06.11.09(THU) 谷急山 裏妙義山


 谷急山(やきゅうさん)は上信越自動車道で軽井沢に抜ける時、あるいは下ってくるとき、裏妙義の一番奥のしかし目の前にそそり立つ急峻な山で、裏妙義の最高峰でもあるので何時か登りたいと思ってはいたが、よく見えるだけに、どう見ても老夫婦が山歩きを楽しむという感じの山には見えない。それで後回しになっていた。


 コース:岩の平登山口8:30→三方境11:00→前衛峰12:15-12:25→谷急山13:15-14:00→前衛峰14:45→三方境15:50→裏妙義国民宿舎17:10 (所要時間8時間40分)

 碓氷バイパスを2kmほど登ると左に恩賀への道が分岐する。これを入って500mほどで入牧橋を渡ると、登山口の標識がある。

 駐車場:登山口の標識を通り過てすぐ、入山川沿いのガードレールが切れて、路側に2〜3台置けるスペースがある。その先の倉庫のような建物の前に広場があるが、入山集落の消防設備が入っているそうで、勝手に駐車するのは止めた方がいい。勿論トイレはない。
登山口の入山の集落から見た谷急山


 登山口は碓氷バイパスのすぐ横だからアクセスは楽。登山口も分かり易い。入山の集落の中を真っ直ぐ抜ける。冷え込んだらしく畑の野菜は白く霜をかぶり、朝日を浴びて蒸気が立ち昇っていた。集落を抜けると道は広くなり、深い沢底を縫っている。この道は砂防ダム工事用の道で、すぐに未完成の砂防ダムに突き当たり、先に進めなくなってしまった。作業員が一人発電機の点検をしていたので道を聞くと、ダムの右の上だという。登る道はなく、戻るのも面倒なので、4〜5mの手掛かりもろくにない崖を強引に登ってしまったが、どこかに工事道路から分岐する正規の登山道の入口があったはずで、我々は見落としてしまった。


沢の渡渉点 朝日に染まる谷急山山麓


 少し歩くとすぐ沢(並木沢)の渡渉点があり、左岸に渡る。谷急山の紅葉や、妙義らしい岩塔がそそり立っているのが見えるが、木の枝に邪魔されて写真が取れるような所はない。しばらく沢を離れて植林された杉林を登る。登山道と作業道が交差して道が分かりにくい。植林地を離れると道は細くなり落ち葉が積もって更に分かりにくくなる。雪道を行くように落ち葉の道を行く。こんなの初めてだ。山は細かく砕かれた軽石の山で、やがて踏み外したら何処まで落ちるか底も見えない、木も草も生えていない深い崖をトラバースするように登る。手掛かりもなく、道は細く、崩れ、落ち葉に覆われてしまっているので危険極まりない。一度踏み外しかけて冷や汗をかいた。高巻いた方が良かったと後悔するところも有るが、道が分かりにくいので、道を離れたら戻れないかも知れないと思うと道を外すのも心配である。高巻いたと思われる踏み跡のあるところもあった。鎖場が一ヶ所あるが縦の鎖ではなく横の鎖だった。横の鎖ならもっと欲しい所は何ヶ所もあった。鎖も付けられないようなところというべきかも知れない。
 やがて沢の合流点で紅葉が見事なところに出る。ここはほっと出来る場所で一息つく。さらに落ち葉を掻き分けて登る。結局三方境まで気が抜けなかった。この時点で帰りは裏妙義の国民宿舎に下ろうと決めた。疲れた後あの道を下るのはごめんだ。国民宿舎への道は、昔、裏妙義を縦走したときに一度歩いたことがあり、どんな道かは忘れてしまったが、何も気にせずただひたすら下れたことだけは記憶にあった。


