議案 「できることなら藤野町のままであってほしい」「合併するなら、相模湖町・八王子市と」あるいは「津久井郡4町で」。それが藤野町民の願いでした。今提案されている議案は、そのどれでもありません。相模原市との合併です。相模原市は、“遠すぎる”“大きすぎる”“生活圏でない”ため、合併の枠組みとしては現実的でなく、わずか8%の町民しか望んでいませんでした。 しかしながら、1市1町で行われた合併協議はあまりにも拙速で、藤野町民の利益にかなう合併後のあり方を保障していくものにはなっていません。新市の一体化、平等性、効率化を理由に、藤野町固有の事業が縮小、廃止され、採算の合わない町営バスや相模原市にはない公立幼稚園のあり方も検討されていくでしょう。 編入される藤野地域の弊害を緩和するために、「総合事務所」と「地域協議会」が置かれることになっていますが、「総合事務所」には政策企画や予算編成などの財務機能はなくなりますし、「地域協議会」も市長に意見を具申するだけの権限しかありません。現在の役場や議会に代わるものとは全く言えません。「総合事務所」の職員は住民要望に応えたくても、予算などの決定権はなく、本庁にお伺いを立てなければならず、決定に時間もかかるし要望の取り扱いも間接的にならざるを得ません。藤野住民の声は確実に届きにくくなります。 また、職員も本庁を見ながらの仕事になり、意欲をそがれ、事務的に仕事をこなす働き方に変わっていくでしょう。また、合併した全国の自治体と同じように、遠からず、職員数は激減します。藤野特有の事業、たとえば、「太陽の市場」や「アートスフィァ」などは事業規模の縮小、統合、あるいは廃止もあるかもしれません。住民の皆さんが心配している除雪作業も、津久井町にならって今後道路の利用状況を精査し、除雪路線を見直すことになっていくでしょう。 「そんなはずはない」と言う方もあるかもしれません。私も杞憂で終わってくれたらと思います。しかし、国の財政状況や方針、相模原市の財政状況や行政、議会のあり方、そして歴史的な事実からみれば、今述べたことは必然なのです。一例を挙げますと、1995年に合併したあきる野市では、旧五日市町の役場に154人いた職員が、今は「総合窓口」として11人に減っています。映画祭も産業祭りも花火大会もなくなりました。 相模原市と津久井地域の合併も、まさにこの政策に翻弄されました。相模原市の小川市長も平成15年2月当時は「4町で十分協議し、枠組みや方向性についてあらかじめ合意していただくことが望ましい」「特例法期限内の合併は、市民の意向の把握など多くの時間を要すると思われ、幾多の課題があると考えている」と慎重姿勢でしたが、どうせ合併するなら、特例債を見込める特例法の期限にと、4町間の足並みがそろうのを待たず、特例法期限ぎりぎりに、1市2町で駆け込み合併する選択をしました。また、相模湖町では、住民投票の結果を町長が覆してまで、合併を強行しました。 しかし、それらの噂は正しかったのでしょうか。 町民懇談会で町が説明した「平成17年に財政破綻」は、ありませんでした。また、広域行政組合の事業も適正な負担金で相模原市に事務委託することが決まっています。そして、1市2町が合併を決めた時点で、そういう解決が図られることは分かっていたのです。矢祭町にように自立を決めてから、役場職員の努力でサービスは向上し、しかも基金を増やしている町もあります。下條村のように人口を増やし、財政力指数を向上させている村があります。その一方で、あきる野市のように「サービスは高く、負担は低く」をスローガンに合併しても財政の悪化から、大幅に住民負担を増やし、佐渡市のように財政が破綻し、新市計画も大幅な変更を余儀なくされたばかりか、合併協議にも出ていなっかた小中学校の統廃合を行わざるを得ない状況に追い込まれているところもあります。 噂に振り回され、慎重な議論の機会をなくしたことは、藤野町民にとって、非常に不幸なことであったと思います。 日本全体が貨幣経済から転換しなければならない時代が訪れています。それぞれの自治体で大きくなりすぎた行政への依存を見直し、自らの手で行うこと、地域社会で行うこと、行政が税金を投資して行うことを区別して、真の自立を確立していかなければなりません。