It a beautiful day

ぱたぱたぱたと階段を軽やかに上がる音が聞こえる。
(あぁ、もうそんな時間か…)
あと、1歩、2歩、3歩っと…
自室のドアが開く。

「りょー、起きてっ!!もう、何時だと思ってるのよっ!!」

いつもの彼女の声が聞こえる。
うっせーな、お前の声だと起きるもんもおきれねーんだよな、なんかさ、ほら
落ち着くって言うか、起きる気にさせないつか、もう一度眠くなるつーかー。
声がさー、軽やか爽やか明るすぎんだよね、お前の声は。

「ちょっと、僚、聞いてる?朝ご飯片づかないんだからさ、起きてよ、ね?」

俺の部屋の窓を全開にして、空気を入れ換える。
振り返りざま、風が彼女の髪を軽くたなびかせる。
サラサラと流れる髪とちょっと膨らんだ頬が可愛い…なんてな。

「昨日、寝るの遅かったんだからまだ、寝かせてくれよ…」
「だめだってば。今日は依頼がある気がするのよっ!!しゃきっとしてよ」

もう眠気なんて飛んで行ってるんだけどな。からかうのが楽しくてしょうがない。

「ぐえっっ!!」
「へっへへーん。思い知ったか〜。起きた?ほらリビング行っててば」

香が寝ている俺の上に体重をかけて、飛び込んできた。
ま、全然重くはねーんだけどよ。
しかし嫁入り前の娘が男の部屋に入ってきて、その上無防備に飛び込んでくるってのは
どうだろーねー。育て方間違えたんじゃねーの、槇ちゃん。
俺の掛け布団を嬉々としてまくり上げる姿をみていると、そう思わずにはいられない。
ま、香らしいちゃ、らしいんだが。


「はぁ〜、年明け早々嫌な感じだわ…」
香と連れだって行った新宿駅に依頼なんぞ「依」の字もなく…
香はさっきから「はー」「ふー」とため息ばかりをついている。
「ほら、んな辛気くさい顔ばっかしてると今年もヨメにいけんぞ」
「な、なによ。辛気くさいなんて!!し失礼しちゃうわ。僚だってオヤジ化してきてるじゃん!」
「な、んだとー!!万年はたちの爽やか青年の僚ちゃんになんてこと言うんだ」
「ばっかじゃない。現実見た方がいいよーっだ」
香はあっかんべーをして小走りにスーパーに向かう。
暗くなったり、怒ったり忙しいもんだ。
調子に乗って走っていた香が歩道の縁に足を引っかけた。
「きゃっ」
こける前に香の後ろに回り込み支える。
(お、軽い、もっと栄養つけなきゃいかんな)
「調子にのってると、転ぶよ、お嬢さん」
「あ、うん、ありがとう…」
香の照れた様子にこっちが笑顔になる。

「ふ、ふふふ〜♪」
「なんだよ、不気味な笑い方してよ」
香は白い息を吐きながら、頬をまっ赤に染めている。
頭に被った白いニットキャップ、耳の所まで垂れている耳当てがひらひらと軽やかに揺れている。
「だって僚が買い物に一緒に来てくれるなんては思わなかったんだもん」
「おまーが、ハンマーで脅すから…、僚ちゃん年始めのナンパに繰り出そうと思っていたのに…」
「なにっ!!あんたが考え無しに食べちゃうから冷蔵庫すぐ空になっちゃうんだよ?
年末の大売り出しでたっくさん買って置いたのに全部たべちゃうんだもん、信じられない、もぅ」
さっきまで笑顔だったのに、もうふくれっ面だよ、忙しいーやつ。
「だから付き合ってるだろーが…」
「うん、ありがとう」
ほら、また、もう笑ってら。
その顔を見ながら俺も笑顔になるのは止められない。
スーパーに行くあいだにも彼女は商店街のおばちゃんやら、オヤジ、はたまたギャルちい女子高生
こまかい小学生のガキんちょ、ティッシュ配りの金融もっこりOLさんに声を掛けられまくって
歩くスピードが遅いったらありゃしない。あ〜またか、勘弁しろよ。
「あー、香ちゃーんっ!!彼氏↑〜?」
ブレザーを着崩した茶髪の男子高生集団に声をかけられてる。
「ち、違うよ、彼なんかじゃないもん。あんたたち何してるのよ、冬休みでしょ?」
高校生なんかにからかわれて顔を赤くしてやがる。
「俺らは予備校。いいねー、香ちゃんは彼氏とラブラブで〜」
「じゃ、彼氏と仲良くね〜」
香の声を掛けていた高校生は俺にちょっと頭を下げて、そろって香の頭を軽く叩きながら
街中に紛れていった。
ったく、気安く香の頭触ってくんじゃねーよ。
「おまぁ、あんなのにからかわれてんのかよ。しょーがねーなー」
「か、からかわれてなんかないもんっ!!ほら、タイムセール始まっちゃうんだから急いでよっ!」
顔をまっ赤にしたままニットキャップを押さえて足早にスーパーに向かっていく。
ホント変わらないね、おまぁは。

