契約

 

さっき柄にも無く香に指輪なんぞをやってみた。しかもご丁寧にプロポーズ付きで。
‥‥‥「結婚しよーぜ。」ってなんだよ俺。やっべ、すっげー恥ずかしくなってきた。

別にわざわざ言う事では無かったのかもしれない。
俺は今までもずっと香を、ま、なんだ、「嫁」と思っていたし。
俺の全てにおいて香は最高のパートナーであり、なによりあいつは俺を選んでくれた。
俺のそばにずっといると、俺と一緒に生きていくと。
香が望まない限り俺はずっとあいつを離さないだろうし、香も離れてはいかないだろう。
たとえどれがどんな代償を伴い、どんな危険を孕んでいようとも。
幸せを求める事が俺にとってどんなに罪であろうとも。


けれど。ふと不安になってしまったのかもしれない。
想いは通じ合っているつもりでも、本当にそうなのか。


「言葉にしなくてもわかる」なんてよく聞く安っぽいドラマのようなセリフ。
何がわかると言うんだ?わかってるフリをして、都合の良いように解釈しているだけじゃないのか?
言葉にしなければ伝わらないモノもあるだろう。
人間は映画に出てくる宇宙人のようにテレパシーなんぞ持っていないのだから。

しっかし、俺が言うか?

『気持ちを言葉に出す』。まぎれも無くそれは俺が最も苦手とする部分で。
殊更香に対しては、だ。昔はただ意図的に、それを押し殺していた。
いつか、手放さなければならないと。いつでも、繋いだその手を離せるように。
しかし、俺の我慢の許容量には限界があったらしく。
いとも簡単に、何年もかたくなに自分に課してきた戒めを解き香を抱いたあの日でさえ、俺は溢れる想いをひたすら身体で表わしただけだった。


・・・・・俺ってばもしかして鬼畜?


ま、それはいいとして。
昔はともかく、今は世間で言う『一線を越えて』いるし、香への想いを押し殺す必要も無くなったわけだが。
相変わらず俺は何一つ言葉にすることが出来ない。

それはただ‥‥‥恥ずかしいからだっ!

しかしだな、隣に済むアメリカ人の代表たるジャーナリストのように四六時中「愛してる」を連発するのもどうかと思うんだが。
ありがたみが無くなっちまわないか?
嘘臭くならないのか?まあやつらは上手くやっているようだけど。
それに、言葉に出さなくても俺のこの身体での表現力は、名だたる文豪も真っ青になるほどだ!いや、本当に。


やっぱり男子たる者、そう軽々と軟弱な言葉を口に出してはいかんのだよ、
と俺の奥底に潜んでいる日本男児の魂を無理矢理引っ張ってきてみても、自分を納得させるには到底取るに足りなくて。


だから俺は、柄にもなく。
言葉と一緒に目に見えるモノを契約の形として、香に贈ったのだ。


契約。
それは実は体裁を整えただけの束縛。与えた指輪は、あいつを縛り付ける見えない鎖。
ごく軽く、ごく緩やかに、しかし確実に。時にはそれは、過酷であるかもしれない。
だがそれは俺にひどく安心をもたらすものだった。馬鹿みたいな独占欲となんて自己中心的な考え。
あいつは多分喜んでいると思う。
だが‥‥‥香は、俺が愛しているあの女は、もしもその気になったとすれば簡単に、するりと鎖から抜け出てしまうだろう。だから‥‥‥‥。

だから、こういうのも、悪くはあるまい。


ま、一回くらいは、キメとかなくちゃな。しかしどんな顔をして香に会えばいいんだか‥‥‥‥。
しかし俺は、つい何時間か前の自分の行動にかなり満足していて。
その夜は辺りが明るくなる頃までいつものバーで一人グラスを重ねた。
まるで祝杯をあげるように。

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次の日、いつものように香に叩き起こされて。
予想していたように香は俺の顔を見るなり真っ赤になったりそわそわと意味も無く動き回ったり、

‥‥‥‥‥‥‥といったことは全く無く!

本当にいつもと見事に何も変わらなくて、今までと寸分たがわない日常だと思ったのだけれど。
香の左手の薬指にはきっちりときらきら輝く指輪が修まっていて、なんだか安心して、でも大したことでは無かったのかと少し不満にも思った。


けれど。


その日の夜、ミックに誘われたのを断りきれなくて、
飲みに出かけようとする俺をいつものように玄関まで見送ってくれた香が俺に言った言葉。
いつもなら「あんまり、飲み過ぎるんじゃないわよ!」とか「早く帰ってきなさいよね」とかなんとか、そんな感じなんだが。


「いってらっしゃい、アナタ。」


まさにコケティッシュな笑みを浮かべてそう言った香は、唖然としている俺に少し背伸びをしてキスすると、少し勝ち誇ったような顔をした。
それからその日初めて恥ずかしそうに頬を染めた、俺の好きな顔を一瞬見せるとくるりと向きをかえて自分の部屋に走り去った。


まるで昨日の香のようにしばらく玄関で惚けていたのだが、
そのうち無性に嬉しくなって、馬鹿みたいに一人でにやけまくっていて。
ミックとの約束なんぞ、綺麗さっぱり頭から消滅させて、俺は香の部屋に向かった。


何をしに行ったかって?

もちろん、想いの丈をこの身体で伝える為、さ。


END

 

*これもれもさんから頂いたお話。
 このお話はれもさんちでアンケートかなにかのお礼に配布されていたもの
 (だと思う・そんなんばっか(汗))で、だから幻のお話なんですね〜。
 プロポーズの僚ver。僚も結構葛藤してたんだなーとか思いつつ。
 ちょっとやられ風味の僚がイイ味出してます。
 香ちゃんは相変わらずかわいいなぁv

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さてこの続きはあるのでしょうか…?(笑)
あるのです。多分、きっと
そしてそれはワタクシのお話じゃありませんの…
と、いうことで気になる方は

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