Zaregoto... −戯れ言−

 

1.全塗装のススメ

全塗装。ひらたく言ってしまえば、車の塗装を塗り替えるだけのこと・・・ではある。
多くの人が興味を持ちながら、15万とも50万とも言われるその費用と数多の失敗談が二の足を踏ませる、罪作り?なモディファイ。 それでも、

全塗装にはロマンがある。

オーディオに詳しい、某 K氏のこの言葉が全てを物語っていると言えるかもしれない。

実際の所、全塗装にはいくらかかるのか? その時に何を得て、何を失うのか? 失敗しないためには何が必要なのか? 実際にビートを全塗装した当時の経験を、小耳に挟んだ業者さんの本音を交えて紹介してみたい。 あなたが全塗装に踏み切る時に、何かの参考になれば幸いに思う。

 

2.全塗装のメリット・デメリット

人は何故全塗装をするのだろうか?

その最たる理由はやはりイメージチェンジだろう。 長く見慣れてしまったボディカラーを変え新鮮な気分で愛車に向き合うため、あるいは微妙に納得のいっていなかったボディカラーをより自分の持つイメージに近づけるため、といったところではないだろうか。 実際にこの点での全塗装の効果は驚くほどに高い。 塗り替えた自車は、新たな魅力を持ちまるで別の車のようにオーナーを惹き付けるようになる。 自分の場合、全塗装前の状態が酷かったこともあって塗り替えた直後には自分の車を別の車のように誇らしく思えるようになった。 長く維持していこうというモチベーションが心の底から湧き上がってくるのも感じられた。 まさに、全塗装最大のメリットはそのイメージチェンジによる、驚きにも似た感動にあると言えるだろう。

また、それに付随するいくつかのメリットもある。 新車同然の車はともかくとして、塗装面の経年劣化は自動車にとって避けられない宿命でもある。 しかも自動車の塗装は、表面を飾るだけが目的ではなくその内側のフレームや鉄板を風雨から防護する壁の役割も果たしているわけだから、塗装面の劣化はいずれ自動車全体の劣化へと繋がっていくのだ。 きっちりとした全塗装を行うことにより塗装面は一新され、その自動車にとって何よりの延命措置となる。 また、全塗装前の処理をどこまでやるか、という点に依存するが、きっちりへこみや擦り傷を埋めてやることで少なくとも塗装の施された面については新車同然の輝きを取り戻すはずだ。

ではデメリットはどうだろう。 よく聞く話では、全塗装した車は、全塗装前と比べると中古車としての査定額が下がってしまうという。 実際に査定してもらったわけではないのではっきりとは言えないが、これは、大きな事故を起こして修理した車が全塗装されて復活することが多いためではないだろうか。 きちんとした業者が作業した場合には、全塗装前の塗装が全塗装後より綺麗であるということはあり得ないことなのだから査定金額が大幅に下がるというようなことは考えにくいと思うのだが…。

結局イメージ通りのカラーに仕上がった時、全塗装のデメリットというのは皆無に等しいと思う。 逆に言えば、問題なのはイメージ通りに仕上がらなかった時で、かかった費用や期間を考えるとその衝撃は言葉で説明できないほどだろう。 つまり、「失敗した時のリスクの大きさ」 こそが全塗装の最大のデメリットであると考えるべきだ。

 

3.業者を選ぼう!

車の塗装はある種の職人芸である。 経験によって磨かれた技術と勘がモノを言う世界であり、塗装用ブースや専用の塗料など整えられた環境も重要だろう。 ホイールや補修したバンパーの塗装程度なら Do it yourself. もオツなものだと思うが、全塗装となると少々勝手が違う。 費用面での差が大きいとはいっても出来映えにはその価格差以上の差が生じることになりかねない。 かといって、プロならどこでもいいというわけにもいかないだろう。 腕の差がもろに出る仕事なので、信頼できる業者を捜すことが失敗しない全塗装への第一歩と言えるだろう。

まず、そのショップが全塗装した車を見せてもらうといい。 デモカーでも、お客さんの車でもいい。 全体のバランスや艶、違和感の有無を確認する。 この段階ですでになにか気になる点があったらその店は避けた方が無難だろう。 次に現在決まっている範囲で構わないから基本料金の見積もりをしてもらおう。 車種、希望する色の種類(メタリック or パール  or ソリッド)、ボンネット裏など見えないところをどうするか、最初はそのあたりからだろうか。 その見積もりを元に、気になることを何でも質問してみよう。 下地処理は? 納期は? といった当然の質問はもちろん、過去に行った全塗装の経験について聞いてみたりすると面白い。 一番苦労した色は? 変わった色は? 正直やりたくない色は? etc. etc.。

