THE END

 

僚が乱暴にドアを開けた。

明らかに不機嫌で、それは店に入ってくる前から気づいていた。

「静かに開けろ、ドアが壊れる」

そんな店主の声も聞こえないかのように、暗く光る目だけを向ける。

最近見ていない目で、思わず店主も息を呑んだ。

店主と一緒に店にいた少年は僚が出す気配に声も出ないようだった。

「…どうした」

「どうもこうもあるかっ」

そういうと僚は肩に担いでいた白いコートを店主に投げつける。

コートからは血の匂いが鮮明に感じる。

店主も少年も目をしかめた。

「なんだ…これは」

僚は乱暴にカウンター席につくと、舌打ちをする。

「あのバカ、死にやがった」

タバコを口にくわえる。

「あのバカ?」

「耄碌すんなよ、タコ。そのコートで分かるだろうが」

いらだたしげに火を付ける。

店主は深く息を吐いた。

「…どこで」

僚はゆっくりとタバコの煙を吐き出した。

「………アイツの墓だ」

「…」

「あっ」

少年が声を上げる。

僚と店主が少年を見る。

「それって、あ…金髪の…」

「どこで見た」

僚が少年を睨むように見る。

「こ、ここで…さっき、来たんです」

「なんか言っていたのか」

少年は口をつぐむ。

「言えよ、隠してても良いことねぇぞ」

少年は叱られた子供のように小さい声で話し出す。


「カオリは俺がもらう」って…


僚はそれを聞いた瞬間、カウンターを力任せに叩いて立ち上がった。

「もう、やってられねぇ、茶番はもう終わりだ」

「僚?」

「アイツの墓はバカの血で染まってたんだぜ?何が哀しくてアイツを先に
 逝かせなくちゃいけないんだ。どうしてアイツが先にやる」

「冴羽さん…」


「彼女はどうする気だ…」

店主は冷静に問うた。

それには少し笑みを浮かべたようだった。

「死にゃあしないだろうよ?」

「そんなっ」

「元々一人で生きてきてるんだ」

「親になるんじゃなかったのか?」

耐えきれず、僚は大声で笑った。

「だから、それが茶番だっていってんだよ。もう飽きた。良いオヤジなんて
 俺のキャラのどこ探してももうでてこねぇよ、おしまい」

そしてふとまじめな顔に戻ると、店主と少年に言った。

「後は頼むぜ」

そして店主の手にあった血塗れの白いコートを羽織って店をでていった。

それはいつも通りの軽い足取りだった。

店主と少年はその後ろ姿をただ見ている。

しかし、その胸中に在る想いは…多分一緒だろうと、思った。


+++


僚は真っ暗な中、香の眠る場所にきていた。

跪いて、少し残った、こびりついた男の血を指で拭う。

ジーンズのポケットからタバコ取り出す。
丁度最後の一本だった。

それを、ゆっくりと吸った。


僚はタバコを吸いながら、ジーンズの他のポケットから白銀に光る
指輪をとりだした。

タバコの火が指輪に映り、ゆらりと煌めく。


そしてゆっくりそれを見つめる。

それは香の左手の薬指にはめられた指輪と同じデザインだ。


「どれでも同じだろう?」

そうからかった僚に、香はふくれ面を見せながらも何件を探して決めた指輪。

結局、誓いを縛り付ける前に用なしになっちまった。


僚はそれを初めて自分の左手の薬指にはめる。

「遅いっ。なんてどつかれたりな」

愉しげにつぶやくと、黒蛇をとりだしてこめかみに充てた。

 

+++


喫茶店のドアが開く。

少女が走り、はいってきた。

「ねぇ、リョ…パ………」

少女は全て言い終える前に表情を固くし、そのまま左胸を押さえて崩れ落ちた。

店主と少年は、何が起こったかを悟った。

僚が居なくなれば、心臓ももう動かない…


 

END