうれしくてみのりは満面の笑みを浮かべ五代の腕に抱きついた。
「ね、先にポレポレに行く? それともどっか行きたいとこがある?」
みのりの問いに五代はそーだな、と首をかしげて。
「ポレポレにするか」
「うん!」
と笑ったのだった。
腕を組んだまま歩き出して。
いろいろな話をしているうちに、五代は日本に戻ってきた目的を思い出した。
「そういえばみのり、俺に話したいことってなに?」

みのりから届いた葉書には。
五代に話したいことがあるけど、日本に帰ってきた時に話すね、という事だったのだが。文章の中のほんの一行の文だが、五代にはそれが大切なことなのだ、とすぐにわかった。
五代はその日のうちに飛行機の便を予約して、みのりに連絡をいれたのだ。

「話?」
「そ、葉書に書いてあったろ? それを聞くために帰ってきたんだ、俺」
「ふふ、気になる?」
「そりゃ、勿論!!」
目を丸くさせた五代にみのりはうれしそうに笑ってみせた。
「その話はポレポレに行ってから!」
そういって、みのりは五代を急かす。
「わかったよ、まずはポレポレだ!」
「うん!」
そう言って兄妹は早歩きで歩き出したのだった。




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