ー今までおまえや冴子におれがシティーハンターだということを隠していてー
また僚に迷惑をかけてしまった…
香はアパートに戻ってきて、一番にシャワーを浴びた。
海水のべとべとした感触を早く落としたかった。
冷えた体を温めて…気を落ち着かせたかった…。
目を瞑ったまま、熱いお湯の感触にジッと体を任せていた。
北尾さんが僚をーシティーハンターを捕らえるつもりだということを知って、あたしは北尾さんに
それを止めてもらえないかと説得するつもりで食事に誘った。
あたしは上手く話を切り出せないまま、食事をしていたレストランで起こった爆破事件の犯人を
見失いたくなくて、考えなしに思わず北尾さんと一緒に追いかけていた。
あたしはちょっと前の事件で、僚にお前もシティーハンターだってようなことを言ってもらえて
浮かれていたのかもしれない。
だけど素人の域からは全然脱していなくて…その爆破犯人達には追跡がばれていた。
あっけなくそいつらに車ごと海に落とされてしまった。
海からははい上がったとたん、犯人たちが待ちかまえていて、捕まって…しかもその時に、
北尾さんにあたしがシティーハンターのパートナーだということがばれてしまった。
僚は冴子さんと二人であたしたちを助けにきてくれた。
北尾さんが自分を捕らえようとしている事を知っているのに…冴子さんだって北尾さんに捕まって
しまう危険があるのに一緒にきてくれた。
あたしが最初に北尾さんを説得なんてしようとおもわなかったらよかったのに…
爆破犯たちは僚と冴子さんの手によってあっけなく逮捕された。
あたしはその時もぼーっとして北尾さんに助けてもらって、北尾さんに受けなくていい怪我をさせてしまったし。
ほんと、役に立つことなんて何もできなかった。
結局、北尾さんを説得することもできなかった…
救出されたときに、僚はあたしと冴子さんを北尾さんから守ろうとした。
僚はあたしの前から消えようとした…それが本心かどうかは今となっては聞くことはできないけれど、
北尾さんがあのまま僚を逮捕する気だったら、きっと僚はそのままいなくなってしまったと思う。
そして、2度とあたしや冴子さんと会うことはなかった、形跡も残さず居なくなってしまったと思う。
北尾さんが「シティーハンターの正体を突き止められなかった」と、その一言を言ってくれて本当によかったって思った。
北尾さんがなんで僚を捕らえるという気持ちを変化させてくれたのかは分からないけど。
僚が北尾さんを助けたからかしら…?
シャワーを止めて、着替えて洗面所を出た。
僚はもう、寝てしまったかしら?それでも僚が居ることを確かめたくて、感じたくてリビングのドアを開ける。
リビングは登り掛けていた陽の光が射し込みはじめていて、一日の始まりを感じさせる。
暖かさを感じつつも僚が居ないのがひどく寂しかった。
あたしも部屋に戻って寝よう。
微かにドアの開く音がしてリビングのドアが開く。
「なんだ、もう出たのか…コーヒーブレイクにしようかと思ってたんだがな」
僚がコーヒーカップを手にしてリビングに入ってきた。
「こんなとこでぼーっとしてんなよ。風邪ひかないようにさっさと布団入って寝ろ」
「…うん、わかってる」
出ていこうとしたあたしに僚が手にしていたコーヒーカップを差し出した。
「え?」
「おまぁが出たから俺もさっさとシャワーを浴びてくんからよ」
飲めって小さな声が聞こえた。
きびすを返して出ていこうとする僚の背中にカップをもったまま飛びついた。
「僚…ありがとう」
僚は立ち止まってあたしの手のひらをそっと撫でてくれる。
暖かい…
「早く、寝ろよ。手ぇ冷え始めてんからな」
そのまま僚はあたしの手を外し、洗面所に行った。
僚の背中を見たまま、僚が渡してくれたカップに口を付けた…
それは暖かくて、甘かった…あなたはいつもブラックしか飲まないのにね?
なぜだか分からないけど、涙がでた。
P.S.そうそう北尾さんはそのあと転任の為アパートを出ていったの。
その時にあたしに「冴羽さんのパートナーだから」とか「入る余地がないから~」とか言ってたんだけど…
あれはなんだったのかしらね?
終わり