「こぼれたもの」

 

小さな、露店と呼ぶのも憚れる店だった。

フードを目深に被った店主が1人、布を敷いて水晶をくりぬいた瓶を置いている。

売りものは、その瓶の中身の飴玉だろうか。

何とも言えない、妖しい美しさだ。

「これは、何ですか?」         

「“涙の雫”です」

女店主が、背筋にぞくりと来る声で答える。

「おひとついかが?」

薦められるまま、口に含んでみると、甘いような、それでいてほろ苦いような不思議な味。

「何とも不思議な、そう、深い味ですね」

「ええ、“涙の雫”ですから」

え、と顔を向けると、店も店主も、その姿を消していた。

ただ、口の中に、ほろ苦い味だけを残して。

 

 

〈終〉

 

 

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