というのは、全塗装を行う際にはいろいろ綿密な打ち合わせを必要とするので思ったことをきっちり言える環境が欲しいからだ。 腕のいい職人さんであっても、「客は黙って俺にまかしときゃいいんだ!」 みたいな人では何かと不都合が生じる恐れがある。 また、経験が不足していることが一目で見て取れるような業者もちょっとお断りしたい。 要は、「自分の車を預ける上で信頼できる人かどうか?」 を見極めるべく、可能な限り会話をして欲しいということだ。 全塗装の失敗談は、依頼に余程の無理があった場合はともかく、ほとんどは職人さんとの意思疎通が不十分だったことが原因だと思われる。 こちらの要望は きっちり・はっきり 伝え、その上で専門家の意見もしっかりと聞く。 これを、実際に作業に入る前に十分に繰り返しておくことが大切だ。

さて、 どうしても自分の手で、というチャレンジ精神あふれる人や、予算はないけど何が何でも全塗装をやりたい!という人のために?、最近ではレンタル・ブースといったものが普及し始めているようだ (例えば ここ 。ボリュームは控えめで…)。 塗装用のブースを貸し出してくれ、場合によってはプロ用の機材もあわせてレンタルが可能で本職の職人さんの手ほどきも受けられるとのこと。 そうしたブースの利用を検討してみるのも一興か。

 

4.前処理 (準備)

実際に全塗装の作業に入る前に、旧塗装面の下地処理を行う必要がある。 表面の脱脂のみの場合もあれば、えくぼやへこみの叩き出し・パテ埋め等の板金作業に至る場合もある。 ドアやボンネット、バンパーなどは外してから塗装してくれるところもあれば、付けたまま塗装するところもある。 これらは依頼した業者さんによって (あるいは料金プランによって) まちまちなので事前に要確認といったところか。 ひとえに全塗装といっても、「どこまでやるか」 によって手間も値段も大きく変化することになるわけで、見積もりで高いなと思っていても、実際の作業内容によっては納得の行くコスト・パフォーマンスであることも少なくないだろう。

参考までに、うちのビートがどうだったかというと・・・

バンパーやヘッドライトなどの樹脂パーツ、内張、幌など塗装の邪魔になりそうなものは、ほぼ外されたマイ・ビート。
左右のフェンダーは状態が酷かったので塗装の剥離処理の後に板金。 滑らかに面出しされたあと、サーフェーサーが吹かれた状態。

トランクも角を中心に綺麗になっている。

右ドアも元塗装の状態の酷いところに剥離処理を行ってもらった。

と、このような状態であった。

たいていの全塗装プランでは、板金や剥離処理は別料金となっている。 新車同然の状態を保っている車体であれば、これらの処理は必要ないからだ。 ちょっとしたへこみなど全塗装前はたいして気にならない範囲と思うような箇所であっても、塗装の色質が変わると目立つようになったりすることがある。 せっかくの機会。たとえ別料金であっても、ちょっとでも気になった箇所は直しておくにこしたことは無いだろう。 ちなみにここまでの処理にかかった費用は以下の通りである。

右ドア・左右リアフェンダー 剥離 : ¥15,000

右リアフェンダー 板金 : ¥12,000

左リアフェンダー 板金 : ¥ 4,000

 

5.調色 (色決め)

通常、業者に全塗装を委託する際には、「何色に塗るか」を決めてから車両を預けることになるだろう。 だが、全塗装後のトラブルで一番ショックなのは、希望していた色に仕上がっていなかった時のはず。 それだけに、色決め は慎重に行う必要があり、依頼者がイメージしている希望の色を、いかにして業者に伝えるか?そこにかかっていると言っても良い。

とにかく、まず覚悟しておかなければいけないことは、「具体性のないイメージは他人にはまず伝わらない」 ということだ。 本人にとっては明確なイメージのように思えても、象徴的なものはほぼ100%伝わらないと考えた方がよい。 “明け方の空のような紫” とか “トマトというよりイチゴのような赤” では抽象的すぎて、業者がイメージする色と依頼者がイメージする色がぴたりと一致する可能性はほぼゼロに等しい。 また、一見具体的なようで実際には・・・ということもある。 実際に合った話に 「スペースシャトルの色に塗ってくれ」 と依頼したお客さんがいたらしい。 スペースシャトルは実体のある具体的な存在であるけれど、その色がどういう色か説明できる人はどのくらいいるだろうか? 実物を見てみたいと思っても簡単に見ることもできはしない。 もしかすると、 そのお客さんの頭の中には確固たる「スペースシャトルの色」が存在するのかも知れないが、それは業者さんには伝わらないのだ。



