それぞれの想い ver.kitao

 

ー北尾さんを殺したらあたしも舌をかんで死んでやるかんなっ!ー

シティーハンター「冴羽僚」を捕らえる為に新宿に来た。
ヤツを捕らえるためならば何でも利用するつもりだった。
あんな殺人鬼を捕らえることに私は何の躊躇もしない…つもりだった。

警視庁から転任して1ヶ月すぎた。
あそこにいたのは1ヶ月かそこらだったのに、記憶が強烈すぎるな…新天地の署内で一息つきながら…思った。

香さんの事を思い出すと自然に顔が緩んでしまう。
彼女の哀しい顔、怒った顔照れた顔…そして笑顔。
あの笑顔を守りたい、と思ってしまった。
今となっては私じゃその笑顔すら引き出せないということは分かっているが。

香さんと初(笑)デートしていたあのレストランで暗殺集団のテロに遭遇した。
香さんは奴らを追いかけようとする私の気持ちを読んだ訳ではない、彼女自身の考えでそいつらを捕らえようと、行動した。

そんな場面に驚きもせず、ほっておいてもいいのに、冷静に行動した彼女の思いに驚いた。
ただ冴羽に寄りかかっている女ではないのだな、と。

暗殺集団に気づかれ、殺されそうになった私の前になんの躊躇もなく盾になり、拳銃の前にでる、彼女。

どうしてだ、どうしてそんな行動ができるんだっ!!

私が殺された方があなたには都合がいいだろうに…
あんなヤツの所為であなたがあんな風に何度も命を狙われていただろうに…

捕らえられた倉庫の中でも一点の曇りもなく彼女は冴羽の助けを信じている。
そして、脱出を試みようとする私の事を説得する。
それは怪我をしている私が無理をしないようにと…
私の考えが変わらないと悟ると今度は一緒に脱出をしようと行動してくれる。
自分を捕らえたという、テロリストの事も私が殺さないでいたことにホッとする。
そんな彼女をみて、私もほっとする。

捕らえられた彼女を助けようと冴羽と野上刑事がきた。
私はその時点でもやはり、まだシティーハンターを捕らえようと考えていた。

冴羽の力は暗殺集団の奴らとは天と地との差があり、あっけなく奴らを倒し香さんを救出した。

私がいるからかもしれないが、冴羽は無駄に殺しはしなかった。

暗殺集団は分け隔てもなく、私たちも冴羽の事も殺ろうとしていた…この差は?

香は助けられるとすぐに冴羽に抱きついた。
でもそれは怖かったとか、寂しかったとか、そういう感情ではなくて。

自分自身があんなに危険な目にあったのに「あたしのせいで…ごめんなさい」と冴羽の胸で号泣した。

彼女は自分の行動のせいで冴羽が俺に捕まる…とそう思ったのだろう。
自分を逮捕しようとしている刑事の目の前でも彼女を助けるために…テロリストたちと
戦う事を否としなかった、冴羽。

そんな冴羽を彼女は信じてここまで来ていたのだろう…

彼女を巻き込まない為に「シティーハンター」だということを知らなかった事にして
彼女を手放そうとした、冴羽。

 

「毒をもって毒を制す」


私もあいつに毒されたのかもしれない。

しかし、あの時の行動に今も後悔はない。
彼女の笑顔を引き出して、守れるのはあいつだけだから。
あいつのそばで彼女は一番輝いているから。
「離れてる2人」なんて私の頭にはもう想像もできない。
冴羽でなかったならば、しつこく新宿に居着いて彼女のそばにいただろう。
彼女の笑顔を少しでも自分が引き出したかったなと思わなくもない。

「彼女が幸せであればいい」

想い出はしまって、仕事に入ろう。
彼女の笑顔を心で祈りながら、ジャケットに袖を通した。

 

終わり