「ピラニア」としての小さな町

 観賞魚を大量に外国から輸入する際に、輸送に使う船に沢山の観賞魚と一緒にピラニアも少し混ぜて入れるそうです。ピラニアと言えば凶暴な肉食魚です。そんな魚を商品である鑑賞魚と一緒にして、鑑賞魚が食べられてしまわないかと心配になりますが、果たして食べられてしまいます。
 じゃあ何で一見無駄としか思えない事をするかというと、これが無駄ではないからです。

 船で長い時間をかけて鑑賞魚を輸送すると、目的地に着くまでに病気や体力の低下で死んでしまう魚も少なくありません。しかし、不思議な事にピラニアを一緒に水槽に混ぜると、その数が少なくなるのだそうです。どうやらピラニアの存在の為に、鑑賞魚の方も緊張して必死に生きようと頑張るかららしいのですが。
 結果的に、ピラニアが食べてしまう鑑賞魚の数よりも、ピラニアを混入する事によって得られる鑑賞魚の生存率アップの方が大きいので、ピラニアを混ぜた方が有利なのだそうです。同様な事はトラックで活魚を運送する時にも行われているので、案外、広く一般的に行われているのかもしれません。

 平成の大合併で、政府は全国に3000あった自治体を、当初は1000にまで少なくするつもりでした。現在(2005年3月22日)の段階で2500にまで減ってきましたが、どうやら2000を切る程度でとどまりそうです。意外にこの合併の流れに反対した自治体が多かったのでしょう。
 つまり平成の大合併では、政府が合併させたがっていた小さい町でも、合併を選んだ町と選ばなかった町ができる事になります。合併によって大きくなった町と、合併を拒んで小さいままの町の2種類の自治体ができる事になります。

 政府としては、この結果は満足できないものかもしれません。しかし私は、もしかしたらこの結果はとても理想的な形でもあるのではないか、とも思うようになりました。 というのも、この事によって、合併を選んで大きくなった町と、合併を選ばずに小さいままの町とで、競争原理が発生するからです。

 市町村合併では、たいてい合併賛成・反対双方の主張がぶつかり合い、それぞれが自分の主張にあった合併によるメリットとデメリット、単独で自立した場合のメリットとデメリットを提示します。
 合併が成立した場合は、合併を推進した人々達は、合併によるメリットを活かした政策と、合併によるデメリットを感じさせない政策を実行しなければなりません。これは単独自立を選んだ場合も全く同じです。小さい町ならではのメリットを活かし、小さい町であるデメリットを感じさせない政策を実行しなければならなくなります。

 そしてこの現象は、合併を選んだ町と、単独を選んだ町が、隣近所で混在している場合には最も強く現れるはずです。
『なんか、合併しなかった小さい町の方が楽しそうで活力があるな。』
『やっぱり、小さな町のままでは行政サービスは大きな町にはかなわないな。』
『合併したら、うちの町にゴミの処分場ができた!』
町の住民は、隣近所の町の変化や様子を肌で感じながら、率直な感想を抱きます。町は、この率直な感想に応えなければならないのです。

 皆が皆、同じ流れに従うと、比較対照ができません。
しかし、正反対の道を選んだ者どうしが混在して競争原理が生まれると、双方が刺激しあい、緊張感を保ち、活性化しあうのです。

 私は、藤野町は合併しないで単独で存在した方が、その価値を活かしやすいと考えている一人です。しかし、仮に私の願望どうりに、めでたく単独自立の方針が決まったとしても、今回の合併騒動で町が翻弄された経験は、とても町にとってプラスになったと考えるでしょう。
 仮に今まで通り藤野町が単独を継続するとしても、今までと同じ町政は、もはや許されません。合併推進派の住民は、絶えず
『合併したあの町は、こんなに行政サービスが良くなった。』
とか、町に対して苦情を言うはずですし、単独賛成派の住民はそんな批判に応えて、小さな町ならではのやり方で、行政サービスの向上に力を貸すでしょう。明らかに、町は活性化の方向に向かうのです。

 同様の事が、市町村単位でも起きて欲しいと思います。藤野町は、全国的に進められた市町村合併の流れからは異質な「ピラニア」として存在感を発揮し、小さな町の良さをどんどん世間に知らしめて、合併した町を「安心させない」で互いに活性化しあうような存在になってくれれば・・・。

 それは、藤野町の住民だけでなく、藤野町周辺の合併に応じた町の住民にも利益になるのです。

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