ダイヤモンド


昼食を終えて、日課のナンパに行くにはまだ早いかとソファの上でグラビア雑誌を
眺めつつ、まったりとしていた。
香はと言えば、俺の傍らに座り込みテレビのワイドショーを見ている。

なんともまぁ穏やかな日だこと。

「わぁ、すごーーい。見てみて僚?」

テレビに視線を向けていた香が俺の読んでいた雑誌をパタパタと叩く。

面倒くさげに画面をのぞきこめば、黒人モデルがインタビューに答えている。
そしてそのモデルの胸元には、その抜群のスタイルが霞むほど大きなダイヤモンドの
ネックレスが光輝き己を主張していた。

「すっごいダイヤモンドねー。15カラット以上だってー。一体いくらするんだろう」

売り物じゃねーんだろ?

「そうだよね…買える人なんていないだろうし。でも素敵だなー、さすが宝石の王様」

盗んできてやろうか?

「…な、何言ってるのよ、バカ。キャッツアイじゃあるまいし。それに欲しいとかとは別の話だもん」

ふーん…でも憧れる?

「こんな大きいのは持ってても緊張してつけられないよ。お手ごろなのは1つくらい持ってても
いいかなーって思うけど…」

お手ごろなダイヤねぇ…

「もう、うるさいな。ちょっと言ってみただけでしょ、ごめんなさいねっ」

拗ねたらしい…
そういうとコーヒーカップを手に持ち、
香は俺に背を向けてテレビを再び眺めはじめた。
そんな香の後姿をなんとなく眺めていた。
背を向けたまま、香が呟いた。

なんだ?

「だから…。ダイヤモンドって一番硬い物質なんでしょ?」

香が再び振り向いて聞いてきた。

そうだろうな、ダイヤモンドを削るのにはダイヤモンド使うっていうんだから。

「…一番硬いってことは…」

香がふと目を伏せ、言いよどんだ。

なんだ?

「銃弾も通さないのかな…」

小さく香が呟く。

「だったら…もっともっと大きなダイヤを探して…僚の胸にいつも置いておきたい…」


最後のほうは本当に本当に小さな声で言った。
一瞬の静寂ののち、俺は香を抱き寄せて、彼女の頭を強くつかんで俺の胸に押し当てた。
香は抵抗することなく、俺に身体を預けた。

「それで僚の命が護れるなら…いくら掛かったって…いいよ…」

黙れよ、バカが。


+++           


香の誕生日。
昼間、キャッツで軽く女性陣に祝ってもらったらしい。
夕食後、リビングで一通り皆からのプレゼントを俺に披露する。
無邪気に楽しんでいる香の目の前に、深紅の宝石箱を差し出した。

「え?」

目を丸くして、本気で驚いている。

これくらい俺だって用意してるってんだよ。

そのままゆっくりとそのケースを開けた。

     

そこに並んでいるのは片方で2カラット以上そしてカラーもクオリティーもカットも
最上級のダイヤのピアス。しかも発信機付きの特注品だ。

「あ…」

お手ごろのダイヤは持ってたっていいんだろう?

「ありがとう…嬉しい」

誕生日だしな…試しにつけてみるか?

香の腕を掴んで抱き寄せた。
くるりと身体を回し、香の背後に座る。
ふと髪をかきあげると、香が身じろぎをした。

おいおい、じっとしてないと付けられんだろう。

「だって…くすぐったいんだもん」

香が動かない様に、腕を回して囲い込んだ。
ほい、完了。

「わー…すっごい綺麗。ありがとう、僚…」

どういたしまして。
そのまま香の頭に顔をうずめてキスをした。

「りょ…」

いいだろ、これくらいのご褒美もらったって。
すると照れた顔をみせながら、香は身体をねじって俺の首に手を伸ばして
しがみついてきた。

…お誘いか?

「イジワル…」

そう笑った香の唇に俺の唇も近づけた。
そしてゆっくりと互いの温もりを味わう。


でっかいダイヤモンドなんて必要ねぇ。
お前が居れば、俺は救われる。

テレビに映ってたあのダイヤモンドより貴重かって?

当たり前のこと聞くんじゃねーよ。
…んなことコイツには言えねぇけどな。

僚はもう一度、確かめるように香を抱きしめた。


END

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