白いカーネーションの花

 

まだ5月だというのに、やけに暑い。
もうこの国には四季というモノが無くなってしまったのだろうか。
そういえば去年の夏は寒かった。
どこか狂っている。…そう思うのは俺だからなのだろうか…?

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この花が一番良く売れる日は2,3日前にすぎた。
その前まで赤やピンク、黄色や紅白のなんてヤツがずらりと店頭に並んでいた。

彼が店頭でその花を買ったのは気まぐれではなかった。
色違いの花が次々と買われていく店頭で、唯一その日の最後まで花屋の店先を飾っていたものだった。
売れ残ったそれに同情したわけではない。
同じ花なのに、この一色だけはポツリポツリとしか売れていかなかった。
理由はないわけじゃない。

まるで初めから店頭に並んでないかのように…見捨てられている、その花。
だけれど彼は、その花しか、その色のその花しか、いらなかった。


その日、朝早くから街中の花屋に寄ってその花を買っていた。
駅中の小さなフラワーショップも、立ち売りの屋台の花屋も。
そしてあの場所に向かう、その途中にある花屋を見つけるたびに停車をしてそこにあるその花を全て買い上げた。

いくらも時間がかからず、小さな赤い車はその花で一杯になった。
ボンネットはもちろん、後部座席にもそして、助手席までも。
もう置くところが無いだろうと思っても、彼は花屋を見つけるとその花を買い続けた。
やがてその花の香りが車中を、そして彼を包んだ。

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持ちきれないほどのその花束を彼は何回かに分けてそこに運んだ。

そして、それほど大量の花を彼女の眠る場所に敷き詰めた。
黙々と、いつもの彼からは想像も付かないように几帳面にその行為を続けた。
その場所が白く白く、まるで雪が降り積もったように真っ白に。
まるで元からそうなっていたかのように、全ての花をそこに飾った。

その花は強い陽の光を受けて、キラキラと光っている。
それを見て彼は少し口端を上げて笑った。
陽の光を浴びて光るそれはまるで彼女の笑顔を思い出す。
彼はその花束の中に自分の身を投げた。
その衝撃で花が跳ねて彼の前髪に引っかかった。
彼は前髪をかきあげ、その花を掴む。
その花をじっと見つめた後、その花弁に口付けをして、そのまま彼は目を瞑った。


白いその花に埋まって、僚は安心したように眠っている。
敷き詰められた花は風に散って舞い、その花びらが彼の頬を柔らかに撫でる。
まるで会話でもしているように、花びらはくるくると僚の周りをいったり来たりしていた。

果たして彼の想いは伝わっているのだろうか…

どのくらい会話していたのだろう。陽が落ち、空気が冷え込んだ。
花も光りとぬくもりを失い、違う、花になった。
彼はそれに気が付くと一つの花を胸ポケットに入れた。
そして、黒蛇を取り出すとタバコを咥えるかのように、ごく自然に心臓に銃口を充てる。

紅く咲いたカーネーションに隠れるように、白い花びらが見える。
白かった花弁がみるみると真っ赤に変化していく。
すべてが染まりきらないうちに、白も紅も闇に消えた。

END

mother's day 9-MAY
kaori.M(AH) deathday 12-MAY

白いカーネーションの花言葉《私の愛は生きている》
紅いカーネーションの花言葉《愛を信じる。あなたを熱愛する》
濃赤のカーネーションの花言葉《私の心に悲しみを…》

 

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