単なる灰色に見える・・・

では具体性を持たせるにはどうすればいいだろうか? もっとも手っ取り早いのは、実在する車のボディカラーを指定する方法。 メーカーが設定したいわゆる“純正色”には対応するカラーコードが存在し、業者さんはこのカラーコードを元に、色見本を見ることもできるし塗料の調合レシピを知ることもできるのだ。 つまりカラーコードがわかればその色 (の塗料) が(理論上は)再現可能であるということになる。 そこで、自分なりの理想の色がイメージできたら、その色に塗装された市販車を探し、そのカラーコードを調べればいい。 この方法が最も確実である。

カラーコードは通常、エンジンルーム内のコーションプレートに記載されている (参照)。 とは言っても友人の車でもないとなかなかエンジンルームは覗かせてもらえない。 現行車種ならインターネットでも調べることが可能だが、製造中止になっていたらそれも難しい。 そういう場合は、ディーラーに行ってみよう。 「中古車を買うことになったが、補修用にスプレーを買いたいのでカラーコードを教えて欲しい」 と言えば、調べてくれるだろう。 ただし、マイナーチェンジで異なる色を採用していることも多いし、白や銀に至っては同一年式でも複数の種類の色を用意していたりするから要注意だ。 親切なディーラーなら小さな板に塗装した色見本を見せてくれるかもしれない。

さて、どうしても自分のイメージにぴったりの純正色が見つからないという場合はどうするか。 それでも似たイメージの純正色があるならそれを元に話を進めていくこともできる。 「S15シルビアのシルバーとS2000のシルバーの中間の色」 とか 「少しだけピンクがかったアルファロメオの赤」 とか言うだけで業者さんもずっとイメージしやすくなるはずだ。 ベースとなる色を元に、“赤を強くして” とか “もう少し青く” とか細かく注文することで目的の色に近づけていけば理想の色を作り出せるかも知れない。

おおまかな色が調色できたら、これを小さめの鉄板に吹き付けてもらい確認することになるだろう。 OK!ということになったらその色で、使用する分の塗料を一気に作ってしまうのがセオリーらしい。 全塗装が終わった後で、頼んでおいた色と違うというクレームになるのを防ぐために、足りなくなった分を後から調合するのは避けるというわけだ。 うちのビートの場合、フロントフェンダーに実際に塗装して見せてくれたので非常に分かり易かった。

ペイントされたフェンダー。

写真で見るとなんと言うことはないのだが、実物を見たときはかなりインパクトがあった。

職人さんも見たことのない色だったらしく、このパーツにペイントしたあとも 「この色でいいのか不安だった」 らしい(笑)

こんな感じで実車にあてがってやると、全体像を思い浮かべるのに役立つ。想像力をフル回転させよう。

デジカメではなかなかきれいに写らないのだが、実際の色は上の画像の方に近い。

 

6.塗装の種類はご存じ?

少々話が前後するが、ちょっと塗装の種類について書いておこう。

車の塗装は大きく分けると3種類に分けることができる。

1.単一の顔料を使用する ソリッド

2.顔料にアルミニウムの小片を混入させる メタリック

3.顔料に雲母片を混入させる パール (マイカ)

ただし、最近はアルミ片と雲母片を同時に混ぜたボディカラーも数多く、メタリックとパールの境界線はあいまいになってきているという。 メタリックとパールはこの混入された小片が光を乱反射するので、キラキラした光沢が得られる。 特にパールは、名前が示すとおり真珠のような(半)透明感のある光沢が特徴。 ソリッドはどんなに磨いてもピカピカやツヤツヤにはなってもキラキラにはならないというわけだ。 一般にどこで全塗装を頼んだ場合でも、工賃はメタリックやパールが高く、ソリッドは安い。 これには色々な理由がある。

まず、ペイントする顔料自体の価格に差がある。 それから、メタリックとパールは、内包する小片を保護するために、クリアー層を吹き付けて仕上げてやる必要があるため、単純に作業時間が倍になる。 おまけに、メタリックやパールでは混入した小片がきれいに拡散するように、濃すぎず薄すぎず均一に塗膜を吹き付けなくてはならない。 腕の悪い職人さんだと塗装にムラができて悲惨な状態になることさえあるとか。 つまり、原材料費、作業工程、難易度 の面からメタリックやパールはお高くなっているというわけだ。

さらに、ユーザーの好みが多様化したせいか、あるいはメーカーが何とかして差別化を図ろうとするからか、最近の塗装は技術的に凝ったものが増えてきているようだ。 例えば3コート・パール。 これは、ベース顔料と雲母片を混ぜないで分けて塗る手法で、つまり ベース・カラー → 雲母片を混ぜたクリアー → クリアー の順に3回ペイントしなければならない。 パール塗装の特徴がより顕著に見られるようになるが、当然その分だけ高額になる。 日本ペイントのマジョーラ塗装などは顔料だけで5層構造というから、何回ペイントしていくらかかるのか考えるだけで気が遠くなってくる。 ソリッドでも最近は発色をよくするためクリアーを塗る2コートのものが増えてきている。 シトロエンは2コートのソリッド・カラーを、ヴェルニ塗装と呼んで区別しているくらいだ。 うちのビートの LLイエロー(仮称?) も実は2コート・ソリッド で、ベースカラーの上に、ベースカラーを5%混入させたクリアーを塗って仕上げるという、ちょっと特殊な塗装手法となっている。

また、これは余談だが、凝った塗装のものほど修理の際に手間とお金がかかることも覚えておいた方がよいだろう。 メタリックやパールは見る角度によって色合いが異なるため、現色あわせの塗料が作りにくいそうだ。 また、ドアやボンネットの一部に傷が付いた場合でも、そのパーツ全面を塗らないと境界がわかってしまうという欠点がある(ソリッドなら部分塗りが可能)。 トヨタのBbという車に特別仕様でマジョーラ塗装のモデルがあるが、バンパーの隅やフェンダーを電信柱でちょっとこすっただけで通常の3倍以上の金額を請求されることになるだろう。 売るときにそこまで説明してから売っているのだろうか?

 

7.あとは待つだけ

かくして、業者が決まり、ボディカラーが決まり、細かい打ち合わせが済んだなら、職人さんに車を託し、7割の期待と3割の不安 (個人差あり) に胸を躍らせながら月日が過ぎるのを待つだけとなる。 期待通りの (時に期待以上の) 出来であったなら、かかった費用が安く思えるくらいの満足感が得られるはずだ。 運悪く、思ったような色に仕上がらなかった時も、業者を責めてはいけない。 業者の腕 (あるいは質) を見抜けなかった、そして自らのイメージを明確に伝えることのできなかった自分自身の責任であると甘んじて受け入れるべきだろう・・・。

幸いなことに(?)、全塗装は何度でもチャレンジが可能だ。 もちろん決して安くない費用がかかるから、実際にはほいほいとやり直せるわけではない。 それでも、サイドシルへのウレタン充填や、エンジンのボアアップのように、元へ戻すことが完全に不可能なモディファイではないのだ。 それを救いと取るか悪魔の囁きと取るかは各々の判断にまかせるとして、最後にうちのビートにかかった全塗装費用を公開しておこう。

ソリッド・カラー・オールペイント : ¥150,000

特別カラー差額 : +¥30,000

リアスポイラー・ペイント : ¥5,000

ショートパーツ : ¥5,000

(フッ素加工 : ¥100,000)

以上である。

最後のフッ素加工はいわゆるフッ素コーティングのことで、傷が付きにくくし塗装を守り、艶を持続させてくれる。 この¥100,000 、はっきり言って予算外だったのだが急遽ローンを組んで費用を捻出した。 それだけの価値のある、と職人さんの絶対のお勧めだったのだ。 せっかくの全塗装、その美しさをできるだけ長持ちさせたいという思いから、ちょっと無理をしたが、値段なりの価値があったかどうかはこれから5年、10年と時を経て明らかになることだろう。

結局、全塗装に関して上で記述した板金費用も併せて、合計¥321,000、消費税5%を加えて¥337,050 となった。

はっきり言って、ビートがもう一台買えるくらいの金額であることは重々承知の上で、それでも値段以上の価値があったと、僕自身は断言したい。

あなたにとってどうであるかは ・・・さすがに 判断できるものではないのだけれど。