鎖骨の詰めについて
稽古風景のDVDを購入された方から、「合気上げの際に、どうやって相手の腰を上げることが出来るのか」「解説では鎖骨を詰めると言われるが、どのように行うのか」という質問が多く寄せられている。
まず重要なのは、合気上げでは相手の腕ならまだしも、相手の肩や身体を押してはならないと言うことである。相手の身体を押せば必ず、反射運動として相手の背筋が対抗力となるような形で緊張するため、相手の腰を上にあげることが大変困難になってしまう。
ではどこで相手の腰を上げているのかであるが、要は「掴んでいる指の側面に、これ以上の力を加えられると嫌なので、自分で腰を伸ばして逃げるしかない」という状態に追い込むことなのである。つまり自分で押し上げているのではなく、相手が防御反射で腰を伸ばして逃げていくというのが、正しい「合気上げ」であり、だからこそ強い力も感じないのに不思議と身体が浮き上がってしまうという状態が起こるのである。
そのためには、合気上げの途中で肘の操作で相手の肘を捕まえ、さらに肘と肩の連動操作で相手の鎖骨を制御し、相手の肩や首が動かない、いわば「詰まった状態」に押し込んでしまえる技術がなくてはならない。
この稽古のには、相手にきっちりとした形で握ってもらい、「朝顔の手」や手首の曲げと捻転、さらにその原動力である肘の使い方を、正しい形で身体に覚え込ませる必要がある。むやみやたらに、力とスピードで、数稽古で身につけようと言うのは、時間の無駄である。合気上げは如何に相手の腕・肩・上半身を制御していく技術を身につけるかの方法論であって、力任せに押さえ込んで来る力を跳ね返すための方法論ではない。そのような鍛錬なら、他の方法でやった方が遙かに効率的であるし、下手をすれば「居着きやすい身体」を作ってしまいかねない。
理屈が分かってしまえば、合気上げはすぐに出来てしまうものである。私の東京稽古会ではまず、この要領を一番に覚えてもらい、理屈を実感してもらうようにしている。これで合気上げの基礎が分かれば、なぜ「合気」の習得に「合気上げ」が適しているのかの理由も、簡単に納得してもらえるものである。実際、覚えの早い人や経験者なら、一回の稽古で「合気上げが分かってしまう」のが実情である。