高齢者の孤独死、3万人を超える年間自殺者、幼児殺傷、児童虐待などの痛ましい事件、犯罪の低年齢化など子どもの心の荒れ……。人のつながりの欠如や経済格差が問題となっている現代社会にあって、税金を投入して行われる行政サービスですべてが解決できるはずがありません。大きな自治体と合併して経済基盤が安定し、行政サービスが確保されれば住民の安心安全な暮らしが保障されるというのは、全くの幻想です。肥大化した公共サービスを縮小し、地域社会やボランティア活動などで担う地域づくりに転換していく、そこで築かれる人と人のつながり、信頼関係こそがゆがんだ今の日本社会を救うはずです。大きな自治体になることで行政と住民、住民と住民の関係が希薄になるとすれば、その弊害は図りしれません。 藤野町1町で、厳しい財政ながらも必要な施策は維持し、行政と住民が“顔の見える関係”を保ちながら、協働してまちづくりを行っていく。昭和の大合併で自立を選択した高知県馬路村は人口1200人ほどですが、ゆずの生産加工で年間30億円の売り上げを誇っています。一方、合併して安芸市になった周辺部の旧村では、児童数がゼロになっています。 地域内経済循環で雇用の場を確保し、人口の流出を防ぐ。集落単位で地域計画を立てて、住民主導の地域振興を行いながら、協働・共生社会を築き上げていく。地域資源が豊富な藤野町です。都心に近いという利便性もある。赤ちゃんからお年寄りまで生き生きと暮らせる町として、全国に誇れるまちになる可能性を十分に秘めています。 2006年3月2日 藤野町議会議員 野元 好美 |
質疑 町長からの廃置分合議案提出に当たり、町長にお聞きしたいことが3点あります。質疑を行うに先立ち、なぜそのような質疑をするのかという趣旨を述べさせていただきます。 合併はまちづくりの手段であって、目的ではありません。合併するとしても合併後のあり方を十分検討した上で必要な体制を整えていかなければなりません。自立するとすれば財政状況やまちづくりがどのようにになるのかを示す必要があります。そして、その上でどちらが藤野町民の利にかなうのかを判断していかなければなりません。合併すれば、後戻りはできないのです。 当初、相模原市との合併は鈴木町長、あなたを含めて議員の誰ひとり積極的に賛成するものはいませんでした。生活圏が異なり周辺部となる1市4町の合併では、藤野町の空洞化、地域経済の衰退など合併のデメリットが大きいことが容易に理解できたからです。平成15年7月に設置された「相模原市・津久井郡4町等広域行政連絡会議」や同年9月に設置された「市町村合併に関する津久井地区連絡調整会議」の経過報告から、それら合併のデメリットを緩和する手段を講じようとしても、人口62万人の大都市相模原市と対等に協議したり、津久井4町で足並みをそろえて解決することは非常に困難であると理解しました。1市4町という枠組みでの合併は町民の利益にかなわないと多数の議員が判断し、1市4町任意合併協議会の議案を否決しました。しかし、町民からすれば唐突な合併協議会離脱となり、受け入れられませんでした。 住民投票を求める署名活動が始まり、単独では藤野町はやっていけない、ごみがあふれる、救急車が来なくなるなど不安を煽る情報が流され、多くの署名が集まり、また住民投票の結果、1市4町合併のための協議を行うことになりました。合併を選択した町民の不安の根底には、平成15年2月に町主催で行った「市町村合併に関する町民懇談会」で「少子高齢化の時代を迎え、藤野町の財政は平成17年には破綻する。自立ではやっていけない。」といった町の説明がありました。もう一つ、町政や議会のあり方に対する不満や怒りがありました。「住民不在」でことが決められていくことへの怒り。町も議会も町民からの信頼を得られていなかったわけです。 この頃から、合併推進の方々が、議員に内容証明で抗議文を送ってきたり、議員の自宅に押しかけてきたり、傍聴して合併に慎重な発言をする議員を後で呼び出し取り囲むといったことが続きました。同僚議員は次第に発言を控えるようになり、十分な議論ができない議会になっていきました。機械的な流れ作業のような合併協議が淡々と進められていき、時流に乗った「合併派」か、時流に逆らう「自立派」かの対立になっていきました。どちらが勝つか負けるかよりも、行政も議会も藤野町で暮らす住民にとって利益にかなうあり方はどうあるべきかをとことん議論すべきだったのです。