Next より 


その時ヒカルは。
真剣に悩んでいた。ヒカルの記憶に間違いがなければ、ヒカルは緒方と恋人同士になった(筈だ)―――というか、そこら辺の自信がちょっともてていないのだけれど。
だから真剣に考える。


―――――――――2度目って、どうやればいいの?


和谷達が知ったら悶絶もんである。



「どうしたんだよ、進藤」
和谷にそう声をかけられて。一瞬ヒカルは言葉に詰まってしまった。
前回で(BEGINNING参照)自分が一般常識――――というかその手の方向の知識で――――が、同世代の連中より遅れているということが理解できた。まあ、そういった事になか
なか興味がもてないのだから仕方がないのだが、それが自分の身に降りかかってくるとなると話は別である。
なんだかんだいいつつも、緒方のことを好きになっている自分を、ちゃんとヒカルは理解している。そして体を重ねる心地よさも。囲碁を通して、神の一手を極め精神を高めていく素晴らしさもいいが、体で極める快感も、一度知ってしまったらソレを忘れることはできない。
そして、よくよく考えてみれば、そういったことをする相手はどうやら緒方以外には考えらないらしい。・・・・想像も出来ないのだ。ヒカルは、ようやく『好き』にも色々な種類があるのだと、理解し始めていた。
「なあ、進藤ってば!」
「あ! や、うん・・・・・」
ふと物思いにふけっていたのを引っ張り上げられて、ヒカルは一瞬言葉に詰まった。
「何か悩みがあるなら相談にのるけど?」
いつもより静かな進藤を心配しているのだろう、ヒカルを覗き込んでくる和谷の目は真摯な光を湛えている。和谷のことは信頼しているし、頼りにもしているのだが、そういった相談は他の奴らにするな、と緒方に念を押されたばかりである。
相談することがどうしていけないか、は理解できていないのだが(そこが根本的に問題になっているとヒカルは気づいていない)緒方に言われたことを破るつもりもないヒカルは、
どうしたらいいかものすご〜く考えて、苦肉の策を考え出したのだ。


「な、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
ヒカルにそういわれて、嫌といえる和谷ではない。反対に自分を頼って相談をしてきたということで、一気に機嫌が良くなってしまうぐらいだ。
「いいぞ、なんでも言えよ。俺にできることはしてやるよ」
満面の笑みを浮かべて胸をはった和谷に、ヒカルはちょっと困った表情を浮かべる。
「う、と、その、ここではちょっと・・・・」
言いにくいヒカルの様子に、和谷はちょっと考えた。
「言いづらい?」
「う・・・ん、まあ」
「じゃ、さ、今日呑みに行くか?」
「呑みに?」
「おう。たまにはいいだろ? 今夜は酒でも呑みながら語り明かそうぜ」
そういったときにヒカルの笑顔に、和谷は何時になく満たされて、待ち合わせの約束をしたはずだったのだが。



「――――――――――なんで、こういうことになるかな」
「言ったろ? 抜け駆けは禁止だって」
ボソリ、と呟いた和谷に、アキラが答えた。
「大体、なんで、お前がきてんだよ」
「ちなみに、僕だけじゃないが」
確かに。
辺りを見回せばそこらじゅうに見知った顔がある。
「なんでこいつらがいるんだよ!」
「さあ、なんでだろうね」
しれっ、と答えたアキラに和谷が、がーっ、と頭を掻きむしる。和谷の計画の中では、二人でしっぽりゆっくり話して、ヒカルの相談に乗るはずだったのだが。一体どこから漏れたのか。
「ったく、どこから沸いたんだか」
「秘密にしようとするからだよ」
アキラに指摘されて、和谷がぶすったれる。
「それにしても、上手い日を選んだものだね」
グラスを口につけながら、アキラが眉を上げてみせる。
「だろ? 今日は指導碁で緒方さん東京にいないんだよね」
「まあ、邪魔者はいるけど」
と、アキラの視線の先には芦原と白川が居た。
彼等はヒカルを気に入っているとはいえ、和谷やアキラ達に比べて特別な思い入れがあるわけではない。どことなく、この状態を楽しんでいるようなふしは見られるところがあり、どちらの味方にもつかない中立の立場を守っているようだ。
緒方と縁が深いくせに、緒方寄りと言うわけではけっしてなく、それだけに始末が悪い、と言える。
「和谷」
「伊角さん」
「あれ、いいの?」
伊角が指さした先に、すでに何杯目かの酒を口にしているヒカルがいた。頬がほんのり染まって酒が程よく回っていそうだ。




………続きは本誌でどうぞ☆