Ending より 


「あ、もう支度できてるみたいだね」
ひょこ、と顔をだしたのは、若干長めの前髪が金色をしたヒカルだ。前髪と後ろの髪の色が違うせいで、染めていると思われがちだが、じつは天然ものだったりするのは親しい一部の者しか知らなかったことだったりする。
先祖に外国の血が混じっているらしいのだが、隔世遺伝でヒカルに現れるまでは、親も忘れていたらしい。
純粋な日本人の血だけで無いという証拠に、髪の色だけではなく、太陽の光の下では深いグリーンになる瞳や女性も羨むような透明感のある白い肌などにあらわれている・・・・さらには日本人の肌のいい点も貰ったらしく、シミが出来にくいらしいのだ。
このお肌についてはかなりの女性棋士陣などからも羨ましがられていたりするのだが、ヒカルはまったく気づいていなかった。
「おう、そっちも大丈夫みたいだな」
部屋の中に入ったヒカルは、今では自分より15p以上高くなってしまった和谷を見上げて、ふ、と眉をしかめた。
「・・・・・・・ね」
「ん?」
「もしかして、和谷ってば・・・又延びた?」
にやり、と和谷が口元を歪めて
「おーう、あれから2pほど、な」
とピースサインを出した。
「え―――っ!! なんでその歳でまだのびんだよっ!」
ヒカルが憤るのも無理はない。
なにしろ和谷の年齢を考えれば成長期、と呼ばれる時期はとっくに過ぎているはずなのだから。
「しかたないだろ、勝手に伸びたんだから」
和谷のいうのももっともだ。今になって身長が伸びるなんて、和谷自身でさえ驚いているのだ。
まあ、男として身長は無いよりあったほうがいいにこしたことはないから文句は無いが。
「ちぇ、初めてあったときは同じぐらいだったのにな」
そう、出会った頃はそんなに差の無かった自分達だったのに、いつしかハッキリと違いが出てしまった。ヒカルに比べて和谷はすっかり男らしく、格好良くなっている。
「ちくしょー・・・どうして和谷ばっかり」
「まだまだ進藤はちびっ子だな♪」
「ちびっこいうな! 俺は標準だっ!」
じゃれ合う2人のあいだに「まあまあ」と伊角が割ってはいる。
もともとヒカル達より歳が上だっただけに落ち着いた感のある伊角ではあるが、様々な経験をつんで、精神的にも修行をしたらしく、雰囲気にどっしりとした安定感が加わっている。
「そんなふうにしている内は和谷も子供だ。体ばかり大人になった、っていうかんじだぞ?」
からかいながらの言葉に、和谷がぶうたれる。
そんな和谷にべー、と舌をだしたヒカルは、ちらりと伊角を見上げため息をついた。
「伊角さんだって良いよね。ちゃーんと立派に成長してさっ!」
「成長って・・・」
ヒカルの言いように思わず苦笑してしまう。
そんなふうに文句を言う気持ちを、伊角は理解出来ないわけではない。ヒカルの周りの友人達は、成長期を経て劇的な様変わりを迎えているものが多いからだ。
手足が伸び、筋肉をまとい、大人の体つきになって行く。貧弱なわけでもなく、かといって過ぎた筋肉を付けているわけでもなく、程良いバランスをもって大人の男へと変化をしていく。
なのに。
なのにヒカルだけはそのままなのだ。
そのままといっても成長をしていないわけではない。ただ、めざましく無いだけなのだ。
ヒカルはある時期、碁から離れていたことがある。原因がなんなのか、それは未だにヒカルが口を閉ざしているから分からないのだが、そこから立ち直るのを間近でみていた伊角だからこそ、並大抵の苦しみではなかったことが分かる。よほど精神的に追いつめられていたのだろう。
あの時のヒカルの泣き顔は、いまでも心に焼き付いたままだ。
ヒカルの成長が遮られた原因に、そういった精神的なものが上げられても間違いない、と伊角は考えている。勿論口に出したりはしないが。
「そんなこと気にするなよ、別に体格で碁を打つわけじゃ無いだろ?」
「それはそーだけどさー・・・うらやましい・・・」
羨ましそうに見つめられて、にひひ、と笑う。
「いいだろ、別に進藤はそのままで」
「・・・あのなー・・・人ごとだと思って」
「だってさー、俺よりでかい進藤って想像できん」
「うるさいっ! まわりにいるのがお前らがでかいから俺がちっさく見えるんだろ! 俺はこれでも168pあるんだぞ」
「ええ!?」
「わざとらしく驚くなよ!」
いつもならあっさり流すはずなのに、かなりこだわるようすをみて伊角が口を挟む。
思い当たる理由が無くもないからだ。
「・・・・進藤、もしかしてアレ、気にしてるの?」




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