一箇所だけホッとできる所が有った 三方境


 三方境から前衛峰の登りまでは、深い崖やひどいやせ尾根、急登もあるが、木が沢山生えているので怖くはない。紅葉もきれいで取敢えずはルンルンで歩ける道である。


前衛峰 前衛峰への取り付き部


 前衛峰の岸壁が見えてくる。垂直の岩壁を左に見て巾50cmほどで両側がすっぱり切れ落ちた短いリッジを渡ると、道は岩壁の右を巻いて登る。どんどん急になり木の根、岩角、古いロープ(3か所ほどある)を頼りに登る。横に落ちる心配はなくなったが後ろにコケれば只じゃすまない。手掛かり足掛かりを確認しながら慎重に登る。登る途中で一人で下ってきた若い人にあった。もう一人登ってますよ、とのこと。奥まで行くんですかと心配されてしまった。


前衛峰から裏妙義山、榛名山・赤城山


 悪戦苦闘するうちに前衛峰の山頂へ抜けた。手掛かり足掛かりは何とか有って、遠くから見た前衛峰の姿ほどには怖い所はなかった。岩塔のてっぺんだからの展望は素晴らしい。特に裏妙義から榛名、赤城、日光、尾瀬、谷川に続く山々の展望は日本離れしている。前橋、高崎あたりの都市は濃いもやの下に沈んでいた。


 西側には目的の山、谷急山が見える。また一旦下らなければならないが、その先に穏やかな丸い峰が並んでいて、その真ん中の一番高い所が谷急山である。平凡な山容で写真を撮るのも忘れてしまった。簡単に行けそうに見える。
 しかしここで考えてしまった。今日二人はもう緊張を強いられる山を充分登っている。そして素晴らしい山頂にいる。ここで戻れば余裕を持って下れるのに、無理をしてあの山頂まで往復する意味があるのだろうか。更に疲労すれば下りのリスクも高くなる。
前衛峰から谷急山(帰り)


 だが結局、年甲斐もなく無理をして谷急山へ向った。中高年の楽しい山歩きからちょっと逸脱して、谷急山をまで行くぞという意地が勝っている。意地を通さなければ道理は引っ込まない。道理だけでは物足らない。


 前衛峰を谷急山側に下っているとき、40代くらいの若い人と出合った。まだ先にも怖いところがあるという。結構大変な山ですよ、と脅かされた。下りきると大ギャップで、山体を斧で断ち割ったような凄まじい絶壁を左にみて短いリッジを恐々渡る。小さいピークを越え次の小ギャップを抜け、狭い尾根や小さいピークをいくつか越え、待望の谷急山にたどり着く。
大ギャップ


 山頂はそれほど広くない。手前に三等三角点があり、山体の骨格の鋭い岩が頭を出している。山名表示板はハガキより小さそうなプレートが、細い潅木の枝に留められていた。他には何もない。低い潅木に囲まれているが、360度の展望は前衛峰の展望にも増して素晴らしい。東側の展望は前衛峰の山頂とあまり変わらないが、特に西側はさえぎるものがなく気持のいい展望が広がる。、眼下にはゆるいカーブを描いて高岩を貫いてゆく、上信越自動車道から、県境の絶壁の上の矢ヶ崎山のピークの上に、浅間山が長い裾野を引いて秀麗な姿を見せている。裾野の先には北アルプスが白く光っている。久し振りに遠くから槍の穂先を見た。西上州の山々も全部見えるといってよさそうだ。荒船山の垂直の岩壁と八ヶ岳の裾野の間に南アルプスの駒ケ岳もみえた。
谷急山山頂


高岩をトンネルで貫く上信越自動車道 浅間山と矢ヶ崎山
この位置からなら浅間山の
前掛山のピークが見える。


 ホッとしたらお腹がすいて早速食事を始めていたら、鈴の音がしていかにも山慣れした感じの同年輩の男性が、しっかりした足取りで一人で登って来た。甲府の人で今朝裏妙義の国民主宿舎から丁須岩に登り、裏妙義を縦走してきたという。見えている山の名前や山情報、道路情報などおしゃべりをした。天気が良くてつい長居しましたと、男性が先に下って行った。我々も長居は出来ない。早々に片付けて男性の後を追う。


