山は油田

 私はクリーニング屋で働いていますが、最近の原油高には不安を感じました。
クリーニング業では蒸気を使います。蒸気を作るにはボイラーを使います。この燃料は石油です。品物の配達に車を使えばガソリン代がかかります。仕上がった衣類を包むビニールの包装材も、石油の値上がりを反映して価格が上昇しました。ビニールの原料は石油ですからね。

 石油も石炭も、いずれ枯渇する時を迎えます。枯渇する前に、価格が高騰する時期を迎えるでしょう。原子力発電のエネルギー源であるウランも、採算が採れるウラン鉱の埋蔵量は、今後70年程度で枯渇するだけしか存在しないと言われています。
 限りあるエネルギーや資源にばかり頼っている社会は、いずれ成り立たなくなる事が容易に想像できる時代になってきました。同時に、再生可能なエネルギーや資源にもっと目を向ける時代になってきたのです。

 再生可能なエネルギーや資源の代表格がバイオマスです。『生物資源』とも訳されています。要は生物を使ってエネルギーや資源を得ようとする発想です。
 聞き慣れない言葉で『バイオマス』と言うと、何やら今までにない技術のように感じますが、そんなに目新しい事ではありません。昔から行ってきた木炭の利用も、薪ストーブを使うのもバイオマスの一つです。木は伐採して消費しても、また生えて成長します。消費する量と、成長し再生する量のバランスを崩さないように運用すれば木材資源が枯渇する事はありません。
 また、木を燃料として燃やして二酸化炭素を排出しても、同じ量の二酸化炭素を木が成長する過程で吸収してくれます。つまり、消費する分をちゃんと再生していけば、温室効果ガスの排出量は差し引きゼロです。

 石油のような化石燃料と違い、バイオマスでは資源の枯渇も、地球温暖化の心配もしなくてすみます。また、石油と違って木なら燃やしても有害なガスは排出しません。スウェーデンでは、計画的に木を栽培し(成長の早いヤナギを使っています)、それを火力発電に使用しています。木をガス化してアルコールを作る設備も実用段階に達して、いずれは製材の過程で余った廃木材や、住宅の解体で出た廃木材から作ったエタノールをガソリンに混ぜて、自動車燃料にする時代も来るでしょう。
 話を身近にすると、家庭用に木を燃やすストーブがこれから普及するかもしれません。薪ストーブだと薪の調達が大変ですが、木を粒状の燃料に加工して、それを使うペレットストーブが日本でも次第に認知されてきました。これならお年寄りでも問題なく使用できます。

 バイオマスは燃料だけではありません。資源を作るのもバイオマスです。植物を原料にしたプラスチック製品も、今ではだいぶ普及してきました。『グリーンプラスチック』と総称されている製品は、使用後は廃棄しても微生物や紫外線などによって分解されて自然に帰ります。溶かした木をプラスチックと同じように成形する技術も実用段階に入ってきました。これらの木質プラスチックは、不要になったらまた溶かして新しい製品に作りなおす事もできます。もちろん、元が木ですから、燃やしても有害なガスは出ません。

 木や竹、アシやススキといった素材が、持続可能な資源として再評価されつつあります。燃料であり、プラスチックの原料でもあるのですから、これからは『山は油田』と言ってもいいかもしれません。社会全体にとっての山里の役割・価値が、これから少しずつ高くなっていく事でしょう。政府が打ち出した「バイオマス・ニッポン総合戦略(もう何年も前の文章ですが、バイオマスに関して要領良くまとまっています)」でも、バイオマスの普及による目的の一つに農林漁業、農山漁村の活性化を挙げています。
 この文章は合併問題を論じるのが目的で、バイオマスの説明が目的ではないのでこの程度にしておきます。興味があったら「ペレットストーブ」とか「グリーンプラ」とか、検索してみてください(無責任だなァ)

 さて、話が大きくなりました。少しバイオマスにからめて、「藤野町の活かし方」についても具体例を補足しておきます。
 近年、神奈川県も水源税の導入を考えるようになってきました。良好な水源地の環境を保全するために、新たな税金を設定しようというものです。これは県民にとって増税になるわけで批判も多く、実現化するかは不透明です。仮に実現化しても、
『はたして、本当に県民の水源環境の保全に役立てられているのか?』
と批判的な検証と評価にさらされ続けるでしょう。『役立ってない』と評価されれば、せっかく作った水源税の廃止だってありえます。
『水源税は県の税金だから、町とは関係ないだろう』
と思われるかもしれませんが、このような「水源地の環境保全」といった漠然とした目的の税金の場合、町なりNPOなりが、
『こういう使い方をしたら、良好な水源環境が望めますし、都市の人々も納得してくれるはずですよ。』
というアイデアを、ひとまとめにして提示できるかが鍵になってくるのです。

 良好な水源の保全の為には、良好な山林の維持が不可欠になります。良好な生活廃水処理の仕組みも不可欠になります。
 これらの問題は、バイオマスと密接に関わってきます。

 どういうわけか、藤野町にはこのバイオマスに詳しい人材が揃っています。相模原市の一部になるよりも、独自に県に対して、藤野町の実情にあった提案をできる状態を残しておいた方が良いのではないでしょうか。
 良いアイデアを提示できる能力があれば、水源税の使い方に関して、主導的な立場にも立てるのです。

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