関節あれこれ

1、肘関節について

 肘関節は上腕骨と撓骨・尺骨をつなぐ関節であるが、撓骨・尺骨は役割を異にしており、尺骨は基本的には肘を180度開くことが主な役割となっている。逆に言えば小手と二の腕は180度以上には広がらず、そこに「肘のばしの合気」の原理が潜んでいる。

 撓骨はイメージとしては、上腕骨と直には接してはおらず、クッションを介してつながっているような、いわば自動車のクラッチ板を想像すれば良いかもしれない。

 尺骨に伝える圧力はダイレクトに肩から鎖骨にまで伝わるため、ある圧力を加えると「上げる骨」と化してしまうのである。

 逆に撓骨に加える圧力は、ダイレクトには伝えにくく、いわば「関節の遊びを消す」作業が必要となる。それを身につければ、軽く小手に触れるだけで相手を上半身の片身を硬直化させることが出来る。「下げる骨」を利用した「固める合気」である。

 撓骨・尺骨いずれの骨も、骨の長方向に加えられる押す力や引く力に有効に対抗できる筋肉を持っていないため、まっすぐに引けば簡単に引き込むことが出来、たやすく押し込むことも出来るようになる。ただ、「まっすぐ」というのが実は為しがたいのである。

2,手首を掴むということ

 手首を掴むのに「脈どころを取る」ということを言う。この場合に掴まなければいけないのは、小手全体あるいは筋肉ではなくその中の撓骨と尺骨であり、それぞれ意識して別々に取っていく必要があるのである。

 例えば手首を綾に握る場合、親指は正確に撓骨の湾曲部の内側を、尺骨はその側端部(仮に尺骨尻と呼ぶ)を小指と薬指で押さえ、掌のつぼめる力と肘の捻転で撓骨・尺骨の間を撓め肘関節を固定化していくのである。

 この場合に、上記の肘関節の構造が大きく関わってくるのであるが、「掴む」というのは「握る」ということではなく、骨をつまんでいく感覚がないと成立しないのである。

 このことが分かれば、親指と小指・薬指の三本で、相手の小手だけではなく、肘・肩まで固定できる。

(これらのことについては将来もう少し詳細に、骨格見本を使って説明していきたい・・・・・・)

 また手全体で掴むとしても、まずどこから握っていくかである。通常、人はまず中指から接触させていくが、これでは本当に掴んだことにはならない。

小手だけでなく肘・肩の力まで乗せて行くには、まず親指の付け根の手首に近いところから接触させていかなければならない。そしてそこを中心に掌を巻き付けていき、最後に指を使うのである。これはまさしく刀の柄を握るのと同じやり方である。

3,肩関節について

 通常、肩を動かす際に肩胛骨を意識しているだろうか。腕を上げていく場合に、肩の関節が動きを司っているのは、肩と水平になるまでである。その後、万歳するまでの動きは実は肩胛骨が動いているのである。  だから上腕骨の肘側の端を制御することによっておこなう「肘押さえの一本捕り」は、肩より上に上げてしまうと効果が薄れてしまう。特にうつ伏せにさせて行う場合に、「体軸に腕を直角にさせて」という口伝は、このことが基本となる。

4,肘のばしの合気について

 1で述べたように、尺骨のほうの肘関節は「ねじれ」には関与していない。司っているのは180度の開閉だけであり、それは構造上やむを得ない。

 そのためいわゆる「肘のばし」をどこに意識していくかというと、肘関節の尺骨側だけに梃子の作用点を見つけなくてはならないのである。

 よく肘関節全体を逆肘にするようにかけている人を見かけるが、結果的に肩を押し上げているだけで、ほとんど効果のない状態になっている場合が多い。本来掴まれた部分と、相手の肩の部分は固定し、ほんのわずかのゆがみを肘関節の中に生じさせて、防御反射で肘・肩が伸び上がっていくのが「肘のばしの合気」なのである。

 これは掛け手や、二ヶ条・三ヶ条でも同様に意識しておかなければならない重要なポイントである。相手の掌の小指側、手首、小手の尺骨側とすべて同じ効果を生ませる圧力を生み出すための技術が必要である。実はそれを稽古するためにも「朝顔の手」がある。