「ねー、僚。タバコの在庫ってあといくつくらいあったけ?」
スーパーのカゴ2つを一杯にして持っている俺に聞く。
香の下げているカゴも、もう肉やら野菜やらで一杯だ。
「あん、覚えてねーよ、んなの」
「えー、タバコは自分で管理してねっていったじゃん、もう…じゃ一個でいいかな〜」
カートンを手に取り、カゴに無理矢理詰め込もうと格闘している。
見ていられなくて棚に並んでいるタバコをもう一箱手に取ると香の手からも
タバコを取って自分のカゴに入れた。
「あっ」
「僚ちゃんイイ子だから自分のモノは自分で持つんだよ〜っだ」
意外そうに俺を見る香の目を見ていられなくて、さっさとレジに向かう。
「ちょっと僚、待ってよ〜、戻ってきて〜」
パタパタと付いてくるかと思ったら、後ろの方で俺を大声で呼ぶ香の声が聞こえる。
頭だけ動かして香がいるだろう所に目を遣ると泣きそうな顔でこっちを見ていた。
(なんだぁ?)
重いカゴを抱え直して、殺気だったおばちゃんたちに睨まれつつ人並みに逆らって香の方へ歩く。
「何やってんの、おまぁ」
香はカゴを足下に置いて中腰の格好で両手をめいっぱい広げてティッシュの箱を押さえている。
「さっき小さい男の子がここで転んだの、その時にその子が振り回してたおもちゃが
当たって…。もぅ、僚のん気に見てないで直すの手伝ってよぉ」
泣きながらもふてくされて上目使いで俺をみる。
笑いが堪えられないが、それを香に見つかったらハンマーは確実だな。
俺は苦笑いを浮かべながらカゴを置いて、一緒にティッシュを積み直した。
「…で、コレを崩したガキはどこにいったんだ」
「わかんない…男の子の上にティッシュが崩れそうだったから、そっちに気とられてたら
もういなかったの」
「はぁ、そんで香ちゃんがこんな目にあってるわけね」
最後の一箱を積み上げて、香の頭をぽんと軽く叩いた。
「う…でも怪我も無かったみたいだし、よかった。僚手伝ってくれてありがと」
「どういたしまして。ほれ、さっさと会計して家かえろうぜ、腹減った」
「うん、今日は何食べたい?」
カゴを手に戻して、俺のジャケットを掴む香。
「うーん、分厚いトンカツ」
「えー、豚肉買ってないよ〜☆」
笑いながら俺に付いてくる。端から見ればどこにでもいるカップルに見えるだろうか…
そんな事を思いながらジャケットを掴んでいた香の手をとり
俺のジャケットのポケットに香の手を入れた。

毎日毎日くるくると変わるあいつの表情。
その顔をずっと見ていたい。
俺に見せて欲しい。ずっと見続けることができるのならば俺は何でもするから…よ。
ま、ハンマーだけは勘弁だけどな(笑)

終わり

 

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はつキリリクを申告してくださいました、なる様に捧げます。
リク内容は「僚からみた香の魅力」でした。
頑張ったのですがリクに応えられていない…ごめんなさい(泣)
7979getありがとうございました。