藤野町は本当に単独町政でやっていけないのか、合併するにしても、考えられうるデメリットを緩和する索はあるのか、単独か相模原市との合併か、選択肢が2つとなった時から、町も議会も町民の利益を守る立場に立って十分議論し、そしてそれらの情報を町民に公開した上で慎重に選択していく、そういった機会を作れないまま、今日に至ってしまたのです。 住民の不安を煽り、真摯な議論を奪ってしまった異常な雰囲気を作った大きな原因の一つに広域行政組合、すなわち住民生活に直結するごみ処理、救急、消防の問題があります。合併しなければ明日から生活が保障されないという不安は大きかった。しかし、この問題は適正な負担金で相模原市に業務委託することが決まっています。そして、そうなることは町長選以前から自明の理でた。 鈴木町長、あなたは町長選の公開討論会の時、600名に近い参加者の前で、広域行政組合の問題について、次のようにおっしゃいました。 政治にこれまで何の関与もしてこなかった一般町民と違い、あなたは、議員4期めで、議長までも務め、広域行政組合の議員も経験しています。すでに4月から1市4町で「津久井郡広域行政組合検討協議会」を設置し、広域行政組合解散に向けて検討を行っており、議会もその報告を受けていました。また小川市長も「中核市としての責任を果たしていく」と発言していたことは周知の事実です。広域行政組合が解散してもその業務の目途が立たなかったり、相模原市へ委託するにしても法外な負担を強いられて決裂し、藤野町民の生活に支障をきたすことが分かっていながら、藤野町議会が広域行政組合解散を議決することはあり得ない。そんなことは十分理解されていたはずです。 また、鈴木町長、あなたは次のようにもおっしゃいました。「最終的には県が責任をとってくれるという主張があるが、これは事実上再建団体であり、国家管理、県管理で、自治権の放棄になりかねない」と発言しました。ご案内の通り、「財政再建団体」とは、実質収支が赤字の自治体をいいます。財政の再建に当たっては、「地方財政再建促進特別措置法」にもとづく「準用再建」か、再建法によらず自力で赤字を解消する「自主再建」かを選ぶことになります。国の指導のもとで財政再建計画を立てることにはなりますが、自治権を放棄することとは全く次元が異なります。13年以上議員を務めしかないと誘導したとしか思えません。 あなたの発言を信じて合併しかないと思い、あなたに投票した人もいるはずです。その票も含めてあなたは、今、町長席に座っています。そして、自立の可能性を冷静に検討し、相模原市との合併か自立かを選択する機会を町民から奪ったのです。住民団体が配ったチラシに誤りがあったのとは違って、政治に長く携わり、町長候補者であるあなたが誤った情報を町民に流し、大きく合併へ舵をきったことの意味は重大だと私は思います。 1)公開討論会でご自分がなさった発言に誤りがあったことを認め、町 民に謝罪してください。それとも、議員としてその職務を怠り、現状 を知らなかった、無知であったとその非をお認めになりますか。 2)相模原市との合併には反対するべきだと同僚を説得していたあなた です。相模原市との合併で生じる藤野町地域での弊害は十分予測され ているはずです。合併後、「こんなはずではなかった」と町民から声 が上がったとき、合併へと誘導した責任を負う覚悟はできていますか、 それとも、今は相模原市との合併による弊害はないと言い切ることが できますか。 3)今、藤野町が合併を選択しなかったとしても、将来合併が行われる とすれば、それは国・県主導による強制的な合併となるはずです。そ のときは望むと望まざるとに関わらずバスは来ます。相模原市の都市 内分権の進捗状況、合併する相模湖町、津久井町の状況、将来合併す る時を見据えての町内の自治会、団体等の体制づくり、道州制の動向 などを検討し、たとえ将来藤野町の歴史を閉じるときがくるとしても、 町民の抱えるリスクを最小限にする必要があります。課題整理ができ ないまま、他の自治体に振り回されて藤野町の歴史を閉じるのではな く、藤野町民の進むべき道をじっくりと見極めるために、鈴木町長、 あなたの意思で、本議案を撤回し、今一度冷静にわれわれがとるべき 道を考ようと町民に呼びかける意思はありませんか。 |