報酬のゆくえ

「はぁぁ〜、やっぱ今月も赤字だぁ。もうなんでいっつもこうなんだろう…」

まだ陽の高い昼下がり、香はいつものリビングではなく自分の部屋で家計?のやりくりに頭を悩ませていた。
電卓を机のすみに追いやり、おでこをこすりつける。
「どう考えても、おかしいのよね〜。なーんで僚の遊んだツケを冴羽商事の経費で落とさなくちゃいけないのよ〜」

これが無ければ、毎月毎月(僚が依頼をえり好みしたって)収支トントンくらいには
なるはずなのにな。なのに実際といえば毎月毎月公共料金の支払いにも事欠く始末…ありえなーい。

香はもう一度大きなため息を付いてから、おもむろに立ち上がりドレッサーの引き出しを開ける。

そこには…大好きな兄貴の形見の指輪ケース。

それをそっと取り出すとドレッサーの上に置き、引き出しの奥に手を伸ばす。
そこから取り出したのはいつも使っている財布とは違う、ピンクの小花が角に刺繍されている
茶色の革の財布だった。
香はそこから2万円を取り出し、いつもの財布に入れる。
こちらは「エリ・キタハラ」ブランドの財布でシーズンごとに彼女が新作を送ってくる。

「オオバカ僚のせいで、またこっちから持ち出しじゃないっ!!」

 

裏の世界に居ながら将来を考えて貯金する香の姿を僚が見たら…笑うだろうか、それとも呆れるか、哀しむか…


香は一人ぐちをいいながら、革の財布をもとあった場所にしまう。
革の財布に入っているのは香の成功報酬だ。

といっても香が僚にだまって他の仕事をしているとかそういう事ではなくて…

乱暴に家計簿を開き、また格闘を始める香。

「だいたいさ、なんで報酬の半分は僚がいっつももっていくよーっ!!」

そう、僚と香の報酬はちゃんと振り分けられている(らしい)のだ。

まず、報酬をもらうでしょ。

これは先払いと(何故か美人の依頼人の時はコレが多くて、依頼料が公共料金の滞納が先に引き落とされちゃって、依頼を断れないのよ…とほほ)
依頼が終わってからって2パターンがあるんだけど。

どっちにしても報酬を分けるのは仕事が片づいてから。
そしてその報酬がいくらであっても、とりあえず僚に半分渡すの。
まぁ社長だし、労働担当だし…情報屋さんや武器類の支払い・手配も僚がやってるしそれらの相場がいくらかなんて私は知らないからそれは
しょうがないって思ってる。

で、残った半分が私。ってことにならないのよ。
うちは事務所と住居が一緒だから、その経費がかかるのよ(電話とか電気とか、食費とか?)
だから残った額の半分がその経費で、半分が私のお給料って事になってる。

一応。そ、いちおう。

だって、だってだって依頼のないときはずううううううっと無いし、ばかみたいな大食漢はいるし。
その大食漢は毎日毎晩飲み歩き…。
だからいいいいいいいいいつも、赤字なのよね、我が冴羽商事…

そんな時は今みたいに私の報酬分から引っ張ってくる。だって、食べない訳にはいかないし。
え、僚から生活費もらえばいいって?
そ、そんな…だって、ねぇそれって、ふ、夫婦みたいじゃない///
わ、私たちはパートナーだから。そ、それはできないの。

ただ…僚の…いわゆる『仕事』の報酬は私は一切預かり知らない事で。
だから僚がその報酬は全部得ているんだけど。
その仕事は危険な仕事だし、きついし辛いし。いろいろ知らない経費もかかるだろう。それは何となく理解できる…
できるけどさ。その報酬を回して欲しいとまでは思わないけど、だけどね。
せめて自分の「ツケ」くらいはソッチでどーにかしてくれないかなーって思うわけよ。

だって僚の遊ぶお金まで『冴羽商事』の経費で落とすってのは違うでしょうよっ!!!!

やりくりに頭を悩ませ、またその原因の張本人にイライラとしてきた。

毎晩、こっそりと帰ってくる彼を確認するたびにホッとして。
だけど、それはそれとしてこんな小さな事であたしはイライラとしてしまう…

今、僚はせっせとナンパに明け暮れているだろう、あたしがこんなに頭を抱えてるってのに。
戻ってきたらでっかいハンマーお見舞いして、午前中に受けた依頼の話をしよう。
もち、男性の依頼だけど、もう90日も仕事してないんだから、受けてもらうわよー。

僚の嫌がる顔を想像して、一人ニヤける。
もうご機嫌は直ったみたいだ。

家計簿を閉じ、ハンマーを受ける彼のためにコーヒーをいれようとリビングに向かう。


終わり