かすむ西上州の山々


 幾つもの小さいピークを越え前衛峰へ向う。途中の登りで太ももがつり出して慌てる。疲労が主因だろうが、山頂でゆっくり休んで身体を冷やしたことや、お昼を沢山食べたことなども影響しているかもしれない。巻機山の時のように登れなくなったら大変である。ちょっと心配したが、しばらくペースを落として痛みに耐え、一歩一歩登ったら、嘘のように楽になった。
裏から見た表妙義・金洞山
遠くの二つのピークは御荷鉾山


 小ギャップ、大ギャップと戻り、前衛峰の登りに掛かったら今度はむこうずねの筋肉がつり出した。つま先をあげるとつってしまう。普段あまり使わない筋肉が悲鳴を上げているのだろう。前衛峰の山頂で一息ついて、撮り忘れた谷急山の姿をデジカメに納める。裏妙義の南斜面は夕日で紅葉が錦に染まっている。写真に撮りたいが潅木の枝に邪魔されてうまくいかない。我々のいる前衛峰の影が三方境の紅葉の上に落ちていた。両手を挙げて振ってみたが我々の影までは確認できない。
 細心の注意を払って前衛峰を下り終えたときはホッとした。しかし登るときは大して気にならなかったが、三方境までの間には小さなピークが幾つあるのだろう。つりそうな筋肉の痛さに耐えて一つ一つ越えてゆくのが辛かった。
三方境に落ちる前衛峰の影
右の岩峰を下りながら


 三方境に着いたときはすでに4時に近く、日は短いから暗くなる恐れは充分あった。登る時すでに決めたように、登山口とは反対側の裏妙義国民宿舎に下ることにする。下り始めると昔の記憶は正しく、こちらの道は巾も広くなだらかで、分かり難いところや危険な所は一箇所もなかった。一度も休まず我々としては精一杯の速さで、坦々と下りに下った。迫ってくる夜の闇との競争である。途中ほぼ水平に尾根を越えては沢を渡りを3〜4度くりかえし、あまり下っていない感じに囚われる。何処まで行くんだいと言う感じである。最後の沢の少し急になった長い下りを下ると、対岸に林道のガードレールが見えはじめホッとする。沢(中木川)の渡渉点には分かり易い案内があった。水量の少ない沢は簡単に渡れる。林道のガードレールまでは4〜5mの高さの土手登りでロープが下がっていた。


 薄暗い林道をしばらく下ると国民宿舎の明かりが幾つも見えてきてヤレヤレである。国民宿舎で電話を借りてタクシーを呼ぶ(携帯は尾根では使えたが国民宿舎のある沢筋は圏外)。このとき5時を10分程過ぎていた。応対してくれた国民宿舎の二人の男性職員の方も大変親切で、泊まりもしない泥だらけの我々にロビーのソファーをすすめてくれたり、裏妙義のコース案内のパンフレットを持ってきて、我々が車を置いた場所を確認した上で、タクシーの運転手に行く先を告げてくれたり、至れり尽くせりで感謝である。15分ほどの待ち時間でタクシーに乗り込んだとき、すでに外は真っ暗だった。


 我々もヘッドランプくらいは何時ももって歩いている。しかし20年来ヘッドランプを点けて山道を歩いたことはない。あくまで緊急用で群馬の山を歩いている限り、計画自体は明るいうちに”家に帰りつく”位を目安にしている。最も日の短い今の季節でも同じことである。初めて行く山での時間の目安は、やはりガイドブックなどのコースタイムである。妻と歩く時は総所要時間でガイドブックのコースタイムの1.5倍くらいをみている。今回の谷急山も「群馬の山歩き130選」のコースタイム、6時間を目安にしたので、1.5倍で9時間、8時から歩き始めて5時には車に戻れる計画だった。これでかなり余裕があるはずだと思っていた。しかし帰りのコースをより安全な国民宿舎側に変更したにもかかわらず、到着時間が5時を回ってしまったのは、やはり少し無理をしたと反省しなければならない。まず例によって出足が遅れたこと。6時起きで飛び出せばいいのに、久し振りに妻がお弁当を手作りしてくれたりして、30分ほど遅れてしまった。また岩の平から三方境までの道が分かりにくい上、危険な箇所が多く、我々としては慎重に登らざるを得ず時間を食った。谷急山に登ることだけが目的なら、国民宿舎側から登ればずっと安全だし楽だと思う。


