「玉磨き」の説明
「玉磨き」の稽古法とは
当道場では合気を体得させるための稽古として、「玉磨き」という稽古法を取り入れています。これは「合気がかかっている」状態とはどのようなものかを体感してもらい、力の弱い女性や子供でも簡単に「合気をかける」ことを体得してもらうための方法です。
合気の基礎としてよく「合気あげ」や「朝顔の手」ということが言われますが、その理合がわかりにくく、またコツをつかむまでかなりの期間を要します。
「玉磨き」は道具を介することによって、いわば強制的に「朝顔の手」に近似した状態を作り出すことができます。またその「玉」を基準点とすることによって不必要な力を排して、合気に必要な純粋な力を見いだし、さらに肘・肩・胸をどう使うかなど、合気に必要な初級技術を短時間で身につけることを目的としています。
なぜなら「合気柔術」を稽古するためには単純な体術稽古と違い、初歩的な「合気」の感覚や技術を最初からものにしておかなければならないからです。またそれがないと、稽古が力任せ・スピード任せの関節技の練習になってしまいかねません。
初級の合気の技術は合気柔術の根幹ですから、入門者は1〜2ヶ月程度で身につけてもらうことが必要です。
具体的な方法論は次の通りです。
@ 2人が相対し、片方がボール(大きさは手のひらにおさめたときに無理のない大きさであれば、どのようなものでもかまいません)を柔らかく持ち、その両手首を相手がしっかりとつかみます。玉を持つ手は稽古の最後まで指先に神経を集中させるために、玉をにぎりしめないようにします。
A 玉を動かさないようにしながら(「接触面の静止」)肘を外側に柔らかく張り出し、相手のひとさし指の付け根を取ります。これにより肘を「力点」、付け根を「支点」、相手のつかんでいる手(それ自体も梃子作用の複合体ですが)を「作用点」とする梃子ができあがります。
この場合、この相手の人差し指の付け根が常に梃子の支点となるので、梃子がはずれないよう常に意識していなければなりません。この支点を維持していくことが「脱力」や「付ける合気」に繋がっていきます。
B 次に相手の腕の内側や胸に緊張を生ませるために、手首だけを使って玉を少しだけ上に差し上げるようにします。また相手を押さえる稽古の場合は、下げるようにします。これでAでできあがった水平面での梃子に、垂直面での梃子作用が複合されることになります。
これまでの作業で、相手の手の内や腕・肩・胸がしっかりと固まっていなければなりません。確かめるには、自分の体幹をゆすってみて相手の身体がダイレクトに反応するかどうかを試してみてください。
この時点で自分の腕の筋肉は、全力ではなくとも使い切った状態になっているはずです。一つの筋肉は一つの作業を完了してしまうと他のことには使えません。それを無理をして他の作業をやらせようとするから、「はずれてしまう」ことになるのです。そのままの状態を維持したまま、他の作業をやらせる別の筋肉を見つけなければなりません。
C これまでが準備段階ですから無意識にできるように繰り返し稽古します。この状態ができあがった後は、上げ・下げや横への移動、切りの手法、合気による当て身などを学びます。
D 上げをみてみましょう。いわゆる「合気あげ」のように、無理に相手を持ち上げることを目的とはしていません。持たれた部分に複合梃子がかかっている状態を維持したまま、肘をその下に押し込むようにします。自分の体幹を壁にして腕の力だけで作業をするのではなく、自分の身体が寄っていくような使い方をします。それはあたかも鉄棒に「ぶら下がって」懸垂をするような運動です。その反動で手が上がっていくように心がけます。
それは肘・肩を固定して腕の筋力だけで仕事をするのではなく、胸筋・背筋・腹筋をも総動員した上半身の筋力全部の共同作業です。その「反作用」として「静止している接触面」が移動するのはかまいません。
これにより肘・肩は固定されるどころか、自由に動かなければ作業はできないことがわかります。
ここでは「上げる」ことを目的とするのではなく、通常腕力だけに頼りがちな作業ではない、別の力の使い方があるということに気づいてもらうことが重要です。
故鶴山師範はよく「発想の転換」ということを口にされていたそうです。腕の力で押し上げるのではなく、体の力で押し上げることもできるという「発想」もあるのです。
E 下げは、玉を回すように手首を少し下げることから始まります。それにより複合梃子がかかっていることを、軽く肘を前後にゆらして相手の肘・肩が「釣れている」かどうかで確認します。
下げるときも腕を下げることはしません。持たれた場所があたかも地面であるかのように、腕立て伏せをするような作業をしてください。(反作用で力を使う)背筋・胸筋を自在にコントロールしてください。不随意筋と化している身体のあらゆる場所の筋力を、腕や指の筋肉と同じように精妙に使いこなす。そういう訓練が初級合気を使えるようになる、最短の近道です。
立ち技の場合、下げの力は相手の身体のどこにかかるようにするか。相手の腰・膝が「弱腰」の状態になるように、ゆっくりと確かめながら稽古します。持たれた場所は静止した支点、上半身の力を使って、相手の膝・腰が作用点となるような梃子を作ります。梃子がさらに複合化していくようにします。
さらに膝の「抜き」を使って一瞬のうちに「下げ」をかければ、それだけで相手をたたき伏せることもできるようになります。また腰の力を使えば、相手をその場に釘付けにすることも簡単です。
F 横への移動は、丸くなった腕の形を壊さないよう維持したまま、肩や胸・背の力を使うことを稽古します。動作としては肘が先導していくように見えますが、身体の動きに押された結果として肘も動くことと、持たれた位置は変えない(接触面の静止)ことを忘れてはいけません。また斜めに相手を崩すことも覚えます。