金のかからない生活排水の処理について

 生活廃水の処理方法として、合併浄化槽が認知されるようになってきました。合併浄化槽は、『家庭用の小型下水処理施設』としての機能をもち、トイレや洗濯や台所で発生する生活雑廃水を下水処理場と同等なレベルにまで浄化する能力があります。実際、合併浄化槽によって魚が住めるまでに浄化された水は、そのまま川に流してもかまいませんし、洗車や庭の水撒きにも使えますし、「中水道」として、水洗トイレの水に使えば上水の節約になります(家庭で使われる水の三割は水洗トイレの排水が占めると言われています)。
 このようなトイレであれば、大地震などの災害が発生して水道や下水が使用不能になっても、トイレが使えなくなると言う事態は起りません(家そのものが壊れなければの話ですが)。その意味で、合併浄化槽を使った家は災害にも強いと言えるでしょう。

 また、合併浄化槽を使っている内に溜る汚泥は、自分で処理しても違法ではありません。自宅の菜園の土作りに、合併浄化槽の汚泥を混ぜて肥料として使っている家もあります。多くの自治体で、積極的にこの汚泥を堆肥化して農家で使って行こうと実験や研究が進められています。
 一口に汚泥の堆肥化と言っても、大規模な下水処理場から発生した汚泥では、どんな重金属が混じっているか判らない怖さがありますが、家庭用の合併浄化槽であれば、それほど危険性を感じる事も無く利用できそうです。(それでも、環境に優しい洗剤を使うとか、良質な品質の堆肥に加工するためにはいろいろ工夫が必要になるかもしれません)
 今まで、合併浄化槽で発生した汚泥は、その多くが焼却され埋め立てられて来ました。しかし今後は、かつては都市部の排泄物が農村に売られたように、合併浄化槽の汚泥も農村の土作りに有用な資源として循環されるようになるでしょう。

 合併浄化槽であれば、わざわざ下水管を引く必要はありません。下水道を引く工事には莫大な金額がかかり、山里のような家が分散して点在している地域には不向きです。現在では、住宅密集地では下水を使い、住宅が散在している地域は合併浄化槽を使うように、生活排水処理方法の住み分けが定着しつつありますが、かつては、たとえ山里であろうと、何が何でも各戸に下水を引こうとした時代がつい最近までありました。

 藤野町でも、素人目にもかなり無理があるんじゃないかと思わせる下水処理施設があります。小渕や吉野地区の下水は、わざわざポンプで汲み上げて下水処理場へ送っています。大久和地区の生活廃水を処理する施設は、毎年2000万を超える維持費がかかっていると言います。


これがその処理施設。牧野の川上地区にある

 毎年2000万!。
合併浄化槽なら設置工事費込みで毎年10〜20世帯に設置できる金額です。これでは10年程度で、この地区の全戸にただで合併浄化槽を普及させる事だって可能です。

 上記の藤野町の生活廃水処理方法は、合併浄化槽がここまで高性能になるとは予想できなかった時代に計画されたものかもしれないので、私はあまり町を非難するつもりはありませんが、今からでも合併浄化槽を使う方法を採れば、かなりの金額が浮く事になるでしょう。
 こんな無駄を放置しておいて、『藤野町の財政は破綻寸前だ』などと言って欲しくはありません。

 先見の明のある自治体も全国にはあるようです。
長野県下條村では、ほとんどの自治体が公共下水か農業集落排水を選んでいた時代に、コストの面を考えて合併処理浄化槽を選択しました。その結果、公共下水・農業集落排水で想定した事業費の約1/6の費用で済んでいると言います。これは、毎年2億円の費用を、無駄に使わずに済んだ計算になるそうです。
 毎年2億円!!。
ああ、そんな金が毎年自由に使えたら、どんな事が町で出来るだろう(笑)。

 合併浄化槽と同様に、維持費・建設費の安価な汚水処理方法で有名なのに「土壌浄化法」があります。技術革新は何も、大掛かりで莫大なエネルギーと金額を要求する方向だけではないでしょう。今よりも割安で維持費もかからず環境にも良い汚水処理法は、日々研究が進められています。
 一つ面白い例が地元にありました。藤野町の小学校の一つが統合で廃校になりましたが、地元の人々の手によって、山里を体験できる施設へと生まれ変わりました(しのばらの里HP)。


旧篠原小学校『しのばらの里』

 ここで新たに導入されたトイレの浄化槽は、汚水をバクテリアで分解・発酵させ、その熱で大気中に水分を蒸発させます。つまり、いくら汚水を投入しても分解と蒸発の結果、かさが増える事は無く、くみ取りの必要がありません。
 逆に、浄化槽に汚水が無くなってしまうと、食べ物が無くなってバクテリアは飢えて死滅してしまいます。そんな場合は、『牛乳』を補充して栄養を与えてやるのだそうです(笑)。

 この調子で技術革新が進めば、山里はおろか都市部でも下水道よりも浄化槽を使った方が割安になる時代が来るかもしれません。下水道事業はただでさえ役所や業者の利権が絡み、莫大な金額を要求する性質を持ち続けています。(たとえばこのページなどは、その辺りの事をまとめています)
 これまでは当たり前のように、せっかく合併浄化槽を使っていても、下水道が通れば無理矢理に下水道の利用を強制されて来ました。今では、下水道区域になっても、下水道法十条但し書きに基づいて下水道からの除外を申請し、合併浄化槽を使いつづける事が出来ます。
『金が余計にかかるから下水は使いたくない。合併浄化槽を使う。』
住民がそう言い出して下水道を拒否する事例も、今後は増えていくでしょう。

 藤野町も、そんな未来を想定した生活排水処理のあり方を考える必要があります。

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