 その目安になるガイドブックのコースタイムだが、これも基準が曖昧で、あまり当てにならない。たとえば前出の「群馬の山歩き130選」、古いエアリアマップ、裏妙義国民宿舎で貰ったパンプレットで、今回のコースタイムを我々(私と妻)のコースタイムと共に一覧にしてみる。130選の三方境⇔国民宿舎のコースタイムは、同書の指示通り、同書の裏妙義縦走の中のコースタイムを示す。我々の巻頭のコースタイム、岩の平⇒三方境には休憩時間が含まれているので一応10分引いた。

130選 エアリア パンフレット 我々
岩の平⇔三方境
登り
下り
1:50
1:10
2:00
1:30
2:00
1:30
2:20
三方境⇔谷急山 往復 3:00 1:50 4:00 3:55
国民宿舎⇔三方境 登り
下り
2:20
1:50
1:30
0:40
2:00
1:30

1:20
岩の平⇒三方境(⇔
谷急山)⇒国民宿舎
合計 6:40 4:30 7:30 7:35

 一覧で見る通りエアリアのコースタイムは短い。自分の実力をこういう形で明確にされるのは、あまりいい気分ではない。しかし山を歩いていて、人に追い越されて、我々が10m進むうちに、追い抜いた人は更に10m位先に行っている、くらいの経験はしょっちゅうだから、我々が遅いのは分かっているし、自分係数を掛ければいいだけの話である。今回エアリアが流石だと思ったのは、ほぼ同じ標高差、同じような距離を歩く両コース(岩の平⇔三方境と国民宿舎⇔三方境)に対して、岩の平コースが大変で、国民宿舎コースは楽だという重みを、コースタイムの差ではっきりさせていて、実際歩いてみてその通りだと思ったからである。
 130選はその点がまったく逆になっている。このコースタイムを見れば短い時間で登りたい人が、岩の平コースを選択することになる。我々が何も知らず逆コースを歩いて、薄暗くなってから三方境に下ってきたとして、このコースタイムを見れば、暗くなる前に岩の平へ下りたいと考えても不思議ではない。40分も早く下れる計算になるのだから。これは悪夢のような選択である。
 裏妙義国民宿舎のパンフレットは、最近の山歩きが中高年に支持されるようになって、エアリアマップを持って歩くと、我々のコースタイムのようにえらい差が出て、いくらなんでもこれでは参考にもならない、と言うところから用意されるようになったものではないだろうか。このコースタイムならほぼ我々のコースタイムと一致しているから、初級者、中高年向きコースタイムと言っていい。それでも岩の平コースと、国民宿舎コースの歩きやすさの差は明確にされず、同等に扱われているのは残念である。初級者コースと言えば、130選の谷急山は上級者コースにランクされている。谷急山の山頂で”俺達上級者だぜ!”と言ったら、”6時間で帰れたらね”と言われてしまった。俺達が上級者の訳ないよ。
 コースタイムとは上記のようなものである。日が短くなるとコースタイムをたてるのも中々難しい。ここでは130選を悪く書いたが、そのような問題も有るが、130選が僕の山歩きのバイブルであることに変わりない。この本がなければ僕の群馬の山歩きは出来なかったし、今後もこの本を頼りに歩き続けることになる。機会があれば見直してより良いガイドブックになってほしいと思う。 


 

車で来て裏妙義縦走を考えている方へ参考までに
 裏妙義国民宿舎から入山岩の平口までのタクシー代 約3400円。
    待ち時間15分、乗車時間20分程度。
 鍵沢コースの駐車場までなら2000円程度ではないだろうか。




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