意外とモテる町

 相模原市と津久井郡4町の中で、唯一、藤野町だけに存在するものを一つ挙げるとしたら、高速道路のインターチェンジがあります。一度このインターチェンジに入ってしまえば、東京へ行くのもあっというまです(渋滞がなければ)。

 電車で東京に通う場合でも、八王子のように車の渋滞が酷くて「駅まで行くだけでも」時間がかかるということはありません。そりゃあまあ、日連大橋のあたりとか、朝のピーク時は少し混む事は混みますが、藤野は車で移動する場合、渋滞の時間ロスを考えなくてもいい町です。

 つまり、藤野は実は東京にかなり近いのです。行こうと思えばすぐに行ける。地図を見ながら、地理的な距離ではなく、交通機関による時間的な距離を考えてみて下さい。
『地理的にはこの町よりも藤野は東京から遠いけど、交通機関で見ると、藤野の方が近いな。』
そう思える町が結構あると思います。
 そりゃあ、比較しようと思えば、藤野よりももっと東京に近い町はいくらでもあります。近いどころか、「都心回帰」現象で、都心に住む人だって近年は増えました。
 私が指摘したい点は、『濃厚な自然が存在している割には』東京に近いという事です。

 案外、こういう町ってないですよ。『鉄道・高速道路・山と湖・東京近郊』これらの要素を全て満たす町というのは。相模原市のような町なら、国道16号線を回れば幾らでも同じような町がありますが。

 昨年、藤野町は、小学校の統廃合で廃校になった菅井小学校(藤野町の南西にあります)の校舎の利用を希望する団体を募集しました。
 するとすぐに幾つもの団体が応募し、町はそのなかから、もっとも地域や町の発展に貢献できそうな団体を、選考委員会を作って決定しました。何でも健康食品の会社だそうです。
 健康に優れた効果を発揮するという外国のサボテンの一種を栽培し、健康食品の研究開発をしつつ、校舎を利用してこの健康食品の体験施設も作るという事でした。

 せっかくの学校の跡地利用なのだから、民間企業に売るよりも、地元の住民の為の公共の施設に転用したほうがいいのではないかという意見もあったようですが、私はこの話を聞いた時に、何かホッとさせるような、予想外の嬉しい気持ちになりました。
 というのも、私は町が学校の跡地利用を希望する団体を募っても、はたして手を上げる団体があるのかなあと、不安な気持ちがあったのです。何しろ、『不便な藤野町・企業が見向きもしない町』というイメージが、いつの間にか自分自身にも染み付いていましたから。
『藤野町は今後発展しようがない。もう駄目だ。』
と盛んに合併賛成派も宣伝してましたしね。せいぜい、一つか二つの団体が、「相手を選り好みできる立場か」と町の足元を見ながらやって来て、安く買い叩かれるんじゃないかと思ってました。
 でも実際は、募集をすればすぐに沢山の手が上がり、町は一番良さそうな団体を『選ぶ』立場にいたのです。

 この事を知った時の私の気持ちを例えれば、今まで自分はモテないと諦めていた人間が、急に多くの異性から言い寄られて、『どうした事だ?、意外と私はモテるのか』とびっくりした感じといった所でしょうか。

 もう一つ、予想外の喜びは、『何もこれからの町起こしは、工場を誘致するとか集合住宅地を作るといった手段に限る事はない』と認識を新たに出来た事でした。
 上に述べたように、農産物を基にした新産業もありうるのです。
 藤野町は神奈川県の水源となる湖を抱えています。そのため、水源を守らなければならない関係上、公害を引き起こしかねない工場の建設には厳しい規制がかけられて来ました。
『あの湖があるから町は発展できないんだ。』
長年に渡って、藤野町ではそう考える人は多く、今でも少なくありません。
 でも、この認識はもはや過去のものになりつつあると言ってもいいでしょう。

 豊富で濃厚な自然が存在する『健康な大地と水』の町。
このイメージを確立していけば、藤野町の持つ価値は、今後も高くなっていくはずです。中には、「そんな町にこそ職場を設置したい」と考える企業も出てくるでしょう。環境問題に関わる研究機関や企業などは特にそうです。
 その上、最初に述べたように交通の利便性の良さ。

 充分にブランドになりうる、意外にモテる町。藤野町はそんな町です。
ようやく最近になって、藤野町の人々もこの事に気付きつつあります。もし、この市町村合併の政策が、あと2〜3年遅かったら、藤野町の住民だって、『せっかくの「藤野ブランド」を安売りしたくない』と言って合併に反対する勢力がもっと強かったかもしれません。

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