2人でクリスマス♪

12月ともなれば、街中はにぎやかだ。
街は競ってクリスマスイルミネーションを飾り立ててるし、週末にもなればイベントも盛り沢山で。
その上、何処からとも無くカップルが沸いてきて

ベタベタベタベタ

いちゃいちゃいちゃいちゃ

チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ

だぁ〜〜〜〜!!!ウゼーっつんだよっ!!!


自分がされる分は大歓迎だが、そーゆーのを傍で見てると非常に面白く無い。

それから逃げるようにして向かった先は、相変わらずワンパターンで。

馴染みのサ店に足を踏み入れると、カウンターの美女が俺を笑顔で出迎えてくれる。

「あら、冴羽さん?ツケ払いに来てくれたの?」

ガタン!!

「美樹ちゃ〜ん。いきなりそんな事言わなくてもー」
「だってそれ以外、別にあなたに用事無いし」
「・・・・・ホットコーヒー」
「じゃあ、ハイ」

しかし出てきたのはコーヒーカップじゃなくて、綺麗な指先。
その薬指に細いフレームのプラチナリングが光っていた。

だ・が。

「前払いね」

と、出てくる言葉が俺の寒い懐にグサグサと刺って痛ぇのなんのって。

「・・・へいへい」
ポケットに入っていた小銭を数枚その手に乗せると、
「OK。ちょっと待ってね」
なんて途端に上機嫌、だが完全営業スマイル。

彼女にとっては旦那が全てで、俺なんかは世間の男と一緒の扱い(それより低い)なんだろうな。

コポコポと俺専用のカップに褐色の液体が注がれるのを、なんとなく目で追う。


「そういえば冴羽さん。クリスマスのご予定は?」
「別に何も」
「香さん、何処か連れて行ってあげないの?」
「毎日、顔つき合わせているのに、今更何処に連れて行くってんだよ」
「この時期はまた特別じゃない?クリスマスこそ、香さんと一緒に居てあげれば?」
香さんはあなたの恋人、でしょ?と、美樹は強調した。

「前から言ってるけど俺はひとりの女に縛られるのは性に合わないんだよ。世界中の女の恋人で居たい訳」
「よく言うわ。・・・たったひとりの大切な女性さえ、しっかり掴まえて置けないくせに」
ふふん、と鼻で笑われた上、バッサリ斬られた。


あ、あの〜〜。
最近、かなり俺への風当たりがキツイんですが、気のせいでしょうか?


「女ですもの。それにあたしはいつでも香さんの味方よ?」


はぁ、さいですか。

ま、この前なんて凄かったしな。

「冴羽さん、香さんをいつまで待たせるつもり?」
「イイ歳してホント、情けない男よね」
「女を見ればホイホイ口説くのに、本命にはサッパリだってどういう事よ」
「逃げられちゃっても知らないんだからね」
「早くプロポーズしちゃいなさいよ」
「もしかして・・・・拒否されるのが怖いとか?」
「結構小心者よね」
「早くしないと香さん、誰かに横からすーっと持ってかれちゃうわよ?」
「香さんてロマンティックな雰囲気に流されやすいじゃない?電撃的に出会って恋に落ちる可能性だってあるんだからね」
「そーよね、マンネリの関係より新鮮な出会いがあるとフラフラ〜っとそっちに行っちゃうかもよね?女って」
「そんなになっても知らないわよぅ」
「あーあ、私も知〜らないっと」
「冴羽さん、かわいそー」

と、何時の間にか三人の間で俺はどうやら香に捨てられる設定になっているし・・・・。

女三人寄れば姦しいというが、麗香もかすみも元々、俺のこと好きだったんじゃねーの?
なのに最近は揃いも揃って香の味方で、優柔不断だの、男としてサイテーだのって俺を責める責める。


「で、冴羽さん」

「はい?」


「あなたは恋人があーゆー事になってても平気な人な訳?」

美樹が指差す先だが・・・・・もちろん気付いていたさ、当たり前だろ。

「カオリ!コレすげー俺、行きたいんだよなー。台場のイルミなんだけど、雰囲気良いんだよ〜」
「へぇー、こんなスポット出来てたのね。ツリーが可愛いわよね」
「だろだろ?」

情報雑誌か何かを指差しながら、テーブル席で金髪男と我がパートナーの姿。
相槌を打つ度に、香の肩や手にベタベタと触りやがる。
そして男のイヤラシイ視線が香の胸元から腰、ヒップに掛けて何度も往復してるし。
・・・しかし香のあの服、躰のライン強調しすぎでねーの?

