『え』 より 


それを見つけてしまったのは、たまたま偶然だった。
なにせ、緒方は昔の写真は全部処分してしまった、といっていたので、ポケットサイズのミニアルバムを見つけることが、できただけでも幸運なことだ。
「緒方さんの昔の姿か・・・どんなんだろ」
胸をわくわくさせて。
ヒカルはアルバムを開き、すぐに又閉じてしまった。
「・・・・・・目の錯覚かなー・・・・」
ふふ、とヒカルは笑って目を擦り、再度アルバムを開いてみて・・・・・又閉じてしまう。
そして、表紙、裏表紙を確認する。
「これって・・・・緒方さんのだよね・・・・」
緒方の部屋のクローゼットから出てきたのだから、間違いないはずだ。
そして、中の写真に写る男には、確かに緒方の面影があって。
「じゃ、これ、緒方さんに違いはないんだ・・・・」
呆然と呟くと、ヒカルはアルバムを開き。
数秒後、ヒカルの大爆笑が部屋中に響くことになったのだった。

「いや、これは笑える〜、和谷達にもみせてやろ」
などと、緒方が聞いたら激怒ものな台詞を口にしながら、ヒカルはゆっくりゆっくりとアルバムのパージをめくっていく。
「それにしても。よく一緒に写っているこの二人、どっかでみたことあるだよねぇ・・・・誰だっけ?」
ヒカルが首を傾げるのも、無理はない。
緒方のことはすぐにわかった。たとえ金髪で、長髪でも顔がそんなに変わらないからだ。
だが。
両隣に移っている頭が青と赤の男達は誰なのか。
「・・・・・・う〜ん・・・どっかで見たことはあるんだけどな・・・」
彼らの着ている服も悪かった。
いわゆる特攻服、というのだろうか。
ヒカルなんかは、それこそ漫画の中でしか見たことがないのだが、腹にさらしを巻いて、素肌の上に真っ白な長ランを着ているのだ。
まさか、それが白川と芦原だなんて、気づきもしない。なにせ、片方は真っ赤な髪を逆立てて、片方は真っ青な髪ショートボブ―――つまり、今のアキラのような髪型だね―――なのだから。
ちなみに、赤いほうが芦原、青いほうが白川だ。
「ま、いーや、後で緒方さんに聞いてみよう」
そういって、次のページをめくったヒカルの手がとまる。
「・・・・・・」
ヒカルの目に入ったのは、緒方に絡み付いている綺麗な女性の姿だ。
緒方と同じような特攻服を着て、仁王立ちをしている緒方の正面から抱きついて、首に手を回している。その背中全面に刺繍されている緋牡丹は見事としか言いようがない。腰まである髪は緒方と同じ金髪で、緩やかなウエーブがかかっている。
カメラの方を振りむいている顔は、はっきりとは見えないけれども、その横顔は綺麗な顔であるのが見て取れた。
「・・・・誰だろう、この人」
気になる。
大体緒方は写真とかビデオを撮るタイプではないらしく、昔の写真とか見せてもらったことがない・・・・・・まあ、確かにこんなんばかりだったら、見せたくないかもしれないが。かといって使えないといったわけではなくて、前に一回、とても口には出せない理由で使われてしまったのは、思い出したくもない記憶のひとつだ。
そんな緒方がとっておいたアルバムの中に写っている人、だ。
ヒカルは慌てて他の写真も見たけれど、女性はただ一人、その人しか写っていない。
「なんだよ・・・・・・ちぇ・・・・」
先ほどから盛り上がっていた気分もすっかりうせてしまった。ヒカルは小さく舌打ちをして、アルバムをソファに放り出して、座り込む。
面白くない。
それが、たとえ何年も昔の話だとしても、まったく面白くない。互いのスケジュールの調整があわなくて、今日はせっかく緒方とゆっくりできる日だったのに、うきうきとしていたヒカルの気持ちは、風船のように萎んでしまった。
「・・・・かえろ」
緒方の部屋を訪ねてきたときとは、まるっきり正反対の気分と表情で緒方の部屋を後にするのだった。



「ヒカル? いるのか?」
緒方が帰ってきたのは、それから30分ほどしてのことだ。ヒカルが来ているはずなのに、部屋の中が静かで緒方は眉間に皺を寄せた。
ヒカルは黙って約束を破るような性格はしていないから、来れないなら来れないでなんらかの連絡があるはずなのだが。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて。
緒方はテーブルの上に乗っているアルバムを見て顔を顰めた。
「なんで、これがここにあるんだ・・・・・・」
とっくに処分してあるはずだったのに、一冊だけ何処かに紛れ込んでいたのか。が、緒方の記憶の中では全て処分したはずだったから、あるいは芦原か白川のどちらかが置いていったか、だ。
「そっちの方がありえるな」
ぱらぱらとアルバムをめくり、ある写真で手が止まる。
なんとはなしに、ヒカルが考えているようなことがわかった気がして、思わず口元を歪めてしまった緒方だ。
「ふ・・・・ん、これは使えるかもしれんな」
そういった緒方の笑顔は、まさしく悪魔の微笑みそのもので、ヒカルの未来が決まってしまった瞬間でもあった。




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