更新: 2001/07/03 (ver 1.1) [←|↑|→
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項目 | 5段階評価 |
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制作サークル | TYPE-MOON さん |
価格 | 2500円 (他関連商品多数) |
シナリオ | ☆☆☆☆☆☆ |
グラフィック | ☆☆☆ |
音楽 | ☆☆ |
システム | ☆☆☆ |
ゲーム性 | ☆☆☆ |
個人的評価 | ★★★★★ |
万人お勧め度 | ★★★★ |
この作品、シナリオ的にはバケモノという表現が一番適当かと思います(^^; エフェクト無し、メッセージ早送りでも1シナリオ1時間かかる文章量。 曖昧性や自己矛盾性を持たない、その世界観の中で完成されたストーリー。 音楽やCGは確かにプロには敵っていないかもしれないけど、 シナリオという1点に置いて、私が触れた中では、プロの作品を含めても 過去最高のADVでした。元ネタが無くても話題になる理由がよく分かります...
選択肢を間違えてバッドエンドに入ったとしても、 どこで間違えたかを教えてくれるのが親切です。 普通にプレイすると1シナリオ6〜8時間かかるのも、 シナリオの抑揚も重なって、苦になく進めます。 メッセージスキップや回想機能も便利。 ところで18禁シーンは... 私的にはあまりに恥ずかしすぎでした(^^;;
ヒロインには口癖や食べ物の好みと言った強い個性は無いけれど、 行動に惹かれていきます。一人一人にエンディング2つずつ。 Good Ending は甘いお菓子のように救われすぎているから、 True Ending の方が私は好きです(^^; 全体と、特に気に入った2本のシナリオをネタバレしない程度に紹介します。 興味があったら買ってみるといいかも。まず損はしないと思います。
主人公「遠野志貴」は子供の頃の致死的な傷から回復した後遺症で、落書きのような 「モノの壊れやすい線」が見えるようになり、その能力を抑制しながら生活している。 8年ぶりに実家に戻り新たな生活が始まるが、時を同じくして猟奇殺人事件が多発、 その様子はまるで「吸血鬼」の仕業。志貴はこの事件の中心部に巻き込まれる事となる...
「私を殺した責任、とってもらうからね」という印象的な言葉から始まるストーリー。 弱った彼女を助けるため、「敵」に対して最も物質的に過酷な戦いに挑みます。 永遠の命について考えさせられます。主人公の能力が一番発揮されるお話でもあります。 人がどんどん死んでいく辛さも、彼女の無邪気さのお陰で多少救われている気がします。 月夜に活躍する吸血鬼、「月姫」とは彼女のことを指します。 エンディングは必見(シエルシナリオ後だと見当が付いて面白くないかも(^^; )。 ところで、アルクェイドは2本の月の表側シナリオ以外では全く出現しません、 正ヒロインなのに出番が一番少ない気がします(汗。
いつも笑っている姉の琥珀と、いつも冷静な妹の翡翠。瞳の色でも見分けられます。 序盤の分かりやすい伏線から、外から見て主人公の馬鹿さを呪いました(^^; マリオネットは糸が切れるとどうなるのか、生きる目的について考えさせられます。 8年前のセピア色の思い出、主人公は本当に屋敷に戻ってくるべきだったのか、 月姫の隠された部分の統括を担い、偽りで塗り固められた世界の内側に立ち入ります。 全シナリオで活躍する二人、心の奥底を知ってしまうと... 精神的な辛さは最大級で、 私はその後他のシナリオ(特に秋葉シナリオ)が選べなくなりました。
この小さなアマチュアサークルの作った作品が、 プロの大手メーカーを押しのけて何故ここまで圧倒的な評価を得たかというと、 やはり質量共に群を抜くシナリオが大きいと思います。
大きなストーリーを描こうとすると、 初めに書いていた文章と後の文章で世界観に矛盾が起きやすくなるなど、 一貫性の取れたものを書くのはとても困難だと思います。 数人のシナリオに分岐する場合は、あるストーリーと別のストーリーの間では 設定が違っている(別の話をひとつのソフトとして売り出す)こともままあります。
が、月姫の場合は、作品よりもまず大規模な世界観ありきで、 その中でキャラクターを動かしているという感じなので、 そのような破綻はきたさず、 むしろ 5つのストーリーが全て絡み合うことで「月姫の世界」が完成しています。 これだけの整合性の取れた原稿用紙5000枚に及ぶテキストを一人で書いた 筆者 奈須きのこ さんは、凄いとしかいいようが無いです。
それだけ土台がしっかりしているからこそ、 全 150P もある設定資料本(月姫読本)が発行でき、 PLUS-DISK、お祭りディスクといった追加ディスクのシナリオも 作ることができるのでしょう。
この「月姫」の世界観・家系を用いた裏の世界として、 両儀 式 が活躍する小説、「空の境界」があります。 現在 PLUS-DISK を購入すると、前半だけは読めます(^^; 運良く本を入手できた場合、読んでみると世界観の補強になって良いかもしれません。
月姫に登場する 5人のヒロインは、皆、何か問題を抱えて生きています。 そして、この中で純粋無垢な女性はただ一人 アルクェイド・ブリュンスタッド だけ。 他の 4人は、皆主人公に対して何かの引け目を持ちながら、 秘密を隠しつつ生活を共にしています。
そして、この世界の中では、本来余り触れたくないような闇要素、 「悪・偽り・裏切り」であふれています。 主人公の敵役となっている人ではなく、 あるヒロインがそうだったりもします。 明要素と暗要素、その両方を受け入れて進んでいくストーリー。 そして9つのエンディングへ。
よくゲーム内に現れる、完全に善人の女性、 この世の中にいるはず無いし、親近感も沸かない。 月姫は、こんな「理想」は相手にせず、リアリティーを追求しています。
月姫は、ヒロイン達の物語に主人公が つき合う ものだとただ言うことはできません。 どのシナリオでも、主人公が中心となり、「自分の過去に決着を付ける」物語です。 その媒体、誰と共に歩むかとして5通りの経路がありますが、本質部分は変わりません。
「志貴」は様々な難題に向かって、果敢に立ち向かっていきます。 別の流れに流されるのでなく、自分で切り開く。 それが、プレイヤーの分身「志貴」のかっこよさ・魅力であり、 その体験を共有できるからこそ、 各シナリオをクリアした後の達成感がより強く得られるのでしょう。
ストーリーの分析とは違いますけど、この数百枚の絵をひとりで塗った 武内さんの作業量も凄いと思います。 塗りが簡素で苦手という人もいる(^^; けど、それは酷すぎ... ともかく、5人という少人数の中、 それぞれがフルにできる作業をこなしてきたからできた結果が「月姫」でしょう。
これをプレイすると、アマチュア作品に対する価値観が変わる事になるかもしれません(^^; 色々な意味でアマチュア離れした、とんでもない作品でした。