ページを覗き込む彼女の真横に、鼻を伸ばして涎を垂らしかねない男のスケベ顔が迫る。

「昼も結構、カップルとか多いし、美味しいランチが出来る店も知ってるんだよ〜〜」
「へぇー。じゃ、かずえさんと一緒に食べてきて感想を聞かせてね」
「え?あ、あ〜いやぁ・・・カ・・カズエは仕事が忙しくってさー、中々時間取れないみたいで・・・」
「そうなの?残念よね」
「あ〜・・・・・・あっ、あ、そうだ!カオリ。今度一緒に行ってみないかい?」

鈍感娘に遠回しの言い方をしても伝わらないと思ったミックがそれならばと今度はストレートに口説く。

そういう切り替えが早い所は尊敬する。

「えぇ?あたしと?」
「そそ。ほら、カズエに喜んでもらいたいからさ、デートコースの下見を兼ねて、是非カオリにお願いしたいなぁ」

“愛しいカズエの為に必死なんです俺!”と言うオーラを出してガンガンにアピールしているが
あのスケベ顔に全然、説得力ねぇぞ。
時折ヤツは俺を試すような目でチラリと視線を寄越してくる。
その視線を頬にチクチクと感じながらも我関せず顔で、コーヒーカップの底に少し残っていた液体を飲み干した。

「冴羽さんも、あーゆー感じで軽く言ったらどう?」


そりゃ、アイツみたいな性格だったら、苦労はしないさ。

そうしている内に香は少しその気になってきたのか、真剣に聞き入り始めた。


「いいの?彼女、このままだったら口説かれちゃいそうだけど?」


でも彼の恋人も苦労が耐えないわよね、と、美樹も半ば呆れ顔。

「俺、帰るわ」


席を立つと、雑誌に落としていた香の視線がやっと俺の方に向けられた。

俺が店に入って来たのは知っていた筈なのに今やっと気付いたような顔しやがって。

ま、俺も人の事言えねぇけどな。

「あ、ちょっと撩?何処行くのよ」
「どこって、ウチに帰るんだよ。文句あるのか?」
「え、嘘!?あたしも帰るー」
そう言うと、彼女はパッと顔を輝かせて、席に置いてあったバッグを手に持った。

「え?・・・あ、あれ?・・カ、カオリちゃん?」
「ミックごめんね。じゃあ、またね♪」

男の方に手をヒラヒラと振ると、ウインクひとつ。

それだけでニヘラ〜〜と顔を歪め、テーブルに突っ伏すと
“か、可愛いっ!マジ可愛すぎじゃねーかぁぁ!”
と、言わんばかりにテーブルをガンガンと叩いて
“俺、やっぱりカオリが好きだぁぁ〜〜”
と、海に向かって叫び兼ねないくらいにメロメロに骨抜きにされたアホ男を目の端に止め、そして店を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


自宅に戻って、リビングのドアを開ける。
「あ、やっぱ部屋寒いね」
そう言って身を縮めた香は暖房器具のスイッチに手を伸ばして電源を入れた。

「お前、どうするの?」
「何が?」
「随分、楽しそうにしてたじゃないか。アイツと行くのか?」
「さぁ、どうかしら?」
イタズラっぽく微笑む彼女は“してやったり”顔。

「でも見に行きたいなぁ・・・イルミネーション」

羽織っていたコートを脱いでベランダのある窓へと近づいた。
カーテンを引きながら俺を振り返る香の躰を後ろから抱き締める。



illust奈瀬さん


「ね、撩」
「何だよ?」
「・・・撩が行くなって言ってくれたら行かないけど」
「お前がアイツに断ればいい事だろうが」
「あたしがミックとデートしても撩は平気なの?」
「・・・・・・」
「じゃ、今度あたしを連れて行ってくれる?」
「・・・ああ」
「ほんと?」

俺の腕にコトンと頭を預けてくる香の顔に指を引っ掛けて俺の方に向ける。
薄くリップを引いた形の良い唇、そして香はゆっくりと瞳を閉じた。

“いつまでも煮え切らないふたり”

そう、友人各々には未だに思われてるが


残念だったな。


実はもう・・・・コイツとはイク所までイっちまってるんだなーこれが。

ふん、ざまーみやがれ。


とは言え、こんな時期にアイツらに知れたら、
今度はどんな冷やかしが待ってるか予想出来るってもんさ。
冗談じゃねぇ。


だから暫くは、ふたりだけの秘密だ。

end

*いつも仲良くして貰ってるジルさんより頂きました。
 ジルさんは最近、奈瀬さんとコラボっているのは皆さんご承知でしょうが
 まさかうちにまできてるくれるなんてー(感涙)

 皆さんのクリスマスも素敵な日になりますように。

 

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