続き

7月8日(金)の続き


 だいたい、煽られて、急かされて、慌てて決めた事で、良い結果に行き着いた記憶がない。
 日本人は煽られると特に弱い。そして決まってバカを見る。

『バスに乗り遅れるな!』と煽られて太平洋戦争に突入したり、
『もうすぐ日経平均が4万円台になる!』と煽られて、素人までが株に手を出してバブルに沈んだり。
『今日だけの大特価!!』と喧伝されてた商品が、翌日には更に値を下げているのはよくあることだ。

『これが最後の合併のチャンス!』と合併推進派はやたら煽り立てる。
 この機会を逃したって、相模原市がバスみたいにどこかに走り去るわけじゃない。
 煽る人間に対して、『その手は食わん。かつてそれで二度騙された』と、かえって煽る人間の足元を見るくらいの人間が増えてくれれば、社会はもう少し成熟すると思う。

 煽る人間には、煽る理由があるのだ。

 財政シミュレーションでは、相模原市と津久井郡の1市4町の中で、今後、何の財政再建の手段を講じなかった場合、最初に財政が赤字になるのは相模湖町で、平成18年。次いで津久井町、3番目はどこかと言うと、何と相模原市。その次に藤野町、城山町。
 多額の借金に喘ぎ、財政が危機的な所ほど合併に熱心だと判る。合併して混ぜこぜにしてしまえば、相模湖町や津久井町の今までの『失政』のツケが、『新市』の影に隠れて判らなくなってしまうからな。責任の追求を受けずにすむわけだ。「失政のツケは、合併してみんなで仲良く払いましょう」、一億総懺悔的解決。

 藤野町は借金に関しては非常に身軽な町だ。公債費負担比率(家計で言えば、給料の収入の内、どの程度の割合が借金の返済に使われているかを表す数字)では、藤野町はこの数字が9%で神奈川県では10番目に良い成績だ。

 バブルにも踊らず、堅実に財政を運営してきた藤野町が、財政危機にまで自らを追い込んだ町と、一緒くたにされる。そして合併すれば、これから相模原市2900億の借金も、仲良く支えていく。
 こういうカラクリは、案外藤野の住民には知られていない。そして、『相模原市のような大きな所と一緒になれば安心』という宣伝にすっかり洗脳されている。

 人間をダマすなんてちょろいもんだ、と思う。
たとえ根拠が無くても、『恐怖』を植え付けてしまえば、人間の集団なんて思いのままに操縦できるものだ。今進められている合併問題も、少し時期を遅らせたら、1999年を過ぎたノストラダムス本みたいに、『何であのころは焦るように、合併しなくちゃ、合併しなくちゃ、と思ってたんだろう。今になってみれば馬鹿馬鹿しい。』と、しらけた気持ちで振り返る時が来るかもしれない。

 最後のチラシを作る際に、私も文案を考えてみた。
合併推進派が、『合併しなくちゃ破滅』とばかりに恐怖ばかり振りまくので、私は思いっきり『藤野の未来は明るい』と書いてみた。
 結局、私の文案は没になった。感情に訴えるのではなく、きちんとデータを出して、自立のメリット、合併のデメリットについて考えてもらおうというチラシになった。
 以下は私の没になった文章。

 さあ進みましょう。

 昨年の住民投票からの、この1年。
「藤野町は衰退の一途をたどり、合併しないともう駄目だ。」とか、いろいろ人を不安にさせる情報も流れました。
 でも、実際にふたを開けてみたら、この1年で町の財政力は更に健全性を増し、人口は増加し始めていました。
 かつては、
「都会では家を買えないから、仕方なく都心から遠い藤野町に住む」という感じだったのが、
「都会では得られない、濃厚な自然と文化のある、何か面白そうなこの町に住みたい。」と、わざわざ藤野を目指して家を探す人も、ここ数年で急に増えて来ています。
 藤野は、もはや谷間の時期を脱しました。

 なによりも今、町に『改革』の気運がみなぎっています。これは単に町政の改革だけに留まりません。ここに住む人々の意識も変わってきました。
 最近まで『開発から取り残された田舎町』と、劣等感の視点で藤野町を考える人達も多かったのが、今では多くの人々が、都市にはない山里ならではの価値を自覚し、これを活かしていこうと動き始めています。

 今まで気付かなかった、自分達の足元「藤野町」に横たわっていた『宝』。
その宝の一つに、『自分達の事を、自分達で考えて、自分達で決められる環境』があります。これも藤野町の立派な財産であり、宝です。お金には代えられない、一度手放したら二度と戻らない豊かさです。

 『大きな所と合併すれば安心』という単純な問題ではありません。『自分達の事を自分達で決められる安心』というのもあるのです。
 『大きな所と合併すれば豊か』というのもどうでしょう。『規模は小さくとも、自分達が払った税金で自分達の事ができる、誰に気兼ねもしなくてもいい心の豊かさ』というのも、あるのではないでしょうか。

 ある人々は、『子ども達の未来のために』相模原市と合併すべきだと主張します。
 しかし私達は、まったく同じ理由で、『子ども達の未来のために』藤野町という財産を残してやりたいと考えているのです。

 合併推進派は根拠のない情報の『火』を、やたらあちこちに付けてまわっては、煽って燃え上がらせてきた。私なんかは、必死になってその火を消そうと水をかけてきた。しかし、消火しているそばから、連中は次から次へと火を付けてまわっている。

『これではいくら消火活動しても、とても追いつかん。』
そんな無力感を常に感じ続けていた。
もう少し、住民みずからが、何が正しいのか、考える主体性をもってくれないことには・・・。

 4〜5年後、後悔するかもしれないのに。