それぞれの想い ver.R yo

ーそんな台本じゃあ、子供だってだませやしないぞ!!ー

冴子が7回目のお見合いの相手を連れてきた。つうーか偶然あっちまったんだけどよ。
そいつは北尾といって警視庁の刑事だったんだが、なんとも…まぁ、因縁な感じだ。
北尾は俺を捕らえる為に、わざわざ俺たちに近づいてきた切れ者の刑事だった。
香は北尾と出かけた先で爆破事件に遭遇し、その犯人を追いかけて…捕らえられた。
俺のーシティーハンターのパートナーとして。
北尾は香を俺を…どうするつもりだったのだろうか…

日中は暖かくなったとはいえ、さすがに海に落ちたら、風邪をひくだろう。
しかも、その後着替えも乾かしもせず、暖房もない広い倉庫にいたのだから。
案の定、香は隣でくしゅん、くしゅんと咳をしている。
上着は脱いで、いつも置いてあるバスタオルで軽く水気をとってから、そのタオルにくるまって助手席でおとなしくしている。
車のヒーターを最大にしても体の芯から冷え切っているだろう。
早く家で休ませてやりたい。
そう思って、さらにクーパーのスピードを上げた。

「ねぇ、僚。北尾さんは?」

タオルを口に当てながら聞いてくる。顔は青白いが目尻が赤くなりだしている。
もう熱でてんじゃねぇのか?

「あぁ、冴子が病院に連れてってから送るってよ」
「そっか…腕も怪我してたし、あたしのせいで頭も打っちゃったから…くしゅ。大丈夫かな、北尾さん」
お前も人のことを心配している場合かよ。歯の根も合わずに震えてるくせに…
俺は後部座席に投げてあった自分のジャケットを運転しなかがら取り、香にかぶせる。
「りょ…?」
「かぶっとけ」
俺のジャケットを肩に掛け、袖をぎゅうと握りしめ、俯く。
香が小さな声で話だした。

「…あの、僚。ありがとう助けにきてくれて。ごめんね、面倒かけて。車も…ダメにしちゃったし」

面倒なんてかけられちゃいない。
車なんてどうでもいい。お前が生きていれば…
俺がのそばにいるから、お前は狙われるんだ。
俺のそばになんていたから、お前はテロリストなんか追うような気持ちをもっちまうんだ。
俺のせいで命の危険が増している。

「…ホント、どうしょうも無いよね、あたし。自分の事も守れないのに後先考えないで行動しちゃうから」

香の声に泣きがまじる。
自分が危険な目にあったのに、そのことは何の疑問ももたず、俺に迷惑をかけたといって泣く香。

俺を逮捕しようとする北尾が冴子に連れられてきた時に、お前らと同じように俺も驚いたんだ。
槇村に瓜二つだったよ、あいつは。
初めて会った時の槇村の目もあぁやって厳しい目をしていた。それを思い出した。

「……怪我、大したことなくて良かったな」
「うん」

被ったバスタオルで自分の顔をごしごしと香は拭く。
お前は重度のブラコンだったから、槇村を思い出して、それに気づくことも無く自然にあいつに
惹かれて行くんじゃねーかって、らしくもないバカな事を考えていた。
良いチャンスだとは思ってた。
香を表の世界に返すには、もう最後の機会だと。
北尾に連れられて表に帰るのも有りだなと思っていた。
あいつならお前を大切にするだろうから。
あいつはお前に惹かれていたから、でなかったら、あんなに頭の切れるあの男が、香と俺の関係を
調べる事も気づくことも無いなんてありえなかったからな。

テロリスト達を捕まえたあと、俺のシナリオにヤツが乗ってこなかったら、俺はあいつを殺っていただろう。槇村に似たあいつを…ためらいもなく。
正体がばれたヤツを生かしておく事は危険を増やすだけでろくな事にならないからな。

車がアパートの前に着いた。
俺は香より先に車から降り、助手席側のドアを開けた。
香は寒さでシートベルトもはずせないでいた。
素早く外してやり、寒さでぼうっとしている香をそっと、だけどそれとは感じさせないようにだき抱える。
「ちょ、僚。何…降ろしてよ」
「体こんだけ震えさせて何いってやがる。一人で歩けもしねぇだろ、今日くらい甘えとけ」
抵抗していた香の頭を自分の胸に軽く押しつける。

北尾も言っていた。あんな子供だましにもならない芝居にヤツが乗ったのは、やっぱり香のおかげだ。
中で何があったか知らないが、あいつの強い憎しみの力を変えたのはお前の力だよ。
また、お前に助けられたな。俺こそお前には感謝なんてしきれない。
お前のおかげで何度命拾いしたか分からない。

体にもたれかかる香の重さをかみしめながら、彼女の額に張り付いた髪の毛を優しく払う。
その時、俺にしがみついていた香の腕に力が入り、俺を抱きしめた。

「良かった…」

香のつぶやきが聞こえる。

その言葉が俺の胸に染